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赤井少女部隊  作者: 天天ちゃそ
-1章《スタートライン前》
3/12

作戦と目標

 あれから一時間がたった。


 他の異形獣が来ることを考慮し、一旦場所を移動した私たち一行は、夜に備えて安全な場所を探していた。


「にしても、さっきの爆発はやばいネー。未来ちゃん、範囲調整ミスった?」


 王原が先程の攻撃について、未来に質問する。


「そ、そんな事……あるのです。敵の身体能力と耐久指数から推定して、あの威力は必要最低限だと思ったのですが、想定より脆かったのです」

「だよネ〜。やっぱ、あれだけの攻撃はなるべく避けたい。別に攻撃魔法なんか使わずとも倒せたでしょ?」

「それは……その通りなのです」

「やるのは別にいいんだけど、調整できるとこはしていきたいよネ」


 戦闘分析する二人の会話を尻目に、魔法かぁ、と心の中で呟く。

 異界人により地球にやって来た概念。化学で全てが解決する世に突如として現れた未知の技術。

 その存在は異界に充満する"マナ"が地球に漏れ出したのをキッカケに現代にも浸透していった。


 マナというのは、魔法を発動させるために必要な元素的なものだ。マナを体内細胞で受容し、性質を変化させれば、魔法を使用することが出来る。

 しかし、地球人が魔法を使うことはできない。理由はたった一つだ。


 地球の生物にとってマナが毒であるという点である。元々地球にない成分で構成されるマナは、生物が摂取することで様々な障害をもたらし、一定量を取り込めば最悪死に至る猛毒なのだ。

 後の研究により地球に充満する程度の濃度では一定量を超える事はほぼないと発表されたが、マナを受容できる訳ではないため魔法を使える回答にはならなかった。


「私も魔法が使えたら、未来の負担を減らせるのにな」


 思わず口に零してしまう。


「それなら空ちゃんも受ければよかったじゃん。未来ちゃんと同じ手術」

「馬鹿言うのも程々にして。知ってんでしょ?未来だから出来たの、あの手術は」

「アハハー、冗談だヨ。そんくらい冗談で受け取ってよ」

「うざ」


 私にも詳しいことは分からない。

 ただ、成功率が非常に低く、死ぬ覚悟は前提で初めて行われる。


 未来は適合者だった。過去未来現在、これ以上現れないほどの逸材。

 多くの代償を得て、マナの全て身体に埋め込まれた未来は、地球史上初、魔法が使える生物となった。


「それにして、ホント強すぎて笑っちゃうわね。未来はやっぱり凄いわ!」


 奈緒お姉ちゃんが笑いかけるように未来の頭を撫でた。

 おそらく、私含めみんな同じ考えであろう。


「でも、強いだけじゃダメなんだよね〜。今ボク達がここにいる理由は二つあるの、忘れてないよネ?」

「分かってるのです」

「当然よ」


 そう、私たちの目的は二つある。一つは、異界に取り残された地球人の救出。地球が異界と友好条約を結んでいた時は、異界人が移住してきた地球人を保護するという項目が含まれていた為、問題はなかった。

 しかし、条約が撤廃されたとともに安寧は崩れ去った。異界人としては、保護対象から除外するとしか発表されていない為、実際どうなっているのか確かめる術はない。だからこそ、実際に私たちが行く必要があったのである。


 あともうひとつは……なんだっけ?


「あれ?空ちゃん、もしかして忘れたなんて言わないよね?」

「なっ、わ、忘れてないし!てか王原、なんで考えてることが分かるのよ!!」

「やっぱり忘れてるじゃんか。空ちゃん顔に出やすいから、す〜ぐ分かっちゃうんだよネ。そのアホ面、治しといた方がいいよ?」

「アホ面とは何よ!確かにちょっとド忘れしてるけど……」

「さすが空ちゃんクオリティ、しょーがないね。じゃ、解説も兼ねて整理していこうか」


 そう言うと、王原はゆっくり話を整理する。


「私たちの直近の目標は、異界で唯一異界人と友好な関係を持つ富嶽 哲(フガク テツ)さんを探し出す事。富嶽さんは今私たちがいる森の奥地で邸宅を持ってるから、とりあえずはそこに行くこと」


 富嶽 哲(フガク テツ)。一度もあった事はないから分からないが、上からの情報によれば異界人研究家とか何とか、そんな感じの仕事?してる人らしい。

 上からの指示によれば、現在地球には異界との連絡を取る手段がなく、リスクを侵さない連絡手段を確立する事が最優先であるらしい。それに伴って、彼に協力を願いたいらしい。


 他に手段はないのかと言いたいが、実際異界に踏み出せたのは私たちが初めてらしく、安定した通信を可能にするためにはそうするしかないのだとか。


「でもさ、そんな簡単についてきてくれるのかな?」

「普通に考えれば、不可能だネ」

「やっぱりか」


 疑問だった。条約を破棄した異界人と友好な関係を築いている地球人というのは、今世に置いてはとても珍しい立ち位置にある。

 異界人と友好な関係を築けている事には、何かしら理由があると思う。最悪の場合、富嶽(フガク)が異界人側に回っているかもしれない。


 もしそうなっていたならば、勝手に富嶽さんを地球に連れ戻したことによって異界人の怒りをさらに買う可能性もある。非常にリスクがある作戦で、本当に大丈夫なのか不安である。


「空ちゃんの考えてる通り、最悪の状況だって有り得る。上層部の考えは粗方分かるけど、理解は到底出来ないね」

「また心読まれた……結構厳しいのね」

「まぁ、ボクたちが何考えても無駄だから、行くしかないって話。それと、富嶽(フガク)さん以外の移住民に関して、優先度は低めって言われてるから、頭に入れといてね」


 サラッと王原はとんでもないことを言った。

 富嶽(フガク)以外の移住民の優先度は低めという事は、富嶽(フガク)を救出できた場合は即時帰還しろと言われているようなものだ。


「それでいいの……?」

「いいんじゃない?ボクらは上に言われたからやるだけでいい。無駄なことは考えた方が負けさ」


 興味なさげに答える王原。

 考えなくてもわかる。それは目的のために他を見捨てろということ。地球の再建を優先するために、ほかの問題を先延ばしにしようとしているという事。


「何、空ちゃん。まさか、命令に逆らおうって訳じゃないよね?命令違反は作戦失敗の元だよ?もし、この作戦が失敗したのが理由で地球が大変なことになったら、空ちゃん責任取れるの?」


 煽り口調で王原が耳打ちしてくる。

 確かに、私には計画に逆らうほどの覚悟はないし、作戦失敗の責任を背負うほどの力もない。


「だけど……見捨てるんなて、そんなの──!」

「そうだよね。空は優しいから、そんな事出来ないんだよね」


 王原に抗議した直後、顔が柔らかい感覚に包まれる。

 後ろから私を抱きしめるお姉ちゃんは、諭すように言う。


「空は昔から皆のこと気にかけるタイプだったからね。分かるよ。

 でもね、コレは地球を救うための作戦なの。今回助けられなくても、まだチャンスはある。だから今だけは、作戦通りに動いて欲しいの」

「で、でも……早く助けないといけないんじゃ」

「苦しいと思うけど、作戦通りに動くことが大切なの。だから、今は協力してくれない?」


 思いがぶつかる。昔から無鉄砲に行動する私を、お姉ちゃんはいつも助けてくれた。正しい道へ導いてくれた。

 私の中のお姉ちゃんは常に正しい。お姉ちゃんだから、多分何か考えがあるはずだ。


 お姉ちゃんに従っておけば……上手くいく。


「うん、分かったよ。今は作戦が先だもんね」

「ありがとう、未来。それでこそ私の妹だわ」


 そう言って、頭を撫でるお姉ちゃんから優しい香りがする。暖かくて、私はその香りに浸ってしまう。


「ハイハーイ。いい感じになったところで、そろそろここから動くよー」


 しかし、いい感じの雰囲気はぶち壊されるが早い。


「もー!せっかくいい感じだったのに」

「何言ってんの空ちゃん。こんな所でいつまでもグダグダしてる場合じゃないんだよ。ただでさえ、話のテンポがグダグダなのにさ!」

「なんの話よ……」

「何の話でもいいでしょー?それよか、空見て。あぁ、空ちゃんじゃなくて、上の方のね」


 そんなの知ってるわよと思い上空を見ると、すっかり日が暮れ、青空はオレンジにいろをかえていた。


「こんな早いんだ、異界の一日って」

「ボク達がゆっくりし過ぎたのもあるけどね。て訳で、夜になる前に寝る場所探さないとネ」


 異界の夜は危険が多い。

 夕方なのはまだ幸いで、深夜帯に活動するタイプの異形獣もいる為、視界が悪くなる以上不利になるのは避けたい。


「最悪場所は身が隠せればどこでもいい。視界に入らなければ襲ってこないタイプも多いらしいしね」

「それなら、あそこはどうです?」


 未来が指していたのは、地上から100mほどの高さを持つ大樹の根元に空いていた、大きな穴だった。

 見た感じ特に目立った場所でもなく、入口もそう大きくはなかったため、異形獣が追加(・・)で入ってくる心配は無さそうだ。


「いいんじゃない?中になんか居そうだけど」

「それ全く良くないじゃん」


 問題はそこである。木々に擬態して獲物を待つ種、お昼の異形獣と同じタイプが確実に潜んでいるのを肌で感じるのだ。


 擬態した異形獣を見つけるのは難しい。

 異形獣は怪物であるが、それ以前に異界では獣だ。視覚作用を欺くための技術を進化という力で得て、この森で生息している。中には魔法を使う種だっているくらいだ。

 故に通常の視力や道具でも見つけ出すのは無謀とも言える。


 だからと言って、こちらが全く見つけ出す手段がないという訳では無い。

 王原が異形獣がいるかもしれないと判断できた理由は、周辺に発生する特殊なマナの流れ。


 異形獣は魔法の使用や擬態を行う場合、人が魔法を使う時と同じようにマナを体内で性質変化させる必要がある。

 その際、性質変化したマナが体外に漏れ出るので、周囲のマナの性質も変化し、特殊な流れが生まれる。


 それを感じ取るとこによって異変を察知し、存在を認識するのだ。


「確かめてくるのです」


 問題を察した未来は、単身中に入っていった。


「お姉ちゃん、どう思う?」

「未来なら大丈夫だと思うよ」

「いやまぁ、そうなんだけど……さっきみたいになったら不味いんじゃ?」

「そこは運だね」


 不安である。昼間のように未来が火力調整をミスれば、大樹ごと周辺がまた吹き飛ぶ。そうなれば寝るどころの話ではない。


 案の定、数秒後に大穴の中からは眩い光とともに爆発音がした。これは大丈夫じゃなかったか、なんて考えていると、煙の中から未来が出てきた。


「どうだった?」

「全部倒したのです!」

「やっぱ居たのね。中、入れそう?」

「大丈夫なのです!」


 誇らしげに胸を張る未来。あれほどの爆発があったのに、服にすら誇りひとつ着いていない。火力調整成功といったところだろうか。

 しかしながら、中にいる個体が弱いものだったとしても、当たり前のように無傷なのはいつ見てもおかしいと感じてしまう。


「んじゃ、ここが今夜の仮拠点ってとこかな。中入ろっか」

「そうだね。もうクタクタだし、早く寝たいなー」

「あ、空ちゃんちょっと待ってくれない?」

「え、何でよ?」

「見張りだよ。全員すやすや寝てる最中に襲われて全滅したら、文句も言えないしネ」


 納得である。夜に活動する異形獣がいる以上、おめおめと寝ていては格好の餌食というものだ。

 それに、私を最初に抜擢したということは、そういう事だろう。


 王原の提案に納得し、私→王原→お姉ちゃん→未来の順で二時間ごとに交代していく事になった。


「んじゃ、空ちゃんよろしくネ。何かあったら、すぐ呼ぶんだよ?」

「ゴメンね、空。先になるわね」

「空お姉ちゃん、気をつけてね」

「うん、みんなありがとう。おやすみ」

「「「おやすみ〜」」」


 そう言って、三人は大穴の中に入っていった。私は仮拠点から少し離れた地点にあった大樹の枝から、下を見渡すように見張りについた。

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