間章: 在りし日の夢
海に近い小さな村。
取り立てて目立つものもない、農業を生業とする村のはずれに立つ家。
そこへ、ふたりの少年が訪れていた。
「……なんだ、また来たのか」
出迎えたのは、老成した雰囲気を持つ男性。
片足を引きずり、杖をついていた。
「よくもまあ、飽きないものだ」
「あー、あはは……先生の話、面白いですから!」
「また、聞きたくて」
金髪の利発そうな少年と、黒髪の口数少ない少年。
ふたりは、男性がこの村に居着いてから幾度となくここを訪れ、彼のことを『先生』と呼んでいた。
「……まあいい、気分転換にもなる。それで、今日はどんな話がいいんだ」
「あ、えと、じゃあ……どうしよう?」
「……おれは、魔術の話がききたい」
「魔術、か。わかった」
そう答えると、男性は古びた本を本棚から取り出し、ふたりに座るように示す。
「そう言えば、今日は親はいいのか」
男性の言葉は、以前保護者に内緒でここを訪れたとき、少年たちがめっぽう怒られていたことについてのものだ。
「はい! 本当はもう少し手伝ったほうがいいんですけど、じいやが大丈夫ですよ、って!」
「おれも、かあさ……んんっ、テレジアが構わないって。夜になる前には戻れっていってたけど」
「そうか。なら、いい」
少年ふたりと、杖をついた男性。
三人からなる小さな『授業』は、少年たちにとって何より楽しみなものだった───