選択
展開……動いてるよな?
時刻は25時を回っていた。
今私は、見回りを兼ねて外の木の上で空を見ながらボーッとしている。
作戦会議については予定通り始まり、普通に30分くらいで終わった。
まぁ内容が明日の日程の確認と交渉がうんぬんかんぬん……って感じだから、私が出る幕はなかった。
「なんか疲れたなぁ……」
空に映る満月を見ながらつぶやく。月ではないんだろうけど。
地球のとさほど変わらないソレを見ていると、心の中が浄化されるみたいだ。
空気を読んでくれてか、異界人どころか異形獣の気配も感じられない。かれこれ30分くらいいるが、特に変化もない。
もうそろそろ大丈夫かなと思い、ゆっくりと腰を上げた。その時だった。
後ろ……いや下から声がした。
「おーい空ちゃーん!」
「ゲッ……忘れてた」
王原である。
私が気づいたのを確信してか、こちらに登ってくる。
「いやー、酷いヨ。時間空けといてって言ったじゃん?」
「アンタにくれてやる時間なんてないって事よ」
「わーお、辛辣」
相変わらず肩透かしなやつである。
「で、話ってなによ」
「聞いてくれるんだ」
「気が向いただけ。勘違いしないで」
「んふふ、じゃあお言葉に甘えて……と言いたいところなんだけど、1ついいかな?」
そう言うと、王原は立ち上がり、満月を隠すかのように私の前に立った。
「空ちゃんさ、この作戦、無事に終わると思う?」
「は?いきなり何よ、ソレ」
「いいからいいから」
終わるか、だって?そんなの……
「あっ、あったりまえじゃない!終わる!終わるに決まってる!」
「ハイ嘘吐きましたねー」
「う、嘘じゃないし!」
「ホントー?」
「ホント!」
「昼間のアレ見ても?」
「そ、ソレは……」
昼間の光景がフラッシュバックする。
思わず身をすくめてしまう。
「……まぁ、誰でもそうなるよネ」
「だからなんなのよ……!じゃあ、終われないって言えばよかったわけ!?誰かが怪我するとか、そんなの考えたくもないでしょ!?」
「アハハー、極端だネ。そうじゃないヨ」
くふふ、と気味の悪い笑い声の王原。
解らない。コイツが何を考えてるのか、何がしたいのか。
クルクルと三回転したところで動きを止めた王原は、耳打ちする。
「ボクと一緒に逃げ出さない?」
その瞬間、私の思考は停止した。
「は……え?本気?」
「うん、マジだヨ」
「アンタ……今自分が何言ってるのか、分かってるわけ?」
「でなきゃこんなこと言わないよ。空ちゃんだって薄々気づいてるんじゃないの?」
「何によ……?」
「ボクたちの居場所なんて、とうの昔からどこにもないんだって事」
「……?」
言葉の意味が分からなかった。
私たちの居場所がない?そんなわけが無い。私たちには帰る場所がある。皆が待ってるんだ。
はやく作戦を終わらせて、妹たちの元に戻るんだ。
思いっきり抱きしめて、離れ離れだった分、いっぱい遊んでやるんだ。そして夜は中身のない談笑で盛り上がって、いつの間にか寝落ちてて……そんな平和な日々を送るんだ。
「あれ、まさか空ちゃん分かってなかった?」
「分かるも何も……意味がわかんない!何!?アンタは私に何させたい訳!?」
「何って、さっき言った通り……」
「さっき言った通りって、それが意味わかんないって言ってんじゃない!」
怒りのあまり、私はまたもや胸ぐらを掴んでいた。
「……胸ぐら掴むの好きなの?」
「ほっといて!それより、説明しなさいよ。
まさかからかう為だけに、こんな下らないこと言ったんじゃないでしょうね?」
「まさか!ボクは本気で───」
「大変っなのでーす!!!!」
唐突、王原が発した言葉をかき消す程の大声が響き渡った。
聞き覚えのある声に視線をやると、何やら急いでる様子で私たちを呼ぶ未来の姿があった。
「どーしたの、未来ぃ!」
「キンキュージタイなのです!はやく降りてくるのですぅ!」
これまでにない焦りように圧倒された私は、胸ぐらを掴んでいた手を離し、渋々20mある木の上から飛び降りた。
「んで、そんな慌ててどうしたの?」
「そ、それが……お姉が……奈緒お姉が居なくなったのです!」
◆◇◆◇◆◇
「おねーちゃーん!」
「どこに行ったんですー!」
「返事しなよー」
屋敷の中で大声で叫ぶ一行。
未来の話によると、トイレに行くと言ったきり一時間戻ってこないとのこと。
未来も怪しく思い探してみたが、見つからなかったので私たちに相談しにきたのだ。
「にしても、改めて見ても広すぎだネ迷うなって無理な話だ」
「つべこべ言ってないで探すの!」
「へいへい」
明らかに不真面目な王原を叱りつけながらズンズン屋敷を踏み歩く。
しかし、王原の言っていることは正しい。この家、外から見ても相当デカイが、それ以上に中が広すぎる。
しかし、道が入り組んでいるとかそういう訳ではない。めっちゃ長い一直線に扉と階段が異様に多い。
変に階段を上がるとか扉に入ってるわけでもなく、一直線に進んでいるだけなので迷う心配はないと思うが、正直見つけられるか不安になってくる。
「マジで見つかんないね。結構歩いてるのに」
「そうね……ちょっと怖くなってきたわ」
もう10分ほど経っただろうか?
ギシギシと木床が軋む音が耳を通り抜ける。
古い家という訳ではなさそうだが、音も相まって暗い廊下は雰囲気が出ている。
「ねぇ未来、大体でいいからどこ探したのか教えてくれる?」
「お風呂とトイレ、客間については隅から隅まで探したのです」
「知ってる場所全部探してるじゃない……」
つまり探すべき場所は未踏部分……私たちだけで探すのはリスクが高すぎる。
それならいっその事、一旦部屋に戻って富嶽さんに相談した方がいいのでは?
「もーさ、めんどくさいから富嶽さんに探してもらわない?あの人ならこの家の全部知ってるでしょ?」
王原からの提案と思案が被る。
「珍しいわね。私も同意見」
「やっぱ?んじゃ戻ろーか。で、どこから来たんだっけ?」
「どこって、アンタバカァ?」
来た道をもどるだけなら、振り返って歩けばいいだけ。一直線に歩いてきただけだし───
「……あれ?」
振り返ると、そこは壁だった。
「廊下が、壁になってる?」
「そ、そんな……ありえないのです!さっきまでそこは廊下で……」
「そうよね。廊下があったはず」
壁を少し叩き、反射した音を確かめる。
深い、コンクリが詰まっている重厚感のある音。
一瞬で用意出来るようなものでは無い。まるで昔からそうであったかのように、壁はそびえていた。
「なーんかおかしいネ」
「えぇ、なんだか気味が悪い」
記憶をたどっても、特に扉を開けたり、階段を上がったことはない。ただ一直線に歩いてきただけ。
こんな不可解な現象が起こったということは、恐らくであるが
「異界人の仕業……?」
そう考えるのが妥当であった。
「空ちゃんもそう思う?」
「えぇ、未来はどう?」
「そうとしか考えられないのです。私も記憶を探ってみたのですが、明らかに屋敷の構造が変化しているとしか思えないのです」
未来の記憶と差異があるのであれば、間違いない。であれば、一刻も早くここを抜け出さなければならない。
「未来、王原、ここからは慎重に行くわよ。私が脱出経路は探し出すから、二人は周りの警戒をお願い」
「「了解」」
耳を澄ませ、音を聞き分ける。
家のあらゆる隙間から出てくる空気の流れや、反射音、音の響きから空間の構造を予測する。
階段や扉の中、反射する音はどこもおかしく、あまり寄り道すべきではないと警告している。
ただ一路、正面に続いている廊下。
そこを真っ直ぐ行けば、外に出られると大体だが判断する。
「よし、分かった。それじゃ行くわよ、二人とも」
道は開けたので、後ろの二人にそのことを合図する。
しかし、返事は帰ってこなかった。
「ちょっと二人とも、安否確認のために返事はしっかりして!」
めんどくさいと思われるかもだが、一応返事を促す。
しかし、帰ってくるのは微量な反射音だけだ。
「返事くらいしなさいよ、全く──」
返事がないため、振り返って直接安否確認をしようとした。
だがそこにあったのは、白目を向いて倒れている王原だった。
「……え?は、?」
あまりの唐突さに、言葉を失う。
未来は?どこいった?
なんで王原は倒れてるんだ?
倒れた音なんかしなかった。
いつ倒れた?
勝手に倒れた?
誰に?
気を失ってる?
出血はない?
呼吸は?脈は?
何でやられた?
周りの変化は?
音に異常は?
油断?いや、1ミリたりともこの神経を休ませた覚えはない。研ぎ澄まして、感じて、取り逃さないよう警戒していた。
脱出経路だけでなく、周りからの奇襲に考慮して、危険だと思う音や危険分子がないかも探った。
その上でこのザマである。
平常の呼吸は失われ、自然と過呼吸を引き起こす。心臓の鼓動は大きくなりすぎて煩いくらい。
胸に手を当て、ギュッと掴む。
落ち着け。冷静さを見失うな、私。
教えられただろう?取り乱すことが、一番やってはいないことだと。
まずは警戒。周りの音を慎重に聞き分けつつ、自分が今するべきことを。
「王原、聞こえてるなら返事して」
応答なし。
となれば、私がおぶってでもここを早急に離れるか、誰かと合流しなければならない。
富嶽さんと会うのが理想か?いや、屋敷内での出来事。異界人との関係も考慮して、会うのはリスクが高いかも……。
となれば、とりあえず脱出だ。
私は王原を背に乗せ、導き出した経路を走り出した。
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