VS闇ギルド
港町ポートルーヤにある領主の館。
闇ギルド『首切り包丁』の襲撃を受けたスイたちは、領主を守るグループと襲撃者を撃退するグループに分かれた。
「二……四……六……八……やだぁ、沢山殺せるじゃない! 皆纏めて爆殺してあげるわぁ!」
「皆さん気をつけてください……。その女は血爆のマーガレット……。火魔法の中でも爆発系統の魔法を得意としています……」
「あらぁ? 私のこと知ってるのぉ? 団長さん。嬉しいわぁ」
「名前と貴女が起こした事件だけですけどね……。顔は初めてみましたが……」
「ふ〜ん、そうなの。それで? 私は団長さんの恋人になれるのかしら?」
「すみませんが、私の好みとは到底かけ離れています……。ですので、お引き取りください……」
団長が言い終わると同時に背後からリエットが襲いかかる。
しかしマーガレットはそれをわかっていたかのように手のひらを後ろに回し、小爆発を起こした。
小爆発とは言うが、それは範囲を収束させた中級魔法だ。
普通ならばこれで死ぬ。
しかし光竜ヒカリンの結界に護られたリエットは衝撃で後ろに吹っ飛ぶだけだった。
「ちっ、厄介な結界ね」
「いやぁ〜、これが無かったら二回は死んでるねぇ。ヒカリンちゃん、ナイスだよぉ⭐︎」
「ん……」
「それよりもさぁ、お姉さん。余所見してていいの?」
マーガレットの不意をつくように、クルルが懐に潜り込んでいた。
腹にその一撃をくらえば間違いなく気絶するだろう。
だが、そこで嗤ったのは劣勢なはずのマーガレットだった。
ボンッ!
爆発する。
その爆破をもらったのはマーガレットに触れたクルルの拳だった。
「残念でした〜。私に触れると爆発するわよぉ〜。もうその拳は一生使いものにならな……」
マーガレットが言葉を詰まらせる。
それもそのはず。クルルの拳は硬い鋼に覆われ、無傷だったのだからだ。
「おや、どうやら私と貴女では相性が悪いようですよ?」
「……確かにそうみたいね」
不敵に笑いながらもマーガレットはこの時点で不利なことを認識し、逃走を考えた。
傭兵団『朧月』の団長、強力な結界を張る少女、そして鋼のような身体を持つメイド。
自分よりも強い者が三人もいる。
陽動での時間稼ぎも兼ねて後ろにいる弱者共を一人でも多く殺すつもりだったが、それも無理と判断した。
――まあ、もう領主は頂いたけど……。
つい先日、新しく組織に加入したメンバー。
その者が上手くやっていれば……否、あの手際と実力で失敗するはずがないとマーガレットは確信していた。
子供の悪戯のような作戦内容だったが、腕は確かである。
「んふふ。遊びは終わり。今度会う時は本気の殺し合いをしましょう?」
ボンッ!
地面に向けて魔法を爆破させることで飛び上がったマーガレット。
すぐにクルルが人形態のまま飛躍し、後を追った。
「あら? 空を飛べるの?」
「えぇ、まあ、そんなところです」
「ふ〜ん、でもぉ〜」
「………………っ!?」
クルルの目を狙って至近距離で爆破したマーガレットは、そのまま空へと逃げていく。
地上に落下したクルルはそんなマーガレットを見ていた。
「爆発の威力を利用して空を飛ぶとは……人間も面白いことを考えますね。最後は油断しましたが、まああの程度ならばいつでも殺せますし、追う必要もありませんね」
私、エリス様みたいに喧嘩好きでもありませんし。
最後にそう呟いたクルル、領主の館に戻るのだった。
一方、クルルがマーガレットたちと戦闘を繰り広げている間、スイたちは領主たちの無事を確認していた。
領主は眼鏡をかけた気弱そうな中年男性だ。
「領主様、ご無事でよかったです」
「こ、これはいったいどうなっているのですか?」
「敵襲です」
「て、敵襲!? つ、妻や子供は大丈夫なんですか?!」
「はい、そちらは問題ありません。我々と共に安全な所へ避難しましょう」
「わ、わかりました」
バネッサが領主の隣に並んで走る。
走ると言うが、普段書類仕事ばかりしている領主の速度は早くない。
追っ手はすぐに現れた。
「ヒャッハーッ!」
裏庭に出た所で、カトラスのような曲がった剣を持った猫背の痩せぎすな男が奇襲をしてきた。
それにいち早く対処したのはエリスだ。
「ふんっ!」
「ダハァ〜! 斬り甲斐のある女ダァ〜!」
「やってみなさいよ」
「気をつけなエリス! そいつは切り裂き魔のリッパー! 切り刻まれたような死体は全てそいつの仕業って言われてる! 凶悪な犯罪者だ!」
エリス対リッパーの戦いが裏庭の一角で始まった。
「問題ないわ! っ――バネッサ! 上!」
エリスが頭上を通った大きな影に反応する。
領主を含め、全員を圧死させるかのような大きな土塊が上空から降ってきた。
……これどうすんだ?
スキルやステータスを封印されて弱体化しているスイは、心の中で絶望する。
しかし空高く。天を貫くような雷が土塊を粉々に砕いた。
「ふむ、意外と脆いのだな」
レオーラの雷魔法だ。
そして新たに登場する闇ギルドの刺客。
「んあれぇ〜、死んでナイ? 潰れてナイ? オラ、ショック……」
リッパーとは対照的な太った大男だ。
「ショックだから……もっと潰すゥウウウウ!」
「無駄だ」
土塊の雨を次々と砕くレオーラ。
「辞めな、ブッチョ。あんた領主まで殺す気かい? 領主は生け捕りって言われただろ? 命令くらい守んな」
突如現れた新たな刺客。その女はブッチョよりも上の立場なのか、命令という形で意味のない攻撃を中断させた。
「オラ、命令守る……」
土塊の雨が止む。しかし今度はその巨体の拳がレオーラに直接向かう。
「オラ、この女潰ス。圧死させル〜」
「やってみろ……」
レオーラとブッチョの勝負が裏庭の一角で始まった。
「好きにしな。さてと、馬鹿は放っておいて、こっとも仕事しようかね。そこの護衛の女、領主を渡しな」
「お生憎とアタシらの団には仕事を放り出すヤツはいないのさ」
「そうかい。なら仕方ないねぇ。召喚――フレイムタイガー」
女が炎の虎を召喚する。
バネッサはそれを見て脳内の情報と照らし合わせた。
「炎の虎……そうか。貴様が炎笑のホウエンか」
「嬉しいねぇ。知っててもらえるなんて……」
「貴様の殺し方は惨いことで有名だからな」
「アハハッ! 惨いなんて失礼だねぇ! 丸焼けになっていく様を楽しんでいるだけさ。焼肉と同じだよ」
ムチをパシンと地面に打ちつけながら言うホウエン。
領主を守りながら二体一では分が悪いと思いながらも、バネッサは武器を構える。
そして、そんなバネッサを守るように、一匹の黒猫が前に出た。
「にゃーご!」
こうして、スイ対フレイムタイガーの戦いが始まる。
平和な港町の領主館は、一瞬のうちに戦禍の中心となってしまった。
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