振るわれしMoonlight
白刃が閃く。
紅の光が瞬く。
刃と光刃が打ち合わされるたび、閃光が部屋を埋め尽くす。
(近づけない、……ッ!!)
俺は、敵機───アーヴェスというらしい───が無尽蔵に繰り出してくる『飛ぶ斬撃』に手を焼かれていた。
(あの子も……問題はない、ようだけど!)
見れば、少女も片方の『腕』で自身をガードしつつ攻勢に転じようとしている。
彼女は主に、アーヴェスが展開した光球から撃ち出されるレーザーの迎撃を担当していた。
即席のコンビネーションにしては悪くない動きだったが───
(二手に分かれたのは失策だった……!)
二対一の定石………挟み撃ちを行おうとし、少女も俺の意志を察して積極的に後ろに回った。
しかし蓋を開けてみれば、俺のほうは光刃の迎撃は問題ないがレーザーの対処に手間取る。
撃ち落とせないことはないが、光速で迫るレーザーの真芯を斬るにはそれなりの集中が必要だった。
そして少女の方はといえば、レーザーは全周に展開した障壁や、『腕』からバラ撒かれた……小型の、端末? によって撃ち落とすが、光刃を喰らうと衝撃によって行動の中断を余儀なくされている。
今は二人ともノーダメージで済んでいるが、いつ集中が切れて被弾してもおかしくない状況だ。
(ジリ貧、か。打開には───おっと……!)
現在、俺はノコギリ鎌でなく鍔のない直刀とハンドガンを装備し、防御寄りの立ち回りをしている。
だが流石にキツくなってきた、中々に『面倒』な状況だ。
(……使うか? いや、………)
チラリと少女の方を見て、また前を向く。
正直に言うと、俺にはこの状況を一瞬でひっくり返せるであろう切り札がある。
だがそれは、自分一人であれば問題はなく、二人以上となれば途端に諸刃の剣と化すピーキーなものでもあった。
(……うん? ………んんん??)
そんなことを考えつつ迎撃に神経を使っていると、なにやら先ほどまで敵機を挟んで真反対にいた少女が突っ込んできて───
「うおおおおっっ!?!?」
「───《スヴォルクレスト》!!」
咄嗟に全力で回避しようとした俺の腕を掴み。
未だ紅光の嵐を振り撒くアーヴェスに向かって、二人がギリギリ入る程度の障壁を展開した。
「……ッ、どうした!」
色々と言いたいことはあれど、とりあえずは行動についての質問。
それに対して彼女も、切羽詰まった様子で答える。
「ぁう、えっと……げんじょうを分析しました、このままでは危険、だよ……です!」
「それは俺も分かってる。なにか対抗策があるの
「───R■■B-■■:M■■■LI■■T」
アーヴェスの攻撃が障壁とぶつかる音、それによって一部は聞こえなかったが……なんとなく、唇の動きだけで言っていることは読み取れた。
予想外の名前を出され、動きが一瞬鈍る。
しかし彼女は待っている暇はないとばかりに、質問を重ねていく。
「わたしの理解が正しければ、持ってるん……所持している、んだよね? 使用は可能、ですか」
「………使えは、する……けど」
「なら、使ったほうがいい……と、思う。わたしにはできないけど、あなたなら……勝てる」
疑いなく、まっすぐに彼の瞳を見て。
勝利の確信を得ている彼女の言葉に、決心して頷く。
「了解した。なんとか制御してみせるさ」
「………制御? ……ううん、それじゃ……足止めは、わたしがする。《スヴォルクレスト》が保つのはあと30秒だから、時間を稼いでほしい」
「ああ、それと」
「───? えっと……?」
後ろ髪を引くような言葉。
一度正面を向いた彼女が、再び俺と顔を合わせる。
「俺はお兄ちゃんじゃない。アラト、だ」
「……………了解、しま「もうひとつ」
「キミの名前は? 名前がないならないでもいいけど」
「……ステラ。ステラ・イーリス」
「わかった。あと、その口調も慣れないならやめていい。それじゃあステラ、───行くぞ!!」
「うんっ!」
障壁が砕けるとともに、前に出てステラを庇う。
(『足止め』が何かは知らないが……時間を稼ぐ)
そうして、全神経を研ぎ澄ませ───
「《クロック・アクセル》」
───開眼する。
(光波、迎撃)
光の刃が、剣撃によって相殺され。
(レーザー、そこだ)
光球から放たれるレーザーの"芯"を、銃弾で撃ち抜く。
再び光刃、しかし今の俺には見えている。
(光波はブラフ、本命は真後ろに隠されたレーザー。それなら───)
ハンドガンを真上に放り投げ。
腰だめに構えた左手、緩く握った手のひらに直刀を通し……
「《玉、」
瞬時に、
「───衝》!!」
抜刀。
納刀から抜刀まで、およそコンマ2秒。
神速の居合は、光の刃とレーザーを纏めて吹き飛ばす!
アーヴェスがどれだけ繰り返そうと、同じ。
無数の斬撃と銃撃が壁となり、紅の光はそこを一つたりとも抜けられない、抜けさせない!
そして、約5秒後。
「───【ソーン・エンタングル】、【ギガグラビティ】!!」
無属性、絡みつく光の荊。
闇属性、敵を圧し留める重量の檻。
二つの拘束のアーツが、敵機の足を止めた。
(二重詠唱……!? それに、この詠唱速度───これは、相当に珍しいモノを拾ったな……!)
魔術を二つ同時に発動する技術、二重詠唱。
これを実用レベルで使いこなせる存在は、彼女の他には二人ほどしか知らない。
俺は一瞬驚きつつも、脚にぐうっと力を溜め………
「───《雷の如き戦士》」
スキルを発動し、全速力で駆け出した。
◆
そして緋色の天使のカメラに、最期に移ったもの。
それは、
雷光を纏い、コートを靡かせ突貫してくる黒い影。
その右腕に、一瞬にして生成された漆黒の鎧。
そして月明かりのごとき清冽な"蒼"を湛え、同時に黒く燃え上がるロングソード───
「終わりだ!」
緋い装甲と蒼い切っ先が激突し。
長剣が纏う焔によって、装甲は瞬時に分解され。
ずむり、と刀身の半ばまでもがアーヴェスのボディに埋まり………
「《過剰暴走─────蒼月閃》ッッッ!!!」
光芒を伴い、斬り上げられる。
後に残ったのは───
「…敵機、完全停止。えっと、……おつかれさま?」
生き残った二人と。
上半身が消し飛び、あまりの熱量に断面がガラス化した………天使の残骸だけであった。
・《クロック・アクセル》
『クロック』アップ+『アクセル』フォーム。
思考と肉体の単純加速。
単純であるが故に、強力。
・《玉衝》
極東の辺境に伝わる《七星刀術》が五の太刀、神速の居合。
他には《天枢》、《天璇》、《天璣》、《天権》、《開陽》、《揺光》がある。