番外編 休日の特等席は、主殿のとなり!
激しい戦いが終わり、俺たちの日常には(比較的)穏やかな日々が戻ってきた。いや、人型になったルナ様が加わったことで、アパートの賑やかさ……というか騒がしさは、むしろパワーアップした気もするが。
今日の昼下がりは、珍しくその喧騒が嘘のように静かだった。ルナはシズクと一緒に、何か新しい人間界の文化(たしか『アフタヌーンティー』とか言ってたな)を体験しに出かけている。つまり、このアパートには今、俺とリコの二人きり、というわけだ。
俺はリビング(少し広くなった新居だけど、結局リビングでゴロゴロするのが一番落ち着く)のソファで、読みかけだった小説を開いていた。隣には、家事を終えたリコが「主殿、少し休憩してもよろしいですか?」と、少し遠慮がちに座っている。
「おう、お疲れさん。いつも助かるよ」
「いえ! 主殿のお役に立てるのは、わたくしの喜びですから!」
ニパッと笑うリコの笑顔は、やっぱり太陽みたいに眩しい。俺は自然と手が伸びて、その赤茶色のツインテールの間からぴょこんと覗く犬耳の付け根あたりを、わしゃわしゃと撫でていた。
「ひゃんっ……!?」
リコは一瞬びくりと体を震わせたが、すぐに心地よさそうに目を細めた。ふさふさの尻尾が、ソファの上で嬉しそうにパタパタと揺れているのが見える。その仕草が可愛くて、俺は撫でるのをやめられない。
「えへへ……主殿に撫でてもらうの、大好きです」
「そっか。リコは頑張り屋だからな、偉い偉い」
「もう、子供扱いしないでください!」
頬を膨らませるリコ。だが、その表情も満更ではないようだ。俺たちは、他愛ない会話を交わしながら、穏やかで温かい時間を過ごしていた。
どれくらいそうしていただろうか。隣のリコの気配が、やけに静かになったことに気づく。そっと視線を向けると…
「……すぅ……すぅ……」
リコは、俺の肩にこてん、と頭を預け、安心しきった顔で寝息を立てていた。
……マジかよ!
俺の心臓が、ドクン!と大きく跳ねた。近い! リコの寝顔が、めちゃくちゃ近い!
すやすやと穏やかな寝息。少し開いた口元。長いまつ毛。そして、時折ぴくりと動く犬耳…。普段の元気いっぱいな姿とは違う、無防備な寝顔は、反則級に可愛い。俺の肩にかかる髪からは、シャンプーの甘い匂いと、リコ自身の太陽みたいな温かい匂いがして、くらっとしそうだ。
動けない。動いたら、この可愛い寝顔を起こしてしまう。
俺は硬直したまま、リコの寝顔をじっと見つめていた。その温もりを、重みを、すぐそばに感じる。なんだか、胸の奥がくすぐったいような、それでいて満たされるような、不思議な感覚。
(……俺だけの、リコ……なんて言ったら、怒られるかな……)
そんな独占欲にも似た感情が、ふと頭をよぎる。この一生懸命で、太陽みたいに明るくて、ちょっと天然で、めちゃくちゃ可愛い犬娘が、今、俺の隣で、俺を信頼しきって眠っている。その事実が、どうしようもなく愛おしい。
しばらくして、リコの犬耳がぴこぴこと動き、ゆっくりと目が開かれた。
「ん……あれ……?」
寝ぼけ眼で状況を把握した瞬間、リコの顔がボンッ!と音を立てそうな勢いで真っ赤に染まった!
「ひゃーーーーっ!? す、すみません、主殿! わ、わたくし、いつの間にこんな……!?」
慌てて俺から飛びのき、顔を手で覆ってあたふたしている。その狼狽ぶりもまた、可愛いと思ってしまう俺は、もう末期かもしれない。
俺は照れ隠しに、わざとからかうような口調で言った。
「ん? よく寝てたぞ。気持ちよさそうだったな」
「~~~っ!!」
リコはますます顔を赤くして、うーうー唸っている。
「それに……」
俺は続ける。
「リコの寝顔、めちゃくちゃ可愛かったぞ」
「~~~っ!! か、かか、からかわないでください、主殿!!」
ついにキャパオーバーしたらしいリコが、涙目で叫んだ。
「そ、そそ、それより! 今日の夕方の特訓! 約束ですからね! 絶対ですよ!?」
必死に話題を変えようとしているのが見え見えだ。
「はいはい、分かってるよ」
俺はくすくす笑いながら頷いた。
照れて怒ってるリコも、やっぱり可愛い。
二人きりのアパートには、少し気まずいような、でも、とてつもなく甘い空気が流れていた。
この穏やかで、ドキドキして、幸せな時間が、これからもずっと続けばいい。
俺は心からそう願いながら、赤くなったリコの耳を、もう一度だけ、そっと撫でた。
(番外編・了)
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お読みいただきありがとうございました。
この作品をオーディオブック化してみました。
良ければ聴いてください。
https://youtu.be/VCuoImMK8WM
ルナ様(人間スタイル)のイラスト付き【AIイラスト】




