第19話 嵐の前の静けさ? クールな狐と過去の影
温泉旅行から数日。俺たちのアパートには、嵐の前の静けさ、とでも言うべき奇妙な日常が流れていた。
ルナ(猫)は霊泉の効果か、以前より少しだけ毛艶が良くなった気がするし、俺への態度も心なしか柔らかい(気がする!)。リコは俺との秘密特訓の成果か、パワーだけでなく動きにキレが増した(ように見える!)。シズクは相変わらずパソコンに向かい、ルナの呪印解除と次のパワースポットに関する情報を猛スピードで収集・分析している。
ほんの少しだけ、状況は前進している。そんな小さな希望が、俺たちの中に芽生え始めていた。……そう、油断、と呼ぶべきものだったのかもしれない。
その日は、突然やってきた。
夕食を終え、俺が洗い物をしている時だった。
ドンッ!!!
アパートのドアが、外から何か巨大なもので打ち付けられたような、凄まじい衝撃音と共に弾け飛んだ!
「なっ!?」
「きゃっ!?」
「敵襲です!」
悲鳴と警告が同時に響く! 破れたドアから飛び込んできたのは、二つの人影!
一人は、見覚えのある蛇のような目つきの男――レイヴン!
そしてもう一人は、全身をしなやかな黒装束で覆い、両手に奇妙な形状の短剣を持った、小柄で素早い動きの女! こいつも『牙』級か!?
「こんばんは、皆様。少し早いですが、お迎えに上がりましたぞ」
レイヴンが歪んだ笑みを浮かべる。
「さあ、大人しくルナ・フェリシアをこちらへ。そうすれば、無駄な争いは避けられます」
黒装束の女は何も言わないが、その視線は冷たく、明確な殺意を放っている。
「誰が渡すかぁ!」
リコが吼え、真っ先に飛び出す! 鋭い爪を繰り出し、レイヴンに襲いかかる!
「懲りない番犬ですねぇ!」
レイヴンはガントレットで受け止めつつ、黒装束の女に目配せする。
「させません!」
シズクが即座に対応! 手のひらから放たれた魔力の障壁が、リコを狙おうとした黒装束の女の短剣を防ぐ!
狭いアパートの中で、激しい戦闘が始まった!
家具が薙ぎ倒され、壁に穴が空く! リコが縦横無尽に駆け回り、レイヴンと激しい打ち合いを繰り広げる! シズクは幻術や防御魔術でリコを援護しつつ、黒装束の女の素早い攻撃を捌く!
俺はルナ(猫)を抱きかかえ、部屋の隅で身を隠しながら、必死に応戦の機会を窺う! 消火器! いや、まずはフライパンか!?
だが、敵は二人! しかも連携が取れている!
レイヴンがリコを力で押し込み、黒装束の女がその隙を突いてシズクに高速で接近する!
「シズク殿、危ない!」
リコが叫ぶ! シズクも迫る短剣に気づき、防御態勢を取ろうとするが……!
黒装束の女が、その手に持つ短剣から、不気味な紫色の光を放った!
それは物理的な攻撃ではない。精神に直接干渉するような、悪質な魔術……!
「――っ!?」
その光を見た瞬間、シズクの動きが明らかに鈍った! 普段の冷静沈着な表情が崩れ、目が見開かれ、呼吸が荒くなる!
「この……術は、まさか……あなたは『あの時』の!?」
シズクの声が震えている。
「シズク!?」
俺が叫ぶが、シズクには届いていないようだ。何か、過去のトラウマが呼び起こされたように、その場に立ち尽くしてしまっている!
「好機!」
レイヴンが叫び、その隙を見逃さなかった黒装束の女が、無防備なシズクへと鋭い一撃を放つ!
まずい!
「シズク殿ぉぉぉーーーっ!!」
リコが、自分の相手を振り切り、身を挺してシズクの前に飛び出した!
ザシュッ!
鈍い音と共に、リコの肩から鮮血が飛び散る!
「リコっ!」
「ぐっ……ぁ……!」
深手を負いながらも、リコは歯を食いしばり、シズクを守るように立ち続ける。
「シズクーーーッ!!」
俺も無我夢中で叫んでいた! ルナを安全な場所に押しやり、近くにあった安物の本棚を掴み上げ、敵に向かって投げつける!
「昔、何があったかなんて知るか! でもな、お前はもう一人じゃねえだろ! 俺たちが! リコが! ルナがいるだろうが!!」
ガシャン!と本棚が砕け散るが、敵には大したダメージはない。だが、俺の必死の叫びと、傷つきながらも立ち上がろうとするリコの姿、そしてルナの「シズク! しっかりせい!」という叫びは、シズクの心に届いたようだった。
「……っ! そう、ですね…!」
シズクはハッと我に返り、その紫色の瞳に強い意志の光を取り戻した!
「わたくしはもう…一人では、ありません…!」
シズクは残った魔力を振り絞り、両手を前に突き出す!
「防御結界、最大展開!」
アパート全体を包み込むような、強力な光の結界が出現! 追手二人の攻撃を完全に弾き返す!
「ちっ…結界術か…!」
レイヴンが忌々しげに呟く。
黒装束の女も、攻撃を諦めたように短剣を収めた。
「フフ…今日の目的は果たせました。シズク殿の『弱点』、確かに確認させていただきましたよ」
レイヴンは不気味な笑みを残し、黒装束の女と共に、再び影の中へと溶けるように姿を消した。
後に残されたのは、めちゃくちゃに破壊されたアパートの部屋と、傷つき、消耗した俺たちだけだった。
「リコ! 大丈夫か!?」
俺はすぐにリコに駆け寄る。肩の傷は深く、血が止まらない。
シズクもフラフラになりながら、リコに治癒魔術(応急処置レベルだろうが)を施そうとしている。その顔は青ざめ、精神的な消耗も激しいようだ。
なぜ、敵はシズクを狙うような攻撃を? シズクの過去に、一体何があったんだ?
深まる謎と、増していく脅威。
俺は、傷ついた仲間たちを見つめながら、自分の無力さと、これからどうすべきかという重い課題を、改めて突きつけられていた。
(続く)
この小説はカクヨム様にも投稿しています。
カクヨムの方が先行していますので、気になる方はこちらへどうぞ。
https://kakuyomu.jp/works/16818622172866738785
もしくは・カクヨム・ケモミミ神バステト様・で検索ください。




