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第6話 狐も来たぞ! ウチは異世界難民キャンプか何かか?

「おいルナ、あやつって誰だよ!? まさか、また追手か!?」

「落ち着け、健太。ルナ様が『厄介なような、頼もしいような』と仰ったのだ。敵ではないはずじゃ…たぶん」

「たぶんってなんだよ、たぶんって!」


 俺とリコがルナに詰め寄っていると、コンコン、と控えめなノックの音がアパートのドアに響いた。三人(一匹と二人)の視線が一斉にドアに集まる。来たか……!


 俺はゴクリと唾を飲み込み、そっとドアスコープを覗く。そこに立っていたのは……え、美少女?


 警戒しつつドアを少し開けると、そこには息を呑むほど綺麗な少女が、静かに佇んでいた。

 腰まで届く艶やかな黒髪。切れ長で涼しげな目元は、どこかミステリアスな雰囲気を醸し出している。肌は白く、スラリとした長身で、体のラインが綺麗に出る、どことなく巫女装束を思わせるような、落ち着いたデザインの服を着こなしていた。


 そして何より目を引くのが、その頭部からピンと伸びた、黒く艶やかな狐の耳と、背後でゆらりと優雅に揺れる、これまた見事な一本の大きな尻尾だ。


 リコの元気いっぱいな犬属性とは真逆の、クールで知的な狐属性美少女、爆誕である。


 少女は俺の顔を認めると、感情の読めない落ち着いた声で、丁寧に頭を下げた。

「突然の訪問、失礼いたします。わたくし、ルナ・フェリシア様にお仕えしております、シズクと申します」


 シズクと名乗った狐耳少女は、俺の背後にいるであろうルナとリコに向けて続ける。


「ルナ様、リコ殿の微かな魔力の痕跡を辿り、ようやくここまで辿り着くことができました。ご無事なご様子、何よりに存じます」


 ……なんか、リコの時とデジャヴを感じる展開だな、おい。


「おお! シズクではないか! よくぞ参った!」

「シズク殿! ご無事でしたか!」


 ルナとリコは、知り合いの登場に安堵の声を上げる。どうやら本当に味方らしい。俺は警戒を解き、シズクを部屋へと招き入れた。……また一人、同居人が増えるのか、という諦観と共に。


 部屋に入るなり、シズクはまずルナ(猫の姿)の前に跪き、恭しく頭を垂れた。


「ルナ様、わたくしの不手際により、このような事態を招き、申し訳ございません」

「よい、気にするなシズク。それより、王国の状況はどうなっておる?」


 ルナが問うと、シズクは立ち上がり、冷静かつ簡潔に現状報告を始めた。その内容は、俺の想像以上に深刻だった。


 王国の中枢は、ルナを追い落とした宰相派によって完全に掌握されていること。ルナ様の暗殺を狙う追手が、複数こちらの世界に送り込まれている可能性があること。そして、ルナ様が人型になれないのは、やはり魔力枯渇が大きいが、逃亡直前に宰相派の魔術師によって何らかの『力の流れを阻害する呪術』をかけられた可能性も否定できない、ということだった。


「…呪術、だと?」

 俺が息を呑むと、シズクは静かに頷いた。


「はい。わたくしの専門外ゆえ断定はできかねますが、ルナ様の魔力の流れに不自然な淀みを感じます。魔力が回復しても、この淀みを解消せねば、完全な状態には戻れないやもしれません」


 マジかよ……。ただの魔力切れじゃなかったのか。問題、さらに複雑化してんじゃねえか!


「だが、希望もあります」

 シズクはそう言うと、俺の部屋に置いてあるノートパソコンに視線を向けた。


「こちらの世界には、『いんたーねっと』なる驚異的な情報網が存在するとのこと。これを解析・利用できれば、呪術の解除方法や、魔力を効率的に回復させる手段、あるいは王国の現状を探る糸口が見つかるかもしれません」

 いつの間にか俺のスマホを手に取り、超高速でフリック入力しながらそんなことを言うシズク。おい、いつの間に使い方覚えたんだよ!?


「幸い、わたくしは情報収集と分析、そして多少の魔術的なハッキング……いえ、調査を得意としておりますので」

 涼しい顔で、さらっと物騒なことを言うな、この狐娘!


 ともかく、知識と技術を持つシズクの加入は、現状打破の大きな一歩になるかもしれない。ルナの魔力回復や呪術解除、追手対策について、ようやく具体的な道筋が見えてきた気がする。


 ……まあ、その結果。

 俺のアパート(六畳一間)に、猫(王女)一匹、犬(護衛)一人、狐(側近)一人、そして俺という、ぎゅうぎゅう詰めの異文化交流シェアハウス(?)が完成したわけだが。


「主殿の淹れてくださるお茶は美味しいですね!」(リコ)

「ふん、まあ悪くない」(ルナ)

「この『こーひー』という黒い水も、なかなか興味深い味です」(シズク)


 女子(?)三人に囲まれて、お茶くみ係と化している俺。

 ……いや、いいんだ。これも、世界(と俺の平穏な日常)を取り戻すためだ…。たぶん。


 賑やかさ(というか騒がしさ)と、俺の胃痛は、さらに加速していくことになりそうだ。

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お読みいただきありがとうございました。

この作品をオーディオブック化してみました。

良ければ聴いてください。

https://youtu.be/VCuoImMK8WM


ルナ様(人間スタイル)のイラスト付き【AIイラスト】

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― 新着の感想 ―
途中まで読ませていただきました! 異世界の住人が逆に現実世界に訪れるという点では、 この間まで放送していた、愛重ダークエルフを 連想して面白かったですね! 特に黒髪キツネ耳少女のシズクちゃんが好みです…
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