VS紫黒の魔光竜
「長老様、巫女たちの準備が整いました。いつでも始めることができます」
「あい、わかった」
側近の騎士ドラゴンに頷くエリスの祖母。
ドラゴンたちの長老は悪魔の因子に取り憑かれたドラゴンたちを戻す為、儀式の準備を進めていた。
「孫たちが空で頑張ってんだ。こっちも負けてられないよ。祈れ、巫女共! 悪魔共を祓うんだよ!」
「「「「「はい!」」」」」
巫女ドラゴンたちが祈る。
その祈りは神への祈りだ。自分たちを見守る竜の神への祈り。
そしてその祈りはチカラに変わる。悪魔を祓うチカラに。
そのチカラは巫女たちを守護するドラゴンに集い、その攻撃を受けた悪魔たちは驚くほど簡単に消滅した。
悪魔の因子に取り憑かれたドラゴンたちも正常に戻る。それはまさに神の奇跡を体現しているかのようだ。
地上の大戦は、このままドラゴンたちの優勢で終わるだろう。
長老は空を見上げた。未だ暗い雲に覆われた空だ。
そこで違う孫と同世代のドラゴンたち。
誰が見ても劣勢だった。
悪魔と完全に融合した光竜ライトは物理攻撃も魔法攻撃もいっさい効いていない。
防御をすることも無意味であると言わんばかりの圧倒的な力による暴力。
徐々に仲間たちがやられ離脱していく。
その中でただ一人……いや、一匹だけが善戦していた。
孫が島の外から連れて来た一匹の野良ドラゴン。
どこかお調子者で、楽観的で、しかし度胸はあり、まるで死ぬ事が怖くないと言わんばかりの立ち回りをする不思議なヤツだ。
今も戦闘中だと言うのにエリスを使って読めない攻撃を繰り出している。
あんな巫山戯た戦い方があっていいのかと、誰もが思った。
「期待しちまうねぇ」
「長老様。彼は何者なんでしょうか? 長老様には心当たりがあるように思えますが……」
「さあね。ただ、もしかしたら……と思うだけだ。今は期待するしかないねぇ。ひっひっひっ」
左様でございますか。
と騎士ドラゴンは言って下がる。
そして長老は巫女だけでなく、手の空いたドラゴンたちにも告げた。
「ひたすら祈りな。私らの神は、きっと助けてくれるよ」
ドラゴンたちは祈った。ただひたすらに祈った。
そして、その祈りは……………………
時はドラゴンたちが祈りを始める前に遡る。
光竜ライトが第二形態になり、スイたちの前に現れた頃だ。
「くっ……ライトの野郎。なんつぅ威圧感を放ってやがる」
「あら? 怖いのゴウエン? いいのよ? 泣きながらママさんの所に帰っても」
「怖くねぇよ! むしろこの状況で逃げ出した後の方が怖いわ!」
「お二人とも。無駄話は後にしてください」
「そうだよ。攻撃が来るよ!」
ライト君の放つ魔法を避けるために散開する。
「透過、透過、透過、真捕食、透過、真分裂、透過」
僕は避ける事で精一杯だが、ドラゴンたちは反撃もしていた。
だがダメージはない。
「無駄ダァ! 完全に悪魔のチカラを取り込んだ僕には魔法は通じなイ! あぁ……いいぞ……これが、これが僕の求めた最強のドラゴンだァ!」
自分に酔うライト君。
「何が最強よ! 悪魔と融合しようが私には関係ないっつーの!」
そこにエリスが近づいて尻尾ソードでカウンター攻撃をした。
ライト君の肩を切り裂く。
どうやら物理攻撃は効くようだ。
「エリスだけじゃないぜ!」
「僕もいますよ!」
「私だって!」
僕以外のドラゴンが一斉に突撃した。
鉤爪で、牙で、ライトを食いちぎろうとする。
さらに地上からは大きな岩が飛んでいた。魔法じゃない岩だ。これはランランさんだろう。
複数のドラゴンによる一斉攻撃だ。
ライト君も無事ではないだろう。
しかし驚くべきことにライト君は無傷だった。
嘘ん………………。
「君たちはダメダ。弱すぎル。僕とは格が違うんだヨッ!」
ライト君が強引に振り解いた。
「なっ!?」
「そんな馬鹿な!?」
「これ、どうやって倒すの?」
距離を取ったゴウエン君、ヒエール君が驚く。
そしてライト君はリンリンさんの言葉に反応した。
「倒ス? 今の僕を倒すだってェ? アハハッ! 笑わせてくれるじゃないカ! そんな事は、不可能なんだヨ!」
「避けてリンリン!」
リンリンさんにブレスが放たれ、エリスが叫ぶ。
まずい。カバーできない。
このままリンリンさんが瀕死の重症を負ってしまう。
しかし、リンリンさんの前に飛び出す影があった。
ヒエール君だ。
「ぐあああああああああっ!!」
「ヒエール!!」
「ヒエール君!?」
ライト君の直撃をくらったヒエール君は下に落ちていく。
リンリンさんが慌てて追いかけ、落下による衝撃は防いでいた。
「どうして! なんで庇ったの!」
「昔、僕は……今のライトと同じだったんだ……。自分以外を見下して……僕は世界一賢い竜になるって……本気でそう思っていたんだ……。でも君が……君が僕を変えてくれた……。困っている僕に……君は手を差し伸べてくれた……。そこに悪意がなくて……ただ純粋な君の優しさに……僕は、救われたんだ……」
そう言い残してヒエール君は気絶する。
リンリンさんはそんなヒエール君を回復させる為に離脱を選択し、巫女の塔に向かった。
「ライト! てめぇ!」
「あんた、リンリンを殺すつもりで撃ったわね!」
「それの何が悪イ? これから僕の作る世界に弱いドラゴンは要らなイ。君もダ、ゴウエン!」
ライト君がゴウエン君に急接近する。
そして片腕を振り下ろした。
「――がはっ!?」
ドオォン!
ゴウエン君がもの凄い勢いで地面に叩きつけられた。
いくら頑丈なゴウエン君でもあれでは再起は難しいだろう。
地面に倒れるゴウエン君にはランランさんが駆け寄っていた。
「くっそ……ちくしょ……」
ボロボロになりながらも空へ飛ぼうとするゴウエン君。
するとランランさんが竜形態になってゴウエン君を止める。
「もういいよ。あんたはよくやったよ。後は二人に任せよう?」
「でも……」
「わかってるでしょ? あたしもあんたも、攻撃が通らない。一方的にやられるだけ。それとも死にに行くつもり? あたしは死んでほしくないよ」
「…………………………あぁ」
ランランさんの説得に負け、ゴウエン君は巫女の塔に運ばれた。
そして次に狙われたのはエリス。
ではなく……
「次は君の番ダ! 死ネェ!」
僕でした。
「透過」
すり抜けた魔法は地面を抉る。
「相変わらず厄介なスキルだネ」
「どうも。それよりも余所見してていいの?」
「はあっ!」
エリスの尻尾ソードがライト君を襲う。
今度の攻撃は難なく躱していた。さっきのカウンターは態と受けたな。
「あら? 避けるんだ?」
「そうだネ。やっぱり君の攻撃は致命傷になりかねなイ。さすが無を付与するといわれる白竜ダ。エリス、君の一族だけは残してあげるヨ」
「余計なお世話よ!」
エリスが攻撃を繰り出す。
しかし単調すぎだ。見なくとも躱されているじゃないか。
「無駄サ! 君の攻撃は見切りやすいからネ!」
「うるさい!」
エリスが予想できない攻撃をする技術があればなぁ。
あっ! そうだ! 良い事思いついた!
僕はエリスの背中にスライム形態になって乗る。
びくっと震えたエリスだが、僕は構わず素早く背中を這った。
それそれそれー!
「ぎゃははははっ! ちょっとスイ! 何してるのよ! 今戦ってる最中よ! あははははっ!」
「――グハッ!? な、なんだその動きハ……読み切れな――ゴハアッ!?」
いいぞいいぞ! ライト君に重傷を負わせることができた!
さあ行け! リーサルウェポンエリス!
と意気込むが……
「あっはははっ! はははははっ! あっ……もうダメ……」
ひゅ〜〜〜〜〜〜ずどんっ!
エリスが力尽きて落下してしまった。
地面に寝る竜形態のエリスは口から舌と涎を出してビクンビクンと痙攣していた。
なんかごめんよ。
「はぁ……はぁ……やってくれたネ。弱い虫ケラのくせニ」
エリスの尻尾ソードで切り刻まれたライト君は、身体から血を流しながら睨んでくる。
「その虫ケラに追い込まれてるのはどこのドラゴンかなぁ? 君の言う最強のドラゴンって案外弱いんだね」
「コロス……!」
「やってみなよ! 君に僕を殺すことは不可能だからさ!」
僕の分裂体がこの世界に何体いると思っている。既に島にもたくさん仕込んだ。ここで負けても復活して戻って来てやるよ。
「黒雷砲!」
「ふん、無駄ダ。僕に魔法は通じな――イッ!? ギュラァアアアアアアアアア!!!!」
牽制で放った黒雷砲がライト君にダメージを与えた。
僕も通じると思ってなかったけど、ノーガードだったライト君は右目を失った。
悲鳴が痛そうだ。
「な、なぜダ!? なぜ貴様の魔法は通ル!? まさか貴様、悪魔に対抗するスキルを持っているのカ!?」
悪魔に対抗するスキル?
そんなの持ってなくない?
「ドラゴン族だけ通じないとかじゃないのか?」
「そんなはずがないだろウ! 悪魔は魔法に対する絶対の優位があル! それを打ち破ることができるのは神のチカラだけダ!」
神のチカラ?
それなら心当たりがあるな。
ゼウッス様の指輪から手に入った雷魔法か、ロッキーから貰った黒の世界か。
このどちらかが悪魔の効果を無効にしたのだろう。
まあ教えないけど。
「僕の攻撃が通るってことはさ。もう君に勝ち目はないわけだ。大人しく降参したら?」
「ふざけるナ……僕が降参だト? 僕ハ王になるンだ! この島を支配する絶対的な王に! そして竜の神となって世界を支配スル!」
竜の神になるか。
「お前がごときが神になれるわけないだろ」
「ナンダト……」
「誰かを助けようともしない。誰かに優しくすることもない。自分さえよければいいと思ってる。お前、女の子にあげるプレゼントを迷ったことないだろ?」
「ソレガドウシタ?」
「神様だって迷うんだよ。夫婦で喧嘩だってするし、青春を謳歌したいって意外と人間臭い所もあるんだ。我が儘で身勝手なのは同じだけど、でもお前みたいに嫌なヤツじゃないんだよ」
「戯言ヲ……! もういい、ここでキエロ!」
ライト君がブレスを放とうとしている。
それこそ僕には通じない。
透過ですり抜け……
「イイノカ? 後ろには巫女の塔があるゾ?」
「………………っ!?」
これでは透過のスキルを使用できない。
城崩しと同じ……いや、それ以上に悲惨な事になる!
「弱者を守るのも常に弱者ダ! 死ネ!」
「くそっ! 黒雷砲!」
僕はライト君の放ったブレスに黒雷砲をぶつけた。
しかし力の差は圧倒的だった。
張り合えているのは悪魔に対抗するスキルが働いているからだろう。
徐々に黒雷砲の長さが小さくなり、ライト君のブレスが目の前に来た。
もうダメだ。
そう思ったその時、不思議とチカラが湧き上がるのを感じた。
ドラゴンたちだ。ドラゴンたちが僕にチカラにくれる。
「祈れ! もっと強くだ!」
「どうか負けないで……」
「神様、竜神様……どうか私たちをお守りください……」
「子供たちを助けて……」
「この絶望からお救いください……」
――あぁ、助けるよ。今それができるのは、僕しかいないんだから。
「負けてたまるかぁあああああああ! うおりゃあああああああああああああっ!!」
最後まで絞り出せ! この命が尽きてもいい!
ドラゴンたちを、守るんだ!
「あああああああああああああああああああああっ!!!!」
「そんな馬鹿ナ……こんな事ガ……僕は、最強ニ…………………………」
そして、黒雷砲が押し勝ち、ライト君の口を貫いたのだった。
お読みいただきありがとうございます。




