スイの知らない真実
時間は少しだけ遡り、光竜ライトを倒したスイがエリスとの邂逅をしている頃。
気絶する光竜ライトから分離するように一人の男が出てきた。
「ふむ……負けてしまいましたか」
モノクルを付ける執事のような格好をした男。
その男は悪魔だ。
強欲の悪魔マモン。
彼は精神世界で強い光を放つライトの欲を見つけ、チカラを貸した。
そして光竜ライトが竜の神となって世界を支配する様を見るつもりだった。
だが失敗した。
一匹の竜によって。
「あのドラゴンは何者でしょうか? 神の祝福を受けているようでしたが、いったい……」
と、マモンは自分の右腕が失くなっていることに気づいた。
そしてかけられる少年のような声。
「やあ、奇遇だね。マモン」
その正体は悪戯好きの神ロキことロッキーだった。
「ほっほっほっ! まさか貴方でしたか。あのドラゴンとはいったいどういった繋がりが? それから返してくれませんかね? 右腕」
ロッキーはマモンの右腕をポイっと投げて返し、マモンが繋げるのを待って語り出した。
「あの子とはね、親友なんだ」
「ほほう? 親友ですか? それは益々珍しい」
「でしょう? ボクのお気に入りだよ」
マモンはロッキーと話しながらも逃げる準備を開始する。
悪魔である自分が死ぬ事はないが、現実世界で死ねば復活するのに時間がかかるからだ。
それに冷や汗が止まらなかった。
……これは少々不味い展開になりましたな。まさかあのロキが出てくるとは。
ドラゴンを含めて全ての生物をおもちゃとしか思っていない。そんなロッキーが自分の目の前にいる。
しかも理由は自分のおもちゃに手を出されたからだ。
そして準備を整えたマモンは逃げようとして……
「逃がさないよ? ねぇマモン、何かこっそり小細工してたみたいだけど、それがボクに通じると思ってるの?」
「ほっほっ。やはり無駄でしたか。仕方ありません。ここは大人しく死ぬ事にしましょう」
「うん。そうだね」
「一つお聞きしても宜しいでしょうか?」
「なにかな?」
「なぜ貴方が直接出てきたのか教えていただけませんか? 貴方が他人を気にかけることに、どうにも腑に落ちないのですよ」
「なんだ。そんなことか。いいよ。教えてあげる。さっきも言ったけど、あの子はボクの親友さ。友達が喧嘩を売られたら手助けするのが普通だろう?」
普通ではない。とマモンは思った。
しかも助っ人が神とかズルすぎる。とも。
「私は知らぬうちに虎の尾を踏んでしまったようですな」
「そういうこと。あぁ、ついでに言うけどあの子はドラゴンじゃないよ」
「ドラゴンではない、ですと?」
「うん。あの子はスライムなんだよ。凄いでしょう?」
「ほっほっほっ。スライムですか。まさか最弱の魔物がドラゴンに勝ってしまうとは。なるほど。私も欺くとは。貴方が気に入るのもわかります」
「そうだね。じゃあバイバイ。千年後にまた会おうね」
「それはごめんですな」
マモンの身体が細切れとなって消滅する。
そしてロッキーは気絶している光竜ライトを捉えに来たドラゴンたちに見つかる前に、その場から姿を消した。
こうして、スイやドラゴンたちの知らない所で黒幕が屠られていた。
そして更に、光竜ライトの悪魔因子除去の儀式が終了した頃。
白竜エリスは祖母に呼び出され、巫女の塔の地下に来ていた。
「ねぇお婆様。ここって入っちゃダメって言ってなかった? いいの?」
「あぁ。エリス、お前は知っておくべきだ。あのスイという少年……竜神様のことをね」
「ふ〜ん…………えっ? スイが竜神? お婆様何言ってるの?」
「初めてあの黒い姿を見た時にもしやと思ったが、竜神の霊石をいくつも持っていること。そして不滅の存在であることを見て、確信したよ」
「お婆様、何言ってるの? スイは竜神なんかじゃないわよ?」
スライムよ。
とエリスは言いたかった。
しかし祖母は…………
「わかってるよ。隠したいんじゃろ? 竜神様が顕現されたとわかれば皆大騒ぎじゃ」
「いや、だから……」
スライムなのよ!
とエリスは強く主張したかった。
竜神の霊石を含めて献上品集めで献上した品物は、全てスイがスキルを使って改造した自分の分裂体なのだ。
しかも復活のカラクリも既に説明されているし、改めて検証もしている。
恥をかいたストレス発散も含めて、スイを伸び殺したり、圧死させたりしたのだ。
不滅の存在ではないが、限りなく不滅の存在なのは間違いない。
しかしそれがエリスの中でイコール竜神様とはならなかった。
むしろスライムだ。エリスの中ではスイはこれからもずっとスライムなのだ。
……どうしよう。お婆様がとんでもない勘違いをしている。
なぜスイのことを竜神と勘違いするのか。
それは案内されて辿り着いた壁画を見た瞬間わかった。
「これが竜神様だよ。エリス、お前はなぜこの世に黒竜がいないか知ってるかい? それは竜神様が黒竜だからさ」
それは黒の世界で着色したスイのドラゴン形態とそっくりだった。
……これはお婆様が勘違いしてしまうのも無理はないわ。でもあいつ、スライムなんだけどぉ!
「ヒッヒッヒ。まさか生きてる間に会えるとはねぇ。あたしゃびっくりだよ」
私もびっくりよ。お婆様の勘違いに。
とはさすがに言えないエリス。
長老様はスイが竜神だと本気で思っているようだった。
「エリス、あんた竜神様のことを好いてるんだろう?」
「えっ!? い、いやねお婆様、そんなことないわよ! スイは友達よ、友達!」
「自信を持ちなエリス。あんたは可愛いよ。だからこれからも竜神様と深く関わって、次世代を残しなさい」
「何言ってるのよお婆様。もう次の世代は育ってきてるでしょ? 私も安心して冒険を続けられるわ」
「……教育が必要だねぇ。出て行くまでにクルルに教わりな」
こうして、エリスの祖母による孫を使ったスイ陥落作戦が遂行されようとしていたが、スイがそのことを知るのはもう少し先になる。
ちなみに、神様たちの中で……特に竜の神様たちだが……エリスへの期待値がかなり跳ね上がっていた。




