別れと出会い
エリスたち竜の巫女たちの舞が終わり、ドラゴンたちは翌朝まで宴会をしていた。
エリスはピッケ君たちに二週間くらい実家に帰ると言っていた。
王都までは三日弱かかるので、残りの滞在期間は六日くらいある。
ライト君は三日後に島を去る予定らしい。
ドラゴンの力は封印されているので、誰かが大陸まで送るのだろう。
僕は六日間、エリスの幼馴染みたちと親睦を深め、来年また来ると約束をした。
ドラゴンたちの意識も変わってきたし、来年の祭りは純粋に楽しめるようになっているといいな。
そして六日が経過し、僕はエリスと一緒に王都に戻ることになる。
ライト君にはレイラ嬢が同行したようだった。
彼女は彼女で個人的に思うことがあったようだ。
長老様にも許可を得たと言っていたし、人の世で二人で暮らしていくのだろう。
それはいいのだが……エリスの様子が何か変だ。
僕を顔を合わせようとしない。
この六日間、巫女の塔に篭って何かやっていたようだが、何をしていたんだろう?
「なあエリス。なんでこっち見ないの?」
「な、なんでもないわよ、ケダモノ!」
スライムだよ!
というツッコミは控えた。
他のドラゴンたちもいるし。
そんな戸惑う僕にクルルさんが言う。
「スイ様、気にしないでください。エリス様は次世代の残し方を勉強した為、頭の中がピンク色になっているのです」
「あぁ、ようやく教えたんですね」
エリスが更に茹でタコみたいになった。
そんな時、一匹のドラゴンが慌ててやってくる。
「長老様! て、手紙が、手紙が届きました! エリカ様からです!」
「なんだって!?」
「お母様の!?」
エリスのお母さんから手紙らしい。
エリスが読み上げる。
「エリスへ。お元気ですか? 今年の竜闘祭は盛り上がりましたか? 勝ちましたか? エリスは綺麗になっていますか? 巫女の修行は大変ですか? お婆様はお元気ですか? 恋人はできましたか? 皆とは仲良くやっていますか? そちらは暑いですか? それとも寒いですか?」
質問ばかりだ。
「もうお母様、質問ばかりで自分の近況は何にも書いてないじゃない。あ、もう一枚あった。学園の入学案内書? あ、こっちにも手紙書いてある。『お友達と遊びに来てね』……え? これだけ?」
「相変わらず手紙を書くのが下手な娘だねぇ」
「でも遊びに来てってことはここにいるのよね? お母様!」
「だろうねぇ」
遊びに来いで学園のパンフレットじゃなくて入学案内書を渡してくるってどういうことだろう?
入学を勧めているのでは?
「どうすんだい? エリス」
「もちろん行くわ! でもリンリンたちだけじゃなくてピッケ達も紹介したいから、私は一度王都に戻るわ!」
「そうかい。ならあたしからの伝言も伝えておくれ。いつでも帰ってきなってね」
「わかったわ!」
長老様との別れの挨拶を終えたエリスが僕を見る。
といっても目は合わせてくれない。
「……ねぇ、スイの事もお母様に紹介したいなって思うんだけど……また一緒に来てくれる? あ、紹介って言っても友達としてだからね!」
「わかってるよ。でも一緒には行けない。僕もやらなきゃいけないことがあるからね」
「じゃあスイも後で学園に来て! 私、そこで待ってるわ!」
来てくれなきゃ嫌!
というエリスの我が儘な気持ちが目に篭っている。
「わかったよ。僕もエリスに会わせたい人がいるから、その人を連れて学園に向かうよ」
まあご両親の許可が出るかどうかわからないけど。
僕がそう言うと、エリスはなぜか不機嫌そうになった。
「…………ふ〜ん、私に会わせたい人ねぇ。その人って王都にいるんでしょ?」
「そうだよ」
「じゃあ私から直接話すわ。学園じゃなくて王都に着いたら紹介して?」
「え、でも……あ、はい。紹介します」
有無を言わせないエリスの態度に僕は屈した。
レオーラにも魔法通話で話しておこう。向こうも時間は取れるようだ。
しかし何故だろう?
二人を合わせてはいけないような気配がする。
……神様、助けて。
「では行くとしましょうか」
「島の外、楽しみです」
王都に出発しようとすると、なぜかメイドドラゴンのクルルさんとライト君の妹のヒカリンちゃんが一緒に付いて来る気満々だった。
どういうことだ?
「エリス様のサポートとして付いて行こうかと……」
「私は外の世界を見る為に、です。長老様の許可も得ました」
「そっか」
ピッケ君たち、びっくりするだろうなぁ。
エリスがドラゴンってだけでも驚きだろうに、冒険のサポートに二人も連れて来ましたって。
改めて、僕は見送りに来ていたゴウエン君たちを見る。
「楽しかったよ。来年また来るね。その前に学園で再会するかもだけど」
「おう! 今度は勝負できるといいな!」
「また島の案内してあげるよ!」
「今度は外の本を持って来てくれ」
「エリスちゃん、スイ君、またね!」
エリスも祖母である長老様と改めて別れの挨拶をしていた。
「エリス、風邪引くんじゃないよ」
「人間じゃないんだから、そう簡単に引かないわよ」
「ヒッヒッ、そうだね」
「お婆様も元気でね。勝手に死んじゃダメだからね」
「そりゃ杞憂さ。今からひ孫が楽しみなものでねぇ」
「こここ、子供とかまだ全然作ろうと思わないし!」
エリスが照れながら飛び出す。
あいつ、団体行動できないのか?
「待ってくださいエリス様」
「置いてかれてしまいます」
クルルさんとヒカリンちゃんも飛び出した。
僕も遅れて飛び立つ。
顔だけ振り向いて浜辺を見ると皆が手を振っていた。
色々あったけど、ドラゴンたちとの時間は楽しかった。
三日弱飛行し、深夜に王都の近くの森に降りる。
エリスと待ち合わせたカエル岩がある場所だ。
ただし、今夜はそこに待ち人が一人いる。
レオーラだ。
「ん? ねぇスイ、この人ってお姫様じゃなかった? なんでここにいるの? 偽物?」
エリスがレオーラを指差してそう言う。
こいつ、なんて失礼なことを……。
「私たちを討伐しに来たのでしょうか?」
「人間一人でそれは無謀です」
クルルさんとヒカリンちゃんも何か勘違いをしているようだ。
僕はレオーラの側にいき、エリスたちに向く。
「エリス、レオーラが出発前に言ってた紹介したい人だよ。ちょっとした縁があって知り合ったんだ」
「初めまして……ではありませんが、こうして言葉を直接交わすのは初めてですね、白竜の巫女エリス様。レオーラ・ミルガーザと申します。以後お見知り置きを」
レオーラが優雅な一礼をする。月の明かりが余計に映えさせていた。
「……そう。まさかスイの知り合いが王女様とは思わなかったわ」
「それは私も同じです。まさか貴女がドラゴンだったとは……しかも仲間を連れて戻ってくるとは思いませんでした。クルルさんとヒカリンさんでしたか?」
「あら? どうして二人の名前を知ってるのかしら?」
「それはこれです。使……スイ様から貰った魔道具で、離れていても直接通話ができるのですよ。知らなかったのですか?」
「……そうねぇ。今知ったわ。教えてくれてありがとう王女様。便利そうな魔道具ねぇ。スイ、私にもそれ頂戴?」
なんか二人とも怒ってないか?
やっぱり会わせるのはダメだった気がする。
「わ、わかっ――」
「それは私に勝ったらというのはどうでしょうか?」
エリスの謎の威圧感に気圧されて「わかった」といいかけるが、そこにレオーラが被せてきた。
さらに剣まで抜いている。
そしてエリスも……
「ふ〜ん、人間の分際で私に勝つつもりなんだ? 笑わせてくれるわねぇ」
悪役じみたセリフと共に剣を出現させた。
どうでもいいけど、エリスの悪役って似合うな。
「では審判は私が務めさせていただきます。両者、構えて……」
なぜかクルルさんが審判役を買って出た。
「これが女と女の戦いですか。燃えます」
「そうは見えないけど?」
無表情で語るヒカリンちゃんは、二人の戦いの末を見守っていた。
そして、深夜の森でレオーラとエリスの戦いが開始されるのだった。
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