竜闘祭③
ドラゴン。
この世界では生物系の頂点に君臨する最強種。
そのドラゴンたちは今、二つの意見に分かれて対立している。
ドラゴンはドラゴン同士で番いになり、他種族の血を取り入れないで発展しようとする純血種。
対して、他種族とも手を取り合い、発展していくべきだと主張する混血種。
どちらもメリット、デメリットは存在するが、正直それはあまり関係がない。
なぜなら賭けているのはプライドだけだからだ。
そして今、祭りを舞台に二つの派閥によるプライドを賭けた戦いが始まろうとしていた。
『さあさあ! 小休憩も終わり、両チームの再編成も済んだ所で、第二種目にいってみましょう! 第二種目はこちら――献上品集め! ルールは簡単! こちらの木版に書かれた品物を長老様の所まで持ってくる! それだけのことです! ただし! 長老様が認めない場合は無効になります! 相手チームよりも早くお題の品物を持って来た方が勝利です!』
つまりは借り物競争ということか。
『それでは皆様、準備はよろしいでしょうか? 競技開始!』
音竜オンプさんの号令でドラゴンたちが一斉に飛び上がる。
相手の赤チームは『ヤシの実』『高価な彫像』『非常食』。
僕らの白チームは『真珠の付いた珊瑚』『炎鼬のローブ』『竜神の霊石』……だった。
……待てこら。なんだこの格差。
「そ、そんな……」
「えーっ!? よりにもよってなんで難しい方なのよ!」
「エリス、これはもう無理だよ」
「諦めないでぇ!」
エリス、ランランさん、リンリンさんの三人が狼狽えている。
白チームの他のドラゴンたちもだ。
「運が悪ぃな」
「あぁ、去年も赤チームその前もずっと赤チームだったのに。なんで今年に限って……」
う〜ん……何となく引っかかる事があるんだよな。
僕はゴウエン君とヒエール君にある質問をする。
「なあ、もしかして例年第一種目を勝った方が難しいお題を引くんじゃないか?」
「え? そんなことは……いや、確かにそう言われると……」
「そういや去年も一昨年も第一種目は白チームが勝ったな。その前は……」
「赤チームだ。その年は赤チームのお題はかなり難しかったはずだ。最後の一つが手に入らなくて負けていた」
つまり普通であれば向こうのチームに無理難題のお題がいっていたはずだ。
こりゃ運営に赤チーム贔屓がいるに違いない。
さらに詳しく話を聞くと、無理難題は一つのはずなのに今回は三つだ。
「ま、まずい! 相手のチーム、もう一つ目を持って来たぞ!」
白チームのドラゴンが指さす方を見るとヤシの実を持って来る赤チームのドラゴンがいた。
「ど、どうしよう……」
エリスが分かりやすく落ち込んでいる。
僕はそんなエリスの肩をポンと叩いた。
「任せろ」
ニッヒッヒッ……スキルは使い方次第だよね?
竜闘祭、第二種目『献上品集め』の審査会場にて。
「誰だい? チームのお題を入れ替えた馬鹿は?」
そこではエリスの祖母でありドラゴンたちを治める長老様が、不機嫌そうに机に頬杖を付いていた。
上空に投影されたモニターには余裕のある表情で献上品を集める赤チームが映し出されている。
対して白チームは諦めのムードが漂っていた。
「お題も悪意を感じるねぇ。こんな存在しない物を三つも集められるわけないだろうに」
「運営委員の中に裏切り者がいるようですね。始末致しますか?」
護衛の騎士ドラゴンが周りに聞こえないよう小声で長老に尋ねた。
「そうだねぇ。裏切り者は誰か分かるのかい?」
「怪しい者は三名ほどです。うち二名は違うかもしれませんが、この際全員始末してしまうのも手かと」
「こっちで事件を起こして競技を無効にするってことかい?」
「長老様が白チームの勝利を望まれるのならば、その方が宜しいかと」
「…………………」
沈黙するエリスの祖母。
「あたしはこの祭は楽しむ為にやってきた。純血だろうとそうでなかろうと、竜同士の仲を育む為にね」
「はい。充分存じ上げております。それが亡き旦那様の意思であることも」
「だが世の中ってのは上手くいかないねぇ。混血種が増えていき、純血種との仲は例年酷くなっていった。今年のこれは、もう祭りとは言えないねぇ」
既に赤チームの一つ目の品は献上され、それは誰が見ても紛う事なき本物であり、長老として承認せざるを得ない。
そして映像には赤チームが二つ目の品を持って来ようとする所だった。
ふぅー………………。
長い息を吐き、長老は決断する。
「やむをえん。その三名を始末しろ」
それは長老としてではなく、エリスの祖母としての決断だった。
可愛い孫娘を気に入らないヤツの所に嫁に出す。本人にとってもこれほど不幸なことはない。
「御意」
そして、騎士ドラゴンが頷いて静かに歩き出す。
その時だった。
「た、大変です、長老様! 白チームが……白チームが『真珠の付いた珊瑚』を献上してきました!」
審査員のドラゴンが慌てて長老様の所に報告に来たのである。
「なんだって!?」
長老様は狼狽え、その品を手に取って観察する。
それは紛う事なき『真珠の付いた珊瑚』であった。
「こ、これは、一体どうなって……」
献上品集め。
その無理難題の品は、長老の夫であり、今は亡き人族の男が考案した物だった。
夫は言っていた。
これは負けさせる為のお題だ。これらの品は絶対に集めて来られない、と。
三種目やるお祭りで二種目で終わるほどつまらないものはない、とも。
今、映像に映っているのは孫娘が連れて来た野良のドラゴン。
間違いなく様々な種族の血を取り入れた混血種のドラゴンだ。
そのドラゴンが何でもないような顔をして、当たり前のように紅のローブを用意していた。
おそらくは『炎鼬のローブ』だろう。
「……始末は無しだ」
「無し、ですか?」
「あぁ、少し見てみたい」
「御意」
騎士ドラゴンは頷き、長老と同じように映像を見始めた。
その昔、意地悪な質問をした事がある。
もし、持って来られない品を持って来た者がいたらどうするの?
人族の夫は笑いながらこう言った。
あり得ないと思うけど、そうだなぁ……もしそんなヤツがいたとしたら……
――めちゃくちゃ期待する。だってそいつは、不可能を可能にしたんだぜ?
変えてほしい。救ってほしい。
エリスの祖母であり、長老でもある年老いた白竜は、外から来た野良のドラゴンにとても期待していた。
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