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第7話 緊急クエスト【家計防衛戦線】発令!

 ケモミミ少女(+猫)との同居生活。字面だけなら桃源郷だが、現実は甘くない。特に、俺の財布にとっては地獄そのものだ。


 ルナ様(猫):「健太、今日の夕餉は刺身が良いのじゃ。それも大トロで頼む」

 リコ(犬):「主殿! わたくし、昨日テレビで見た『すてーき』なるものを食べてみたいです! 300ぐらむくらい!」

 シズク(狐):「相川殿、この『まっくぶっく』なる板、わたくしの調査研究に有用と見ました。購入の予算を…」


 ……お前ら、俺をなんだと思ってんだ!? 石油王か何かか!?


 食費だけでもヤバいのに、リコとシズクの人間界用ファッション(主に変装用)も必要だ。パーカーだけじゃ季節的にも限界がある。Tシャツ、ジーンズ、スカート…女子の服ってなんであんなに高いんだよ!


「…ぐふっ」

 月末を待たずして、俺の銀行口座残高は瀕死の重傷を負った。コンビニ深夜バイトだけじゃ、どう考えても足りん!


「やるしか…ねえか…!」

 俺は悲壮な覚悟を決めた。深夜バイトに加え、大学の空きコマや土日を利用して、日雇いの引っ越しバイトや、時給の良いイベント設営スタッフのバイトを詰め込み始めたのだ。駅前のティッシュ配りだってやったぜ……!


 当然、俺の肉体は悲鳴を上げた。慢性的な寝不足。全身筋肉痛。目の下のクマは、野生のパンダもびっくりの濃さだ。ふらふらになりながらアパートに帰ると、ケモミミたちが心配そうな顔で出迎えてくれる。


「健太、顔色が紙のようじゃぞ? 大丈夫か?」

「主殿! また無理をなさいましたね!? わたくしがおぶって運びましょうか!?」

「相川殿、隈が酷い。睡眠不足は判断力を鈍らせます。休息をお勧めします」


 三者三様の心配。……くっ、その優しさが、今の俺には沁みるぜ……


 だが、俺の無理は隠しきれていなかったらしい。ある日の夕食(もやし炒めオンリー)の後、リコがおずおずと切り出した。


「あの、主殿…! もしかして、わたくしたちのせいで、その…お金が…?」

「む…? そういえば最近、食卓から肉が消えた気がするのじゃ…」


 ルナも訝しげに呟く。シズクは冷静に俺の顔色と食卓の内容を分析していたようで、静かに頷いた。


「やはり。相川殿の疲労困憊ぶりと、食卓の質の低下。家計が逼迫していると推察するのが妥当かと」

「うっ…」


 図星だ。誤魔化そうにも、証拠が揃いすぎている。


 俺が正直に経済状況の厳しさを話すと、リコがガバッと立ち上がった。


「それなら、わたくしたちもお手伝いします! こちらの世界でも、働けばお金というものが貰えるのでしょう!?」

「ほう、それは良い考えじゃな、リコ!」


 ルナも乗り気だ。いや、猫の姿のお前には無理だろ……。


「わたくしなら、この体力と俊敏性を活かせます! 引っ越し作業でも、工事現場でも、あるいは『ようじんぼう』のようなお仕事でも!」

 目を輝かせて言うリコ。いや、そのスペックは人間離れしすぎてて逆に怪しまれるから! 耳と尻尾どうすんだよ!


 一方、シズクは冷静に自分の顎に手を当てていた。


「肉体労働は、我々が異世界の者だと露呈するリスクが高いでしょう。ここは、わたくしの知識と技術を用いるべきかと」

 シズクは俺のノートパソコンを借りると、凄まじい速度でキーボードを叩き始めた。


「例えば、わたくしが持つ薬草学や簡単な治癒魔術の知識を、こちらの世界の言葉に翻訳し、匿名で『ぶろぐ』なるものに公開すれば、広告収入が見込めるやもしれません。あるいは…」


カタカタカタッターン!


「この『ぷろぐらみんぐ』なる技術を習得すれば、在宅での業務委託も可能かと。ふむ、言語構造は我々の世界の古代魔法陣に類似性が見られますね…解析は容易いでしょう」


 マジかよ、この狐娘、ハイスペックすぎんだろ!


 数日後、シズクは宣言通り、異世界知識(当たり障りのない範囲で)をまとめた匿名ブログを開設したり、どこから見つけてきたのか、データ入力の内職的なバイトを請け負ったりし始めた。その結果……


「相川殿、今月の収益です。約5000円ほどの収入になりました」

「おお! すごいじゃないかシズク!」


 五千円! されど五千円! 俺の血と汗と涙のバイト代に比べれば微々たるものかもしれないが、それでも大きな一歩だ!


「お前ら…ありがとな」

 俺が素直に礼を言うと、リコは「主殿のお役に立てて嬉しいです!」と尻尾をブンブン振り、シズクは「当然のことをしたまでです」とクールに返しつつも、狐耳を嬉しそうにピコッと動かした。


 そんな二人を見て、ルナは少しだけ悔しそうに床を前足でカリカリしていた。


(くっ…妾が本来の力を取り戻せれば、国庫の一つや二つ…! いや、今はそんなことより…妾にも何か、健太の役に立てることはないのか…?)


 プライドの高い王女様も、仲間のために何かしたい、と思い始めているようだった。


 ケモミミ少女たちの健気な協力のおかげで、我が家の家計防衛戦線は、ほんの少しだけ明るい兆しが見えてきた。……まあ、根本的な問題は何一つ解決してないんだけどな!


 追手の影、ルナの魔力回復と呪術解除、そして異世界への帰還……。問題は山積みだが、こうして皆で力を合わせれば、なんとかなるのかもしれない。


 ……なんて、ちょっとだけ前向きな気持ちになった、そんな夜だった。

この小説はカクヨム様にも投稿しています。

カクヨムの方が先行していますので、気になる方はこちらへどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16818622172866738785


もしくは・カクヨム・ケモミミ神バステト様・で検索ください。

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