緋色のAves
「………」
「………それで、えーと、キミは……」
とりあえずは同じく箱に入っていた服を着せ、ブーツを履かせたものの、少女は一言も喋らない。
というかこれ服が気に入らないんじゃないのか、だいぶ角度が凄い上にノースリーブなピッチリスーツとか……着せられたら誰だって、俺だって嫌だよこれ。
流石にこれだけだと、と思ったので古着のジャケットを被せたけれども、大分ブカブカだし袖は捲ってるし。
というか比べるのもあれなんだが……似てるな、ものすごく。
銀色の長髪に青い瞳、形のいいおとがいと、『人形のような美貌』って表現が似合う子だ。
もっとも、俺にとってはとてつもなく見覚えのある容姿なんだが……身長と体型も含めて。
(流石にコミュニケーションの難度が高くないか……?)
「……ひとつ、きいても……いい?」
「! ……何を聞きたいんだ?」
ようやく彼女が喋りだし、驚きつつも返答する。
しかし、その『質問』は、俺の想定を大きく上回るものであった。
「えっと、あなた……『お兄ちゃん』、だよね?」
「……………はァ!?」
◇
「お兄ちゃん……」
「俺はお兄ちゃんじゃない」
薄暗い遺跡を、二人で歩いていく。
ある程度歩調を落としているとはいえ、華奢な彼女は俺の後ろにぴたりとついて歩き。
先ほどから、かれこれ10回以上はこのやり取りを繰り返していた。
「そもそも、なんだってお兄ちゃんなんだ」
「……? お兄ちゃんはお兄ちゃん、だよ……? わたしのこと、おぼえてない?」
「残念ながら初対面だ」
これに関しては事実だった。
確かに俺には幼少期、具体的に言うと8歳くらいまでの記憶がないが……こんな美少女が突然出てきて、しかもオニイチャン?
……ないな、絶対に。
というか似てない、絶望的に。
俺の白髪は後天的なものだし、そもそもこの子は銀髪だし。
容姿だってとても血が繋がってるとは思えない、いや義理のあれそれとかの可能性もあるのか?
そんなこんなで、遺跡を出たら孤児院なりに預けるかと考え、出口を目指していたのだが……
「………っ?」
何か、背筋にちりちりとした感覚。
それ自体は何度か体感したことのあるものであり、それを感じた時は限って───
「ねつげんはんのう……下だよ!」
少女の声に従い、咄嗟に防御体勢をとったその直後。
遺跡の床が融け、視界が赤く染まった。
◆
「おい、………! …… 大丈夫か!?」
赤い閃光によって空いた大穴を落下しながら、名前を呼ぼうとして……彼女の名を知らないことに気づく。
視界に少女の姿はなく、けれど返答を期待して、もう一度息を吸い込み……
「大丈夫!」
「うおっ!?」
声のした方向を見れば、なにやら巨大な『腕』に乗る少女。
肩から指先だけで彼女の身長──だいたい150センチくらいか?──ほどもあり、赤と黒で彩られたそれも気にはなったが、ひとまずは胸を撫で下ろす。
そして、自由落下の先にたどり着き、俺たちが目にしたものは……
先ほどのガーディアンと戦った部屋とはまた違う、異質さを感じさせる空間。
黒鉄の柱に囲まれ、床は円形に半透明の素材が張られており、その下のパイプが集中する中心部から青白い光が漏れる。
闘技場じみた広間、その中心を挟んで佇むのは───
『……………』
緋色の装甲。
翼の如く大きく張り出した肩と、長い腕。
デカさは俺と同じくらい、2mはあるか?
それに加えて、鳥を思わせる逆関節の脚………。
一目で有人ではないとわかる、異質な人形だった。
「あの機体は……」
「記憶領域を参照……第1技研製の自律兵器、アーヴェス………タイプ、ソル!」
「アイツが、さっきの攻撃を?」
「えっと、たぶん───っ、来るよ!」
声に導かれ、弾かれたように武装を構えた、その直後。
その両腕からレーザーブレードを発振させ、紅の天使が突進してきた。
フィールドはAC2AAの未踏査地区調査、アーヴェスくんは...赤いデスキュベレイをイメージしてもらえると