港町で
「では使徒様は、その悪魔の因子のせいでスキルを封印され、ステータスも弱体化してしまった。ということですか?」
「うん。そうみたい」
「だから黒猫の姿から変えられないのね? 他の姿にもなれないの?」
「うん。真擬態も悪魔因子に侵されてたみたいだからね。あ、でも雷魔法は使えるよ」
アマテラース様に封印を施してもらった時、レオーラたちから見たら僕が光って黒猫の姿でいたらしい。
「ねこー! ねこー!」
サラちゃんが僕を抱えて喜んでいる。のはいいが、あまりぶんぶん回さないでほしい。怖い。
「サラちゃん、ダメですよ? 生き物はもっと丁寧に扱わないと」
「サラわかったー! ていねーに扱うー! 猫さん、クッキー食べろー!」
微笑ましいのはわかるけど、誰かサラちゃんの暴走を止めてほしい。
それから二週間が経過した。
ここまで街や村を経由して、僕らは学園都市行きの船がある港町ポートルーヤに着こうとしていた。
が、その時誰かが盗賊と戦っていることを確認した。
うちのメンバーは総じて正義感が強い者が多い。
レオーラとエリスを筆頭に助っ人に加わる。
残ったのは僕とクルルさん、ヒカリンちゃん、荷物持ち姉妹のマイちゃん、サラちゃん、くらいであった。
リエットさんはレオーラの事が心配で付いて行ったようだ。
数分後、捕らえた盗賊と一緒に皆が戻ってくる。
その中に見知った知り合いがいた。
王都のオーク討伐戦で一緒になったバネッサ姐さんだ。
「なんでバネッサ姐さんがここに?」
「えっ、猫が喋った!?」
「まあそうなりますよね」
僕が話しかけるとバネッサ姐さんが驚き、レオーラが同意していた。
そんなバネッサ姐さんにはエリスが説明をする。
「バネッサさん、これはスイなのよ。ちょっとわけあって、しばらく黒猫の姿になってるの」
「へぇ〜、呪いでも受けたのかい?」
「まあそんなところです」
バネッサ姐さんが頭をぐりぐり撫でてくる。
人よりも大きな剣を持っているからだろうか?
手のひらからは豆の感触がした。
「あんたらに会えてよかったよ。実は今、あたしらの組織でとあるギルドを追ってるんだ」
「バネッサ殿は傭兵団の一員でしたね」
「そうさお姫様」
「どんなギルドを追ってるの?」
「闇ギルド『首切り包丁』さ。主に暗殺を生業とする過激派ギルドでね。この先にある港町ポートルーヤの領主が狙われてるんだ」
エリスの質問にさらっも答えるバネッサ姐さん。
「依頼の内容を僕らに教えてもよかったんですか?」
「ふふ、教えた方が良いと判断したからね。手伝ってくれるだろう?」
「もちろんよ!」
「うむ。領主が狙われているとなれば、船も停止しているだろう。それにこの国の姫として、領主が狙われているのは放っておけない。微力ながら協力させてもらう」
エリスとレオーラが即答する。
僕も含めて、皆断るつもりはないようだった。
「そう言ってくれると思ったさね。ところで船でどっか行くのかい? 随分と多いようだけど?」
「学園都市よ。この町から船が出てるって聞いたから」
「なるほど、学園都市ねぇ。そりゃ懐かしい」
「バネッサ殿は卒業生でしたか」
「あぁ、団長と出会ったのも学園都市さ。って、こんな所で話す内容じゃないね。お姫様もいるなら適切な場所があるってもんさ」
というわけで、僕らは揃って港町ポートルーヤに移動し、領主の館にお邪魔した。
レオーラがいるだけあって対応が早く、闇ギルドが狙う領主と顔合わせをし、ついでにバネッサ姐さんの上司……傭兵団『朧月』の団長とも顔合わせをした。
「団長、ただいま戻りました」
「バネッサか……。早かったね……」
団長は歳若い青年……というより少年? だった。
バネッサ姐さんと並ぶと親子に見える。
ただどこか落ち着きあり、ミステリアスな雰囲気を纏っているため子供には見えないという、ある種矛盾したような不思議さがそこにあった。
「その者たちは……?」
「あたしの友人です。帰りが早かったのは姫様たちのおかげですよ」
「そうなんだね……」
ショタ団長はレオーラ、エリスを見て少し驚いたような顔付きになり、続いてククルさん、ヒカリンちゃん、リエットさんを見て軽く頷き、ピッケ君、ミィちゃんを見て深く頷き、席を立って近づいてきて荷物持ちの姉妹に飴をあげると、僕の頭を撫でて席に戻った。
「では、改めて自己紹介を……。私は雨ノ月蒼一朗……。傭兵団『朧月』の団長をしている……。よろしくね……」
「レオーラ・ミルガーザです。バネッサ殿には王都のオーク討伐でお世話になりました。父に代わって感謝致します」
「レオーラ様のメイドのリエットです! よろしくお願いします!」
「私は白竜のエリスよ。で、こっちがメイドのクルルで、巫女のヒカリンちゃん。二人とも私と同じドラゴンなの。こっちの四人は人間の友達よ。で、そこの黒猫が……」
「スイと言います。こんな姿で申し訳ありませんが、よろしくお願いします」
「ほう……喋る猫とは珍しい……。それに王女様にドラゴンか……。バネッサ、まさか君にこんな友人たちがいるとは思わなかったよ……。学生の頃の君が見たら、きっと卒倒するだろうね……」
「そんなことありません……と言いたいですが、あの頃のあたしではそうでしょうね」
今ではコミュニケーション豊かなバネッサ姐さんだけど、学生の頃は陰キャだったのかな?
ちょっと興味がある。
「さて、私たちが追っている闇ギルドのことについて少し説明しようか……。闇ギルド『首切り包丁』……。主に殺しを仕事にしている闇ギルドで、今回のターゲットはこの町の領主様だ……。ただし、今回の向こうの目的は殺しではない……。領主様を誘拐すること……」
「殺しではなく誘拐ですか?」
レオーラの質問に頷く雨ノ月団長。
「奴らは誘拐して目的を果たしたあとに殺すだろうね……」
「その目的とは?」
「古代兵器の復活さ……」
「古代兵器?」
「さすがに王女様でも知らないようだね……。私たちが集めた情報によれば、この町の近くに封印されているらしい……。とても恐ろしい、破壊と殺戮の古代兵器が……。闇ギルドはね、そういった世界を混乱に陥れるようなものを探し続けているんだよ……」
なんて迷惑なヤツらだ。
まあ侵略者やテロリストなんてそんなものだろうけど。
しかし古代兵器か……。アマテラース様、何か知らないかな?
メールで聞いてみよう。
古代兵器について何か知りませんか?
送信っと……。
「何としても守らなければいけない……。改めて協力してくれるかな……?」
雨ノ月団長の言葉に皆で頷く。
どの道この事件を片付けなければ学園行きの船が出ないのだ。
来るなら来い、闇ギルド!
コンコン。
「傭兵団の皆様。お茶と茶菓子をお持ち致しました」
館のメイドが一礼をして、台車を押しながら入ってくる。
「態々ありがとうございます……」
「いえいえ」
メイドはにっこりと微笑む。
その瞬間、そのメイドから殺気が漏れた。
ボンッ!!
派手な爆発。
部屋は消し飛び、館の一部が崩壊した。
館にいる人たちが騒ぎを聞きつけて駆けつけてくる。
僕らはヒカリンちゃんが張った結界のおかげで無事だった。
「あらあら。なによ、全員生きてるじゃない?」
メイドさんは殺気を隠さない。どうやらこの人は敵のようだ。
「貴女の仕業ね? お嬢ちゃん?」
メイドさんがヒカリンちゃんを見る。
その隙にリエットさんとクルルさんが左右から襲いかかった。
「ダメよ」
ボンッ!
「うおっ!?」
「爆弾人間ですか? 派手ですし、明らかに陽動ですね」
「バネッサ、レオーラ様たちと領主様のもとへ……」
「承知!」
雨ノ月団長は戦闘力の低いピッケ君たちを守るために残るようだ。
ここは任せても良さそうだし、僕もレオーラたちに付いて行こう。
僕はパニックに陥る館の中を、猫の姿で走り抜けた。
お読みいただきありがとうございます。




