第4話 美少女(犬耳付き)の破壊力がヤバい件
「…ここが、ルナ様が新たに見つけられたお城…なのでありますか?」
俺のボロアパート(築ウン十年、六畳一間風呂トイレ共同)の玄関先で、リコは目をぱちくりさせていた。まあ、そうだよな。さっきまで「お城」とか言ってたもんな。現実とのギャップにショックを受けてるか?
……と思いきや。
「なるほど! 質素倹約を旨とされるとは、さすがはルナ様! 華美を嫌い、民草と同じ目線に立とうとされるお心遣い…! このリコ、感服いたしました!」
キラキラした瞳で、なぜか感動している!? ポジティブシンキングにも程があるだろ! しかも全部勘違いだし!
まあ、深くツッコむのはやめておこう。疲れるだけだ。
俺は二人(一匹と一人)を部屋に招き入れた。キャリーバッグからルナを出すと、リコは改めてルナの前にひざまずく。
「ルナ様! ご無事なお姿、何よりです!」
「うむ、リコ。お主も無事でなによりじゃ」
猫の姿のルナと、犬耳少女リコの感動の再会シーン。…うん、シュールだ。
ここで俺は、ようやく新しい同居人(?)をまじまじと観察する余裕ができた。
リコ、と名乗ったこの犬耳少女。……いや、マジで可愛いな、おい。
まず目に飛び込んでくるのは、ピンと立った犬の耳と、腰のあたりから元気よく揺れているふさふさの尻尾だ。色は艶やかな赤茶色で、丁寧に手入れされているのが分かる。耳は感情に合わせてぴこぴこ動き、尻尾は嬉しそうにブンブン振られている。 ケモミミ&尻尾属性、破壊力たけぇ……
髪も耳や尻尾と同じ、太陽の光を吸い込んだような明るい赤茶色。それを活発そうなツインテールにしていて、動きに合わせてぴょこぴょこ揺れるのがまた可愛い。
顔立ちは、くりくりとした大きな鳶色の瞳が印象的だ。子犬みたいに人懐っこくて、好奇心に満ちた輝きを放っている。今は俺に向かってニパッと笑いかけてくれているが、その笑顔がまた太陽みたいに眩しいんだ。健康的で、見てるこっちまで元気をもらえるような、そんな笑顔。
服装は、動きやすそうなショートパンツに丈夫そうなシャツ、その上に革っぽいベストを羽織っている。異世界の服装なのか、ちょっとファンタジーっぽいデザインだけど、それが彼女の元気でスポーティーな雰囲気にめちゃくちゃマッチしてる。露出した腕や脚は、無駄な肉がなく引き締まっていて、護衛役という言葉に説得力を持たせていた。しなやかで、バネがあって、それでいてちゃんと女の子らしい柔らかさも感じさせる絶妙なバランス。身長は俺より少し低いくらいか?
総じて言うと、エネルギッシュな健康的美少女。元気いっぱいな後輩キャラ、みたいな? いや、こいつ俺のこと「主殿」とか呼んでくるんだった。後輩じゃねえな。……なんだこの可愛い生き物。
俺がリコの観察に没頭していると、淹れたばかりのお茶をテーブルに運ぼうとしたルナ(猫の姿だが、なぜか自分で運ぼうとした)が、にゃんとも情けない感じで足を滑らせた!
「にゃっ!?」
カップが宙を舞う! あっ、と思った瞬間!
シュバッ!
リコが、目で追えないほどのスピードで動いた! 気づいた時には、彼女は空中のカップを完璧にキャッチし、一滴もこぼさずにテーブルに着地させていた。
「おっと、失礼しました、主殿。ルナ様、お怪我は?」
「む、むぅ…油断したわ…」
何事もなかったかのように微笑むリコ。その動きの滑らかさ、俊敏さも、なんだか綺麗に見えてしまう。護衛役としての能力、ガチで高いんだろうな…。
そんなリコも、やはり異世界からの来訪者。部屋の中にある人間界の文明の利器には興味津々だ。
「主殿! この光る板は何ですか!?」
「冷蔵庫? 食料を冷やして保存できる!? 素晴らしい!」
「この『すまほ』というものがあれば、遠くの者とも話せるのですか!? 魔法みたいです!」
目をキラキラさせながら、子供みたいにはしゃいで俺に質問攻め。その無邪気な表情と、ぴこぴこ動く耳、ブンブン振られる尻尾のコンボは、正直言って反則レベルの可愛さだ。さっきまでのクールな戦闘モードとのギャップもヤバい。
……って、いかんいかん。見とれてる場合じゃねえ。
美少女(犬耳尻尾付き)が増えたのは、まあ、目の保養にはなるかもしれんが、問題は山積みだ。
まず、生活スペース。六畳一間に男一人、猫一匹、犬娘一人。……どう考えても狭すぎる!
次に、食費。ルナだけでもエンゲル係数がマッハだったのに、リコも加わるとなると……
こいつ、見た目通りめちゃくちゃ食いそうだし。
そして最大の問題は、どうやって二人の正体を隠すかだ! ルナは猫の姿で誤魔化せる(喋らなければ)としても、リコはどうする!? この耳と尻尾、どう考えてもコスプレには見えねえぞ!
「はぁぁぁ~~~……」
俺は天井を仰ぎ見て、本日何度目か分からない深いため息をついた。これからどうなっちまうんだ、俺の人生……
ふと見ると、部屋の隅でルナとリコがじゃれ合っていた。リコが尻尾を振ってルナにすり寄り、ルナは猫パンチ(ただし威力ゼロ)を繰り出しながらも、まんざらでもない様子だ。その光景は、なんだか微笑ましくて……
「まあ……賑やかなのは……いい、こと……なのか……?」
ほんの少しだけ、ほんのちょびっとだけ、このカオスな状況も悪くないのかもしれない、なんて思ってしまった俺がいた。
(続く)
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お読みいただきありがとうございました。
この作品をオーディオブック化してみました。
良ければ聴いてください。
https://youtu.be/VCuoImMK8WM
ルナ様(人間スタイル)のイラスト付き【AIイラスト】






