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理不尽


 夜。

 カラスになって空を飛ぶ。

 雲を通り抜け、ワイバーンに擬態した。


 おぉ! デカい!


 そしてカラスとはまた違う優越感がある。


 かっかっかっ!

 我はワイバーンに擬態したガラクタ・アンデッド・デミドラゴン・ビッグスライムであるぞおおお!


 僕は誰も見ていないのを良いことに、火炎放射を乱射しまくる。

 しまくっていたら……


 ――ガブッ!!!!!!!!


 突如雲の中から現れた白い竜に首筋を噛まれて、死亡した。



「みゃーご……」


 復活して黒猫になった僕は屋根の上で鳴く。泣いていた。

 もうね、涙が止まらないの……。


「みゃ〜ご……」


 雲の隙間から見えた満月に、一瞬だけ僕を殺した白竜が横切ったような気がした。

 遊んでただけなのに、酷いっ!

 異世界の理不尽さを改めて思い知った。



 あぁ〜良い匂い〜。


 翌朝。黒猫の姿になって街を歩いていると、家々から漏れているご飯の匂いやら屋台から漂う焼き鳥の匂いやらでお腹が空いてくる。

 スライムになってから食欲なんて感じてなかったが、嗅覚を刺激されると食べてみたくなる。


 おや、山盛りのご飯だ。


 窓越しに器にこんもりと盛られたご飯が見えた。

 食いしん坊め。朝から豪胆なヤツだなぁ。

 どんなヤツか気になったので木箱に乗って覗き見してみた。


 あぁ、なんだ。エリスか。


 なんだかんだで縁がある三人組冒険者の剣士少女エリスだった。

 こいつ満腹キャラだったのか。


「エリスちゃん、珍しいね。朝からこんなに食べるなんて」


 魔法使いの少女ミィちゃんがエリスのご飯を見てそう言っていた。珍しいことらしい。


「本当だ。何か嬉しいことでもあったの?」


 盾持ち剣士の少年ピッケ君も続く。


「サラもいっぱい食べる〜!」

「食べられるだけにしなさい」


 サラちゃんは無邪気に笑うがお姉ちゃんはお世話で大変そうだ。


「実はね、昨日の夜ワイバーンを狩ったのよ」

「え〜と……夢か何かの話?」

「あっ、そうそう! 夢の話よ! いやぁ〜凄かったわ〜!」

「どんな夢だったの?」


 ピッケ君が質問する。エリスは自慢するように言った。


「私はとっても綺麗でとっても強い白い竜になって空を飛んでいたのよ。そしたら目の前に火を吐きながら変な踊りをするワイバーンを見つけたの。で、すかさずガブッと首を食いちぎったのよ」

「がぶがぶぅ〜!」

「そうよ、がぶがぶよ! でもあのワイバーン、とっても弱かったのよねぇ。経験値も入らなかったし」

「夢ですからね……」


 訳あり姉妹のお姉ちゃんがツッコむ。


 いいぞ、君は立派なツッコミ役になるだろう。


 ところでエリスが話した内容は僕にとっては夢じゃなくて現実なんだけど?

 そういえばギルドマスターがドラゴンは人間に化けて生活していた記録があると言っていたなぁ。

 まさかあの白竜はエリスなのでは?


「わぁーっ! ミルク溢したぁ〜! お気に入りの洋服がぁ〜」


 う〜ん、洋服をミルクで汚して泣いている……これが白竜か……。

 まあ、推定ってことにしておこう。

 たまたま見た夢の内容が昨夜の出来事と同じって可能性もゼロじゃないしね。

 さぁて森に運動でもしに行きますか。



「なあ、火を吐く黒猫なんて本当にいるのか?」

「いる! 俺は見たんだ! あれは絶対に火を吐く黒猫だった!」


 森に来ると僕の事を探し回っている冒険者に遭遇した。

 ミツバチ形態は小さいから見つからないので大丈夫だろう。

 会話が聞こえるようにもっと近くまで行ってみる。


「疲れすぎて幻覚でも見たんじゃないのか? お前、ここの所休んでないだろ?」

「ちゃんと休んでるよ! その日も昨日も今日も十時間は寝た! なんで皆信じてくれないんだよぉ!」

「いやだって……」

「実際見ないと信じられないってことだ」

「でもその黒猫、貴族が大金かけてるって話だよな?」

「あぁ、そういやギルドでそんな話あったな。でもその貴族ってあれだろ? あの街の癌って呼ばれてる悪徳貴族」

「あぁ、スラム街で人攫いまでやってるって話だな」

「最近では主神アマテラースの信者貴族に喧嘩をふっかけて破滅させたとか」

「黒猫を見つけても捕獲しない方が良さそうだな」

「だな。無料で渡せとか言ってくるぜ、きっと」


 あの街には碌でもない貴族がいるようだ。

 しかしあれか? 最近破滅させた信者貴族ってもしかしてあの姉妹の実家かな?

 女神様もお気の毒に……。

 姉妹のお姉ちゃんの性格と育ちの良さを見れば、家族はさぞ良い信者だったろうに……。

 天界で怒ってなきゃいいけど……


 そう考えたその時だった。


 急に視界が止まったように感じたのだ。


 いや実際に止まっている。背景が白黒で、まるで漫画の中に入っているような感覚になった。


 そして、足下に突如現れる魔法陣。



 眩い光に包まれた僕は………………



 死んでいました。



 街に置いてあるスライムに意識が移り、隙間から抜け出す。


『名前:

 種族:ガラクタ・アンデッド・デミドラゴン・ビッグスライム

 技能:捕食、分裂、擬態、溶解液、腐食液、サイズ変化、胃袋、改造、火魔法

 レベル:15

 体力:734

 魔力:1138

 物理攻撃力:416

 物理防御力:628

 魔法攻撃力:528

 魔法防御力:720

 素早さ:528

 耐性:打撃、斬撃、刺撃、毒、闇、土、火

 弱点:光、水、雷、氷、風

 擬態:土、石、葉、カラス、ダンゴムシ、ムカデ、ミミズ、花、ミツバチ、グール、黒猫、人間[バジム]、鉄の剣、銅の短剣、弓、矢、麻痺毒、斧、槍、黒いローブ、銅貨、銀貨、金貨、酒、瓶、ライター、タバコ、火薬、麻薬、小麦粉、パン、リンゴ、モモ、古びた壺、魔法ランプ、ネックレス、ペンダント、指輪、鍵、手錠、鎖、腕時計、鏡、綿、白い布、木材、ペン、インク、紙、ワイバーン

 通知:メール』



 念じてもいないのにステータスが勝手に表示された。

 最後の通知:[メール]の部分が明らかに怪しい。


 ……うん、よし、放置しよう。



『名前:

 種族:ガラクタ・アンデッド・デミドラゴン・ビッグスライム

 技能:捕食、分裂、擬態、溶解液、腐食液、サイズ変化、胃袋、改造、火魔法

 レベル:15

 体力:734

 魔力:1138

 物理攻撃力:416

 物理防御力:628

 魔法攻撃力:528

 魔法防御力:720

 素早さ:528

 耐性:打撃、斬撃、刺撃、毒、闇、土、火

 弱点:光、水、雷、氷、風

 擬態:土、石、葉、カラス、ダンゴムシ、ムカデ、ミミズ、花、ミツバチ、グール、黒猫、人間[バジム]、鉄の剣、銅の短剣、弓、矢、麻痺毒、斧、槍、黒いローブ、銅貨、銀貨、金貨、酒、瓶、ライター、タバコ、火薬、麻薬、小麦粉、パン、リンゴ、モモ、古びた壺、魔法ランプ、ネックレス、ペンダント、指輪、鍵、手錠、鎖、腕時計、鏡、綿、白い布、木材、ペン、インク、紙、ワイバーン

 通知:メール』

『名前:

 種族:ガラクタ・アンデッド・デミドラゴン・ビッグスライム

 技能:捕食、分裂、擬態、溶解液、腐食液、サイズ変化、胃袋、改造、火魔法

 レベル:15

 体力:734

 魔力:1138

 物理攻撃力:416

 物理防御力:628

 魔法攻撃力:528

 魔法防御力:720

 素早さ:528

 耐性:打撃、斬撃、刺撃、毒、闇、土、火

 弱点:光、水、雷、氷、風

 擬態:土、石、葉、カラス、ダンゴムシ、ムカデ、ミミズ、花、ミツバチ、グール、黒猫、人間[バジム]、鉄の剣、銅の短剣、弓、矢、麻痺毒、斧、槍、黒いローブ、銅貨、銀貨、金貨、酒、瓶、ライター、タバコ、火薬、麻薬、小麦粉、パン、リンゴ、モモ、古びた壺、魔法ランプ、ネックレス、ペンダント、指輪、鍵、手錠、鎖、腕時計、鏡、綿、白い布、木材、ペン、インク、紙、ワイバーン

 通知:メール』

『名前:

 種族:ガラクタ・アンデッド・デミドラゴン・ビッグスライム

 技能:捕食、分裂、擬態、溶解液、腐食液、サイズ変化、胃袋、改造、火魔法

 レベル:15

 体力:734

 魔力:1138

 物理攻撃力:416

 物理防御力:628

 魔法攻撃力:528

 魔法防御力:720

 素早さ:528

 耐性:打撃、斬撃、刺撃、毒、闇、土、火

 弱点:光、水、雷、氷、風

 擬態:土、石、葉、カラス、ダンゴムシ、ムカデ、ミミズ、花、ミツバチ、グール、黒猫、人間[バジム]、鉄の剣、銅の短剣、弓、矢、麻痺毒、斧、槍、黒いローブ、銅貨、銀貨、金貨、酒、瓶、ライター、タバコ、火薬、麻薬、小麦粉、パン、リンゴ、モモ、古びた壺、魔法ランプ、ネックレス、ペンダント、指輪、鍵、手錠、鎖、腕時計、鏡、綿、白い布、木材、ペン、インク、紙、ワイバーン

 通知:メール』



 うわわわわわわっ!? なんだなんだ!? ステータス画面が襲ってきたぞ!?


 三百六十度、どこを見渡しても視界がステータス画面でいっぱいだ。


 わかったよ! わかりましたよ! メール開きますよ!

 ……あ、収まった。こんなことができるのはアレしかいない……。

 僕は恐る恐るメールを開く。


『お久しぶりです。スライムに転生した人間さん。女神アマテラースです。

 ところでアレとは随分と酷い言い方ではありませんか?

 しかも私からのメールを無視しようだなんてあんまりです』


 それはすみません。

 と心の中で謝る。


『はい。謝罪はお受け取りしました。その事は水に流しましょう』


 あれ? もしかして現在進行形でお話しができてる?


『はい、できてます』


 さすが女神様、なんでもありな出鱈目な存在ですね。


『それが紙ですからね!』


 漢字間違えてますよ。いや、メールという意味では正しいのか? さすが女神様! 難度の高いジョークを混ぜてきますね!


『ま、まあそうですね! 女神は誤字なんてしませんからね! えぇ、しませんとも!』


 間違えたらしい。まあいいや。本題はなんですか? というか僕のこと殺しましたよね?


『間違えてません。女神ジョークです。

 本題はクエストです。私からの直接依頼です。

 あとスライムさんは面白い死に方をするために冒険をしているのでは? いかがでしたか? 私の時空魔法と光魔法のコンボ攻撃は? 女神である私も協力できて嬉しいです』


 面白い死に方って……そんな酔狂な理由で冒険する人なんていませんよ。いやスライムだけども……。というか僕はそんな勘違いで女神様に殺されたのか……。なんて日だ!

 魔法は強力でしたよ。というか光魔法はずるいですよ。しかも時空魔法とか反則じゃないですか。


『凄いでしょう? また死にたくなったら祈ってくださいね! コロっとやっちゃいますから!』


 またって一度も祈ってないんですが……。

 まあいいや。ところでクエストというのは?


『そうです、クエストです!

 実は先日、私の信者が理不尽な目に遭って減ってしまったのです!

 熱心な信者貴族のご夫婦で、そのお子さんたちも将来が期待できる優秀な子たちだったのですが、カタール伯爵という悪い貴族の手によって一家ごと潰されてしまいました……』


 へぇ〜、クソ貴族じゃないですか。


『その通りです! そのクソ貴族を滅ぼすために極大魔法で天変地異を起こそうとしたのですが、部下の天使たちに止められてしまいまして……』


 それは部下の天使さんたちナイスですねぇ。


『しかし、神は私を見捨てませんでした!』


 そりゃ貴女が神ですからねぇ。


『なんとその貴族の住む街にスライムさんがいるではありませんか! というわけでスライムさん、私の代わりにクソ貴族のカタールに天罰を与えてください』


 なるほど?

 何がというわけなのか分からないが、この女神様の中では天罰は決定事項になっているらしい。

 まあこんなことで天変地異を起こされる方が迷惑だし、協力はしてあげよう。


『さすがスライムさん、話の解るお方ですね! 報酬はちゃんと用意しておきますのでお願いしますよ!』


 ぷつん。

 メール画面が消えた。

 どうやら用事は終わったらしい。

 とりあえず女神様からの依頼を片付けよう。

 カタール伯爵だっけ?

 それってあれかな? 森で僕を探していた冒険者たちが言っていた悪徳貴族と同じかな?


 情報収集が必要だ。

 ミツバチの姿になって冒険者ギルドに入る。

 え? なんで人間の姿で入らないのかって?

 人間の姿で入って絡まれるのも嫌だからだ。それに冒険者でもない僕が依頼掲示板を見に行くというのは不審がられる気がする。


 ぶ〜〜〜〜ん。ぴた。


 掲示板に止まる。

 カタール伯爵の名前が書かれた依頼書は……これか。

 ふむふむ。確かに火を吐く黒猫を捕まえて屋敷に持って来いと書かれているな。

 屋敷の場所は街の東と。


「ぎゃあああ! 虫ぃいいいいい!」


 ペチャッ!!


 女性冒険者に剣の腹で叩かれて死亡した。

 ミツバチは可愛いと思うのに理不尽だ。




お読みいただきありがとうございます


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