第15話 クールな狐娘はサブカルがお好き!? 秘密の共有は深夜に…
あの心臓に悪い夜(物理的にも精神的にも)から数日。俺たちのアパートでの奇妙な同居生活は、一応の平穏を取り戻していた。いや、平穏とは程遠いドタバタな日常と言うべきか。
リコは相変わらず元気いっぱいに家事を手伝い(たまに皿を割りそうになるが)、公園で子供たちと遊び(体力差を考えてほしい)、俺に「主殿! 今日も鍛錬を!」と迫ってくる。ルナ(猫)は定位置の窓際か俺の膝の上で優雅に昼寝をしつつ、時折鋭いツッコミとわがままを発動。そして俺は、バイトと大学とケモミミたちの世話に追われる日々……。
そんな中、一番変化があったのは、クールビューティー担当の狐娘、シズクかもしれない。
彼女は相変わらず、俺のノートパソコン(もはや完全に私物化されている)に向かい、カタカタとキーボードを叩いて情報収集に勤しんでいる。ルナの呪印解除の手がかり、魔力回復に適したパワースポット、そして追手に関する情報…。その知的な横顔は頼もしい限りなのだが、最近、そのモニターに映し出される内容が、少しずつ変化してきていた。
最初は確かに、異世界の文献データベースや、こちらの世界の学術論文サイト、あるいは怪しげなオカルトフォーラムなどを巡回していたはずなのだが……。
「ふむ…この『魔法少女まどか☆マギカ』なるアニメ作品、可愛らしい絵柄とは裏腹に、因果律や魂の価値といった根源的なテーマを扱っていますね。非常に示唆に富んでいます」
「相川殿、この『ソードアート・オンライン』に登場する『フルダイブ技術』、我々の世界の精神感応魔術を応用すれば、あるいは……?」
「この『転生したらスライムだった件』……多様な種族との共存共栄、理想的な国家運営モデルと言えるやもしれません」
……おい、シズクさん? いつの間にそんなサブカルチャーにどっぷりと!?
最初は「情報収集の一環です」「こちらの世界の物語構造を理解するためです」とか、もっともらしい理由をつけていたシズクだったが、その目は明らかにガチだった。図書館で借りてきたらしいライトノベルの山。深夜にこっそり(俺のパソコンで)見ているアニメ。そして、いつの間にかインストールされていたオンラインゲームのアイコン……。
ある夜、俺が深夜バイトから帰ってくると、シズクがリビング(六畳間)の隅で、小さな明かりだけを頼りに、食い入るようにラノベを読んでいた。その真剣な横顔は、いつものクールさとは違う、物語の世界に没入している者のそれだった。
「……面白いか?」
俺が声をかけると、シズクはビクッと肩を震わせ、慌てて本を閉じようとした。
「あ、相川殿…! いえ、これはその…異文化理解のための調査で…」
「はは、別にいいだろ、面白くて読んでても。ちなみにそれ、俺も読んだことあるやつだ」
「え…本当ですか?」
意外そうな顔をするシズク。
それをきっかけに、俺とシズクの間には「サブカル」という新たな共通言語が生まれた。
俺がオススメのアニメを教えれば、シズクは「なるほど、この『日常系』というジャンル、起伏の少ない展開の中に人間の機微を描く高度な手法ですね」とか言いながら、きっちり全話視聴して詳細な考察レポート(!)を提出してきたり。
シズクが攻略に詰まったRPGのボスについて相談されれば、俺が「あー、そいつは火属性が弱点だから…」とアドバイスし、一緒に協力プレイで撃破したり。
「やりました、相川殿! さすがです!」
ボスを倒した瞬間、思わずコントローラーを握りしめてガッツポーズをするシズク。その普段は見せない無邪気な姿に、俺は思わずドキッとしてしまう。クールな表情が崩れ、年相応の(?)女の子らしい一面が垣間見える瞬間の破壊力は、マジでヤバい。ぴこ、と嬉しそうに動く狐耳が、さらにその可愛さを増幅させていた。
シズクも、俺とサブカルの話をしている時は、いつもより口数が増え、表情も心なしか和らいでいるように見えた。それは、単なる情報交換相手としてではなく、友人として、俺に心を開き始めている証拠なのかもしれない。
「シズク殿、最近楽しそうですね!」
そんな俺たちの様子を見て、リコは嬉しそうに笑う。一緒にアニメを見ようと誘うが、シズクの小難しい考察についていけず、大抵途中で寝てしまうのがお決まりのパターンだ。
ルナ(猫)は、「ふん、下らんことに現を抜かしおって…」と呆れたような顔をしつつも、俺とシズクが楽しそうに話しているのを、どこか羨ましそうに(?)遠巻きに眺めているのだった。
クールな狐娘の意外な趣味。それは、俺たちの間に新たな絆を生み出し、俺の心をさらに複雑にかき乱していく。
もちろん、サブカルに没頭する一方で、シズク本来の情報収集も着実に進んでいるようだった。
次はどんな情報がもたらされるのか? そして、リコやルナとの関係は…?
ケモミミたちとの、賑やかで、ちょっぴり甘酸っぱくて、やっぱりドタバタな日常は、まだまだ続いていく。
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