前日譚: 天楼の塔にて
ゲームで言うならチュートリアル+オープニング的な
とある大陸の中心に、天高く聳え立つ建造物があった。
その眼下では人間や獣の特徴を持つ人々と、角や翼が生えた人々の二つが争っており。
白亜の塔、その最上階にほど近い高層。
そこで、騎士然とした白い鎧の青年、黒いコートの青年、シスターらしき少女の三人が、全身が水でできた異形と激しい戦いを繰り広げていた。
◇◇◇
「は、はは、ハハハハハッ!! 中々にやるものだ、勇者一党! 魔王様を一党から欠いて、なおこの私と渡り合うとはなァ!!」
2メートル以上はある、全身が水でできた人型……とでも言えばいいのだろうか。
古代の魔術によって全身を作り替えたらしい異形が、驚きとも称賛ともとれる言葉を口にする。
「四人を二人ずつに分けて修行していた時期もあったものでね! お褒めに預かり光栄───だッ!!」
アクアスの言葉に応じたのは、白い鎧を身に纏う金髪の男。
俺の親友にして、人類の希望たる勇者その人……ユート。
その勇者様がヤツのレーザーライフルによる射撃を剣で打ち払い、突進していく。
「前に出すぎるなよ、ユート!」
呼びかけつつ、俺も後に続いて前に出る。
もう地上は連合軍が押し込みに入ってるはずだ、焦るのはわかるけどな……!
二人で呼吸を合わせ、身を屈めて───アクアスが左腕から放った水の鎌鼬を回避。
続けて迫り来る、魔力によって構成されたレーザー射撃……これが厄介だ。
数で人類連合軍に劣る魔王軍がここまで戦い続けられたのは、ひとえにレーザー武装をはじめとした旧文明の遺産のお陰に他ならない。
だがこっちには、
「《聖女の護り》!!」
あいにく、支援と回復特化の聖女様───アリアがいる。
白と金に彩られたシスターっぽい聖衣を着用する、これまた金髪にロングヘアーの少女。
彼女により俺たちの眼前に防御結界が展開され、それに阻まれレーザー射撃が霧散。
同時に結界もバラバラに砕け散るが、それはそれ!
何度砕けたってまたかけ直しゃいい、人任せにはなるが頼むぜ聖女様!!
そして、
「合わせろ!」
「ああっ!」
俺が一瞬先行し、身を低くして………衝撃。
ユートに背中を踏ませ、空中へと打ち上げる。
あいつは上から、俺は下段から横に薙ぎ払う。
これまで幾度となく強敵を葬ってきたコンビネーション、ここで決める!!
「《騎士王の一撃》!!」
光り輝く勇者の斬撃、しかしそれはアクアスへと届かない。
だがそれすらも計算通りだ、空に描かれた縦の軌跡───それが消え去る前、0.1秒未満の間隙!
「五の太刀───《玉衝》!!」
神速の踏み込み、からの左から右への居合斬り。
今の俺が右手に持つ獲物は刀じゃないが……関係ない。
寸分違わず、横薙ぎの一閃が白い残光に命中し………
直後、炸裂した。
「ぐ、お、おおおあアアッッ!?」
十字の爆裂、それをモロに食らったアクアスの体積がごっそりと削れるが……
クソが、致命傷じゃねえ!!
これまで倒してきた人体改造幹部は、致命傷を食らった次の瞬間には灰となって消え去った。
有識者によれば人体の限界を超えた代償らしいが、コイツはまだ崩れていない!
「……しょうがねぇ、第2ラウンドと行こうぜ───うおっ!?」
「バカ、野………郎っ!!」
さすがに大ダメージではあったのか、再生のために動きを止めるアクアス。
長期戦にもつれ込むことを覚悟し、追撃を加えんと武器を構え直した、瞬間。
なぜかユートが、俺の腕を掴んで……
「ばっ、テメー何を」
「行ってこい、アラト!!」
そのまま、アクアスを挟んで反対へ………投げ飛ばしやがったあの野郎!?
「ぬっ」
肩が擦れた。
「ぐおっ」
肘をぶつけた、ビリビリする。
「おががっ!?」
顔面からイった、顔が削れる。
「なっ、何しやがんだテメエ!!」
起き上がってユートに怒りをぶつけるが───
「奥に向かえよアラト、ここは任せろ!」
「そうです、行ってくださいアラトさん!」
敵の脇をすり抜けたユート、それにアリアも走ってきて、二人は奥に続く扉を背にした俺をアクアスから庇うように……そう、本当に『ここは任せろ』といった感じに陣取りやがる。
何やってんのこいつら!?
「バカ二人、お前らだけでどうにかなるわけねーだろ! 俺も、」
「フラン!!」
「っ」
親友が放った言葉、その名前に……一瞬、固まる。
「魔王と戦うのは勇者の役目、けど『フラン』と話さなきゃならないのは『きみ』だろ!」
「そうですよ、ちゃんとコクってきてくださいね!? 私の親友でもあるんですから!」
……クソったれ。
こいつら、この期に及んでまだそんな事を考えてやがったのか。
………本当に、度しがたいバカどもで───本当に、最高の友達だ。
口惜しい。
そして口惜しい以上に、心配だ。
だけど、
「……ここはっ、任せた!」
「「任された!!」」
仲間を信じ、身を翻す。
結局、俺がさっさと話つけて戻ってくりゃいいだけの話だしな……!
そう決意し扉を蹴り開け、俺は塔の最上階へと向かうのだった。
◆
白髪に黒いコート、腰に剣と刀を差した人影が通路の先へと消え去り、僕は一瞬安堵する。
けれど、ここからが本番だ。
なんだかんだ言ってメインの攻撃役兼司令塔がいなくなったのは痛い、だけど僕たちはコイツを倒す……あるいは、情けない話ではあるけど、アラトと彼女が和解して戻ってくるまで持ちこたえなきゃならない。
正直、きつい。
このアクアスは、今まで戦った中でも最強だった幹部───レオンハルトと同等に、強い。
こいつがレオンハルトと同じく斧だの太刀だのを振るう近接型だったなら、恐らく僕は3回は死んでた。
でも、やるしかない。
彼ならきっと、やり遂げるだろうから……こっちも頑張らないとね。
「アリア、いける?」
「大丈夫です、ユートさん。ここで倒れるわけにはいきませんから」
だよねえ。
たぶん、アリアは僕以上に彼らの仲を応援してる。
元からコイバナが大好物だったってのもそうだけど……まああれだよね、女の子同士でも色々あるんだと思う。
僕とアラトが親友であるように。
そうこうしてる内に、アクアスが再生を終えて再び動き出す。
この短い時間は僕たちのスタミナを取り戻すのにも好都合だったけれど、それ以上に……先ほど与えたダメージを、殆ど回復されてしまったのが痛い。
「……わか、らん……なァ」
「何がさ?」
不定形な流体の異形、その言葉に聞き返してやる。
相手のダメージがゼロになったなら、こちらの消耗も出来るだけ無くしておきたい。
だからこその舌戦、別名:時間稼ぎだ。
「わからん、解せん。ただ私を倒すだけなら……先ほどの小僧───剣聖、だったか。勇者たる貴様をも越える戦力をもって、三人で当たれば良かったはず。なぜ先に行かせた?」
「うーん……いや別に僕たち、君らを倒しに来たわけじゃなくてね?」
「少し……友達と話をしに来ただけ、なんです」
アリアの言葉を引き継ぎ、一歩前に出る。
「だからさ、僕らも君を傷つけない、代わりに君もここで足踏みしててもらう…ってのはどうかな」
「……魔王様は、『誰も通すな』と我らに命令なされた」
ですよねー。
「……だが、まあ……貴様らを倒した暁には、命までは取らんことにする。最上階にも、ゆっくり向かうとしよう」
「おっ。話が分かるヒトだ」
「……ヒト、か。ふ、ふ、ふ………いつまでその軽口、叩いていられるか───試してみるがいい!!」
いやまあその軽口、親友をそばで見てる間に感染ったものなんですけどね。
「上等さ! 行こう、アリア!」
「はいっ!」
自らと共に、傍らの彼女も一歩踏み出し……
僕らは、できる限りの時間稼ぎを始めるのだった。
◇
長い廊下、螺旋階段、その全てを駆け抜けて最上階へと向かう。
道を阻むものは誰もいない、恐らくはその全てが地上での激突に駆り出されているのだろう。
もっとも、いたとして全員ブッ飛ばして前に進むだけだが。
走りながらも、言いたいこと、言えなかったこと、言いたかったこと……それら全てがぐるぐると頭の仲で回転する。
だがその全てはこのクソ長い塔を登りきってからだ、待ってろよ……!
そうして、大きな扉の前に到着する。
なにやら青いラインだのが走る銀色の門、それをこじ開けて、
「……よ、う……フラン。……会いに、きて、やった───ぞ………?」
いつも通りに、片手を上げて呼びかける。
それだけで、あの頑固ガールは涙ながらに抱きついてくるか、殴りかかってくる……その、はず、だった。
目に移るのは……黒い靄を全身に纏い、三角帽とローブを身に付け、いかにも魔術師ですといった風体の男。
そして、
「……………………………………………………………………………………………………………………ぁ?」
豪奢な赤い絨毯に倒れ伏す、悪魔のような角を持つ銀髪の少女。
その下からは、絨毯のそれより赤いモノが広がっていて─────
「うん? やあ、遅かったね、アラト君。ユート君に、アリア君はどうしたんだい?」
「おま、え」
「……あ、彼女かい? いやあ実に単純で助かった、君との事をちらつかせたらこうして快く
「殺す!!!」
全身の血液が沸騰する。
足元から、禍々しい装甲が肉体の表面を覆っていく。
手、足、全ての指が、鋭い獣の爪と化し。
脊髄から、先端の尖った"尻尾"が───ずるり、と生える。
騎士甲冑のような、獣のアギトのような兜が、顔全体を覆い。
血よりも紅い双眸が、ぎらりと瞬く。
『─────Grrrrrrrrrrrraaaaaaa!!!!!』
『変身』が終わり。
龍を無理やりヒトの形に押し留めたかのような………獣が、吼える。
「おお、〈厄星〉か……。これは、少しまずいかな?」
なniかiっていruぞ。
moうどうdeもいi。
………身に纏った鎧から、頭の中ni直接音声が流れこんでくru。
『Operating System, Awakening.』
はyaくしろ。
『Target, rock on.』
はやku。
『Are you Ready?』
殺す。
『Eliminated.』
「───《位相転移》」
肉体を量子化し、光の速度de移動するこtoによru疑似テレpoート。
Soれを使いヤtuの背後に転移、mu防備な背中に爪を突きtuけそのまま
「おっと」
キィィィッン!!
背中ni掲げta仕込み杖にyoって弾かreる。
Siるか。
「相変わらず、合理的ではあるけれど……単調な動きだね」
うruさい。
『《Violent・Rush》, Stand buy.』
五連撃。
そno間だけ攻撃行動に補正をかけるスkiル、畳みかける。
殴る。
「ぬおっ」
蹴る。
「ぐ」
爪de、切り裂く。
「がっ」
ハiキック。
「がふっ!」
顔面、捉eた。
「くぁっ!?」
『《Violent・Finish》, Stand buy.』
「消えろ」
黒炎を纏っta貫手、それがヤツを貫き───
「いやはや、ここまで計算通りに行くとはね」
直後、倍する黒炎が、攻撃の命中箇所から溢れ。
俺へと、まとwaりつく。
「ッ!?」
「忘れたのかい? わたしが魔王を殺したということは、わたしが次の魔王となったことを意味し。〈厄星〉を纏った君が魔王の心臓を貫く、ということは………かの『厄災』の火種になることを意味するんだよ?」
………しまっ、た。
「たしかに、君は賢い。わたしに互するほどに。けれど、君はまだ……『悪い大人』に成りきれてはいなかったね。あるいは、それを装着したことで理性が薄れていたのかな?」
完全に、踊らされて───
「さて、わたしはここで退散するとしよう。この世界の終焉を直接見ることができないのは心残りだけれど、さすがに死ぬわけにはいかないからね」
「待、て……!」
更なru追撃を加えyoうとするが、そno前にヤツの姿は空気ni溶け………消えていく。
「さようなら、アラト君。わたしも生き残れるかどうかは賭けだが……機会があれば、また会おう」
───逃げ、られた。
「Kuっそぉぉぉッッ!!」
だ、が。
迷っていruヒマはない、どうする、どuする、どうsuる!?
なんtoか高空で、いyaダメだ、なら転移を繰ri返して地下ni「……アラト……?」
「……フラン!?」
振ri返った視界の先、倒reていた少女が起き上gaる。
急いで駆け寄って、抱き起koそうとして……触れraれない。
炎そのものとなっta体で、触れるわけniは、いかない。
まda息があったのか、よkaった、今すgu治療を、いやそんなhiマは、
「アラト」
「大丈夫だフラン、こnな危機くらい何度daって乗り越えてきtaだろ? どうにかする、どうniかしてみせる、から───」
「ね、アラト」
そう言って、首筋に抱きつかれる。
動くんじゃない、とか。
焦げるからやめろバカ、とか。
そんな言葉は出てこなくて。
こんな時だって、ただ、「鎧の上からじゃ、体温を感じられないな」ぐらいのことしか……思い浮かばなかった。
「わたしね、アラトやみんなと会えて、冒険できて、幸せだったよ」
やめろ。
やめてくれ。
これからまだ、一緒に………たくさん、したいこと、行きたいところがあるんだ。
だから、
「………【魔王の傀儡】」
短縮詠唱、発動された魔術は。
俺の肉体が自意識に関わらず展開する防御を易々と突破し、それを操り人形とする。
意思に反し、俺の右腕が持ち上げられ───
「フラン?」
「ごめん。アラトに、いろんなこと、背負わせちゃう、っけど」
「いい、そんなのどうでもいい! だから、お前っ」
「アラトは、わたしがっ、いないと、泣き虫だから……心配、だけど!」
「おい、フラン!!」
「大丈夫」
吹き荒れる魔力の風、使用者の命すら使い果たす勢いでの魔術の行使。
黒い鎧と炎に覆われた右腕が、最愛の少女の胸を貫き───
「大丈夫だから、ね?」
隊長ルートの隊長が好きです
カラミティくんの見た目はバルバトスルプスの頭をジスタの尾崎さんにした感じ