先行きAnxiety
荒野にぽつんと佇む、小規模な農業プラント。
上から見たなら、大地に大きな緑色の円が点々としてあるように見えるだろう。
収穫を待ちわびる作物が実った畑の脇道を、黒いコートの青年と銀髪の少女が歩いていた。
と思えば、ふたりはたちまち幼い子供たちに囲まれる。
「せんせー、おはなししてー!」
「ステラちゃん、あーそーぼー!」
猫人、犬人、その他様々な種族の子供たちが二人に寄ってきていた。
「あ……えっと、ごめんね。今はまだ『みまわり』の途中で」
「俺が先生だ……」
「アラト……? うーん、なんでこんなことに……」
◇
ことの始まりは、二人がそのプラントからの救難信号を受け取った所にあった。
渓谷地帯の隅に位置するそれは、付近の都市からは一定の距離があるものの、なんとか行き来を繰り返して細々と生活しているのだという。
しかし最近、渓谷地帯に入ったところで野盗が発見されたらしい。
そこで付近に専用回線で信号を発信し、それを受け取った傭兵に護衛を依頼しようとしていた、というのが事の顛末だ。
話を聞くなり即座にその依頼を受けたアラトと、それに従ったステラはしばらくの滞在を余儀なくされていた。
「いやはや、お二人には感謝してもしきれねえ! 本当に、ありがとうなぁ!」
子供たちを帰し、続けてやってきた農夫たちからも感謝の言葉を受け取ったふたり。
手を振る彼らを見送ってから、ステラは隣の青年に問いかける。
「えっと、アラト? 『ぼうえいポイント』のチェックは」
「済んでる。といっても、付近には二つしかルートがないけれど」
アラトが彼女に見せた端末の画面には、周辺の大まかなマップが表示されていた。
「敵勢力はパワードスーツを着た傭兵が何人か、それとパワーローダーが三つ。都市側の防衛戦力は……戦車どころか、ローダーでもない重機がいくつか程度。とはいえ───」
言って、青年はプラントの反対側に目をやる。
そこには、轟々と流れる大河があった。
「生活用水にもなっているらしい。機構の兵器ならいざ知らず、飛行能力もないパワードスーツならアレは渡れない」
「……つまり、こっちから侵入してくる可能性が高い、ってこと?」
今度は、ステラがアラトと反対の方向を見る。
彼女の瞳が見据えるのは、峡谷にできた二つの道であった。
「ああ。河を迂回してこちらに来たとなれば、岩壁を登って上から来るなどという手段を使わない場合はそうなる。そんな装備をしていたという情報はないし、そもそも目撃された地点もこちら側だから」
「となると……二手に別れたほうがいい?」
「そうだな。あの道は今は使われていないらしいし、都市に通じる他のルートも……後から発破で片付ける、って条件で崩落させておいた。しばらくは都市に向かう人もいないらしいし」
この作戦のために手持ちの爆薬をいくつか使ったが……侵入ルートを絞り込めるならば、この程度の出費は痛くない。
傭兵はそう考えて、話を続ける。
「ステラには片方を担当してもらうことになる……多少はサイズ差がありそうだけど、頼んでいいか?」
「大丈夫。わたしと〈レーヴァテイン〉なら、ローダーくらい……むんっ」
そう言うと、彼女は傍らに『腕』──戦術武装〈レーヴァテイン〉と言うらしい──を顕現させる。
アーヴェスの攻撃をも凌ぎきった障壁や、あの"ビット"があれば、問題なく勝利できるとアラトは見ていた。
(とはいえ不安は残る、出来るだけ安全策を取るべきか。………万が一にでも、ケガはさせたくない)
そう考え、アラトはステラに防衛時の作戦について話しはじめるのだった。
ハシュマル戦でライドが守った()あそこを想像してもらえるとわかりやすいかも
・パワーローダー
『人体の拡張』をコンセプトとする主力兵器のひとつ。
操縦者はコクピットブロックに収まるサイズ、頭頂高は3メートルくらい。
だいたいモビルワーカーとかMTみたいなもん