強い欲望
ドラゴンたちの祭り。竜闘祭に参加した僕は、最後の種目リレーでアンカーをすることになり、スライムの特性と技能の透過を使って光竜のライト君に圧勝した。
「凄いよスイ君!」
「お手柄だな!」
「よくやった!」
「ゴウエン、君は上司なのかい?」
リンリンさん、ランランさん、ゴウエン君、ヒエール君が労いの言葉をかけてくれた。
「やったわね、スイ! あははっ! これで一生あいつの顔を見なくて済むわ!」
最後にエリスが抱きついてきた。それはいいが、こいつ無自覚なのか?
人形態だと一部の発育が無駄に良いせいで呼吸がし辛いんだけど?
パチパチパチ。
そんな勝利を祝う僕らの前に、拍手をしながらライト君が登場した。隣には悔しそうなレイラ嬢がいる。
「おめでとう。いやぁ〜、負けちゃったよ」
「ライト、約束は守ってもらうからね」
エリスが一歩前に出る。
そんな果敢なエリスに対してライト君は……
「嫌だ……と言ったら?」
紫と黒が混ざったようなオーラを出して拒否をした。
「正直言って、今回の祭りはどうでもよかったんだ」
なんだ? 何かヤバい……。
「ラ、ライト様?」
側にいるレイラ嬢も気圧されるように後ずさる。
「ドラゴンはこの世でもっとも強くあるべきだ。そしてそのドラゴンの中でも一番強い者が最強なんだ」
ライト君の紫黒のオーラは徐々に強くなっていく。
「僕はこれからドラゴンたちを支配する! そしてこの世界も支配する! 僕こそが――竜の王だ!」
島を包み込むほどの黒いオーラ。
それは結界のように島を囲む。
そして、その上空に君臨するのは、紫黒の光竜だった。
「召喚――悪魔蜥蜴人!」
ドラゴンの島は、前代未聞の出来事に混乱することになる。
光竜ライトの闇堕ち。
それは島の各所で混乱を招いていた。
ライトが召喚した悪魔蜥蜴人は、ドラゴンたちを無差別に襲う。
女、子供、老竜。参加者、観戦者。実況、運営委員、長老。
この世で圧倒的な強さを誇るドラゴンたちでさえも苦戦を強いられていた。
「子供たちは何としてでも守れぇ!」
「結界を早く壊すんだ!」
「外に! 島の外に逃げろぉおおお!」
「ぐわぁああああっ!」
「おい! 大丈夫か……っこれは!?」
一匹のドラゴンが重症を負い、直後に不思議なことが起こった。
ライトと同じ紫黒のオーラに身が包まれ、悪魔蜥蜴人たちを指揮し始めたのだ。
「な、なんだと!?」
「これはまずい……」
狼狽えるドラゴンたち。そんな中、音竜オンプによる伝令が島に響く。
『長老様より伝令! 島の東方にある巫女の塔に避難せよ! 繰り返します! 島の東方にある巫女の塔に避難せよ!』
「巫女の塔だ! 巫女の塔に急げ!」
ドラゴンたちは敵の攻撃を防ぎながら島の東方にある巫女の塔に向かった。
エリスのお婆さんもとい、長老様の指示で、島の東方にある巫女の塔に来た。
大勢が集まっている為、皆ドラゴン形態ではなく人形態だ。
そして今、巫女の塔はドラゴンの巫女たちによる強力な結界で護られていた。
疲弊したドラゴンたちがこれからどうするのかと語り合う中、長老様が建物の中から登場し、僕らを見渡す。
「これで全員か。半分ほど向こうに取られちまったねぇ」
「長老様! 何か作戦があるのですか!? このままではドラゴン族は……」
「わかってるよ! 少し黙りな!」
長老様の威圧に怯えたのは子供ドラゴンたちだ。
「あの長老様……子供たちもいますので……」
「それもわかってるよ。でも悠長にもしてられないからねぇ。なにせ、光竜ライトは悪魔と契約してんだから」
「あ、悪魔と……」
「なんてことを……」
「あいつの親たちは何をしているんだ!」
「静かにしないかい。あいつの親や親族は、ここにいる妹以外もういないよ」
騒ぐドラゴンたちを諭すように長老様がそう言った。
光竜ライト君の妹は長老様の隣に来てお辞儀をする。
その後簡単な自己紹介があり、彼女は純血種のドラゴンだが親や親族たちの考えに同調することなく、巫女としての修行を積んでいるそうだ。
「長老様、いないというのはもしや……」
「殺したのさ。光竜ライトは自分の手で家族や親族を殺した。つい先程の事だ。手駒にすることもなく一蹴されていたよ。今やこの島で光竜の血はこいつだけさね」
ライト君の妹――ヒカリンちゃんが前に出る。
どうでもいいけどヒカリの後にン付ける必要あったのかな?
「私は兄を庇うつもりはありません。悪魔との契約も同族殺しも極刑に値する罪です。しかし、兄も苦しんでおりました。ずっと両親や親族から期待されて、その期待は兄に対するものではなくいつか来る自分たちが優遇される為で……きっと長老様の庇護下に入った私を、兄はずっと憎んでいたのかもしれません」
周りから歪んだ価値観を植え付けられて、それが芽吹いた結果がこの有り様だ。
「兄はずっと苦しんでいました。今もそうです。お願いします! 兄を止めてください!」
深く頭を下げるライト君の妹ちゃん。
だがドラゴンたちはどこか不満気のある様子だ。
そんなドラゴンたちが多い中、声をあげたのはエリスたちだった。
「任せなさい!」
「ああ、幼馴染みとして一発くらいぶん殴ってやらねぇとな!」
「僕も彼の最近の言動には思う所があってね」
「あたしも! 地竜の意地を見せてやる!」
「私はちょっと怖いけど……皆でやれば大丈夫だよね」
「エリスさん……ありがとうございます!」
僕も手伝うよ。
そう言おうとしたが、横槍が入る。
「お前ら幼馴染みだからって勝手なこと言ってんじゃねぇぞ! 俺はやらねぇからな!」
一人のドラゴンが声高々にそう宣言したのだ。
エリスたちよりも歳上っぽいのに情けない。
しかしこんな時だからこそなのか、エリスのカリスマ性が発揮させることとなった。
「あんたこそ何言ってんのよ! やらないってどうするの? 逃げるの? 結界も破れないのにどうやって!? 戦わなきゃ殺されるわよ?」
「そ、それは……皆で結界を破る方に全力を向ければ……」
「そんな事するならあいつ一人ぶっ倒した方が楽よ!」
うんうん、と僕は頷く。
結界を破ることを考えていたドラゴンたちも、次第にエリスと同じ考えに至ったのか、賛成しているようだった。
「私たちがあいつを止めるわ! その間に皆は地上の変な蜥蜴を駆逐しなさい!」
「お、おう! 任せろ!」
「しくじるなよ!」
「期待してるからな!」
「話は纏まったようだねぇ。じゃあ、対悪魔作戦を考えようじゃないか。悪魔にされた奴らも戻してやらないといけないしねぇ。ヒッヒッヒッ……」
今は長老様が一番悪魔っぽいですよ。
と側に控える騎士ドラゴンが言っていた。
「黙りなぁ! さっさと準備するよ!」
「「「「御意!」」」」
地上の悪魔蜥蜴人は長老様に任せてよさそうだ。
「じゃあ行くわよ皆ー! と、スイ! あんたもこっちよ! ライトの魔法を防ぎなさい!」
「わかってるよ」
僕はエリスと幼馴染みのドラゴンたちと共に、黒い空に君臨するライト君に挑むのだった。




