白竜の友達
「滞在中はこの部屋を使ってね。私は隣の部屋にいるわ。何かあったらメイドたちに言ってね」
エリスのお婆さん。長老様と謁見が済んだ後、僕は滞在部屋に案内された。
人間の姿でも竜の姿でも過ごせるような広い部屋で、ベッドも二つある。他に家具はない。
寝る為だけに用意された部屋らしい。
コンコン。
部屋がノックされ扉が開く。入って来たのはオレンジ髪のメイドさん……いや、メイド竜だ。人間の姿をしている。
「エリス様からスイ様のお世話をするように言われました。メイドのクルルです。何か用がありましたら私に言ってください」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「こちらがお茶とおやつになります。苦手な物があれば言ってください」
「大丈夫ですよ。ありがとうございます」
「では、私はこれで……あ、そうそう。エリス様は押しに弱いですので、決して夜這いなどをされないようにお願いします」
「あははっ。それも大丈夫です」
レオーラといい感じになっているのにエリスに手を出すことはない。
そんな僕の気持ちを知ったのか、クルルさんは廊下に出ると扉を閉めず、再び僕の方に向いた。
「ところでスイ様。エリス様は背中が弱点なのです。マッサージなどで触ると呼吸ができなくなるくらい笑い転げます」
なんか語り出したぞ。何が「ところで」なんだ。
「しかし不思議なことに、笑い疲れた後も触り続けると可愛らしい声を上げてビクンビクンと痙攣を――」
パタン。
僕は無言で開いたままの扉を閉めてやった。
あのメイド、頭大丈夫か?
というかこのおやつ、変な薬とか盛られてないよな?
……うん、お茶は普通だ。特に変な薬は入っていない。
「エリスーーーー!」
「エリスちゃ〜〜〜〜ん!」
安全だとわかったおやつを食べながら、部屋で寛いでいると、外からエリスの名前を叫びながら走る人形態のドラゴンと飛びながら来る竜形態のドラゴンが一匹ずついた。
「あっ! ランラン! リンリン!」
パンダかっ!
隣の部屋の窓から顔を出して二人の名前を呼んだエリスは、そのまま窓から飛び降りて二人に合流した。
竜形態は巨体で不便なのか三体とも人形態になっている。
パンダみたいな名前だけど、あの二人もこの世界では最強角のドラゴンなんだよね?
外で談笑する三人を眺めていると、薄緑色のウェーブ髪の少女が僕に気づき、エリスに「あれ誰?」と尋ねているようだった。
エリスは手をポンっと叩くと後ろ髪を掻き、こちらに向かって大声で言ってきた。
「スイー! ちょっとこっち来なさい!」
僕は窓から飛び降りて地面に着地し、エリスたちのもとに行く。
「お前、僕のこと忘れてたろ?」
「そ、そんなことなくってよ」
エリスが動揺した。久しぶりに再会した友人たちに興奮して忘れていたらしい。
「紹介するわ。こっちは地竜のランラン。で、こっちが風竜のリンリン。二人は私の幼馴染みなの。ランラン、リンリン、こいつはスイ。外でできた私の友達よ!」
「地竜のランランだ! よろしくな!」
赤茶の短髪ポニーテール。褐色肌でスポーティな格好。笑うと八重歯が出るらしい。彼女が地竜のランランさん。
「風竜のリンリンです。よろしくお願いします」
薄緑色のウェーブがかかった髪の毛。小さめな身長。ほんわかとした雰囲気を醸し出す少女が風竜のリンリンさん。
「初めまして、変化竜のスイです」
「変化竜? 聞いたことないな」
「私も〜」
「色んなものに変化するのが得意なんですよ。例えば……」
僕はランランさんに変化する。
「えっ、あたしっ!?」
「声も真似できますよ。エリスに物貸すと返ってこないんだよねぇ〜」
「すご〜い! ランランちゃんそっくり〜!」
「残念でしたぁ! ちゃんと返してますぅ!」
「……子供の頃に貸した絵本、まだ返ってきてないような…………」
おいエリス。返してない物があるらしいぞ。早く返してやれ。
エリスの家の前でいつまでも話すのも迷惑になる。
そう思った僕らは公園に移動し、東屋で僕が持ってきた王都のお菓子を食べながらお喋りをすることにした。
「この菓子うんめぇな!」
「ほんと〜。甘くて美味しいねぇ」
「中々気が効くじゃないの。ねぇ、今度は塩っぱいやつない?」
エリス食いしん坊がいる。
が、交流の為だ。エリスのリクエストに応えて塩っぱいお菓子も出してやる。
新しいお菓子に戸惑って遠慮していた二人もエリスが食べ出すと恐る恐る手を出し始めた。
「お前は少し遠慮しろよ。どうせ王都に戻るんだから」
「甘いわね。私たちの稼ぎでこんな高級菓子が買えると思ってるの?」
「お前がもっと活躍すれば……いや、それじゃ意味ないのか」
「そうね。ま、やばいと思ったら無理矢理介入するけどね」
エリスは見守ると同時にパーティーメンバーの四人を育てようとしているのだろう。
ドラゴンと人とでは寿命が違う。
歳をとっていく自分たちと十年後も二十年後も全く容姿の変わらないエリス。
いつかエリスが人でないと気づくはずだ。
今はこいつなりの愛情を持って接しているのだろう。
「なんでパーティーを組んだんだ?」
「誘われて断れなくて……」
「エリスちゃんて昔から押されると弱いよねぇ」
「あたしみたいに一言無理って言えばいいのに」
「悪意を感じなかったから断りづらかったのよ。人の町に初めて入って心細かったし」
悪い詐欺師に引っ掛からなくてよかったな。
って、なんで僕が心配してるんだか……。
「ねぇねぇ、ところで二人は友達って言ってたけど、本当は付き合ってたりするの?」
余程気になるらしい。リンリンさんがそんなことを聞いてきた。
「付き合ってないですよ。それに僕は気になってる人がいますし。
「えっ、そうなの?」
「だから悪いけどエリスとは交際できない」
「残念だったな、エリス」
「ごめんね、エリスちゃん」
「別にショックじゃないわよ! あとリンリンは謝らないで! でも友達として気になるわね。その気になる人って、ルナのこと?」
エリスが「そうよね?」的な目を向けてきた。
「いや、ルナさんじゃないけど」
「はあっ!?」
予想外の答えだったらしい。エリスは口を開けて驚いている。
「へぇ〜モテんのかぁ」
「私から振った話なのに……ほんとごめんね」
「謝るのはやめてぇ!」
……う〜ん。僕は鈍感ってわけではないから言えるけど、エリスからの好意も確かに感じる。
僕と話す時の声のトーン、表情。
きっとランランさんとリンリンさんもエリスが誰にも見せたことのない表情をしていると感じているのだろう。
アマテラース様にも言われたし。
でもこいつに好かれることになった要因はどこにあるのか? それがわからないんだよなぁ。
「――やあ、エリス。帰ったって聞いたから会いに来たよ」
と、東屋に一人の青年が登場した。金髪の爽やかイケメン君だ。こいつもドラゴンか。
でもなぜだろう?
イケメンなはずなのに三人の表情が硬い。
「何しに来たの、ライト?」
「今楽しくお喋りしてたんだよぉ?」
「そうそう。男は帰んな」
「そっちの竜も男じゃないのかい? 僕も混ぜてほしいな」
そう言ってエリスの隣に座るライト君。
なんか空気が重い気がする。
「初めまして、だよね? 僕は光竜のライト。君は?」
「変化竜のスイ。よろしく」
「よろしく」
光の竜か。
僕はライト君が差し出してきた左手を握り返す。
爽やかな笑顔を浮かべているが仲良くする気はないということだろう。
ライト君は僕と握手を終えてエリスに語りかける。
「突然居なくなるから寂しかったんだよ? 人の町に行ってたんだって?」
「……どうでもいいでしょ。私が何しようとあんたには関係ないし」
「そんな事ないよ。だって僕らは婚約者じゃないか」
「そんなのとっくの昔に白紙になってるでしょ?」
「それは長老様が勝手に決めたことだろう? 僕や親は納得してないよ」
「あんた達が納得してなくてもお婆様が決めた事よ。白紙にされる事をしてるあんた達が悪いんでしょ」
「僕はただ、彼女たちの気持ちに応えているだけだよ」
ふむ。会話から推理するに、ライト君はエリス以外にも彼女ドラゴンがいるのか。
それでエリスとも婚約しようとしてると……ちっ、イケメンなんて滅んでしまえ。
エリスとの会話にランランさんとリンリンさんもなぜか混ざろうとしない。
でもライト君を睨んでいる。混ざれない理由があるとか?
雰囲気も悪いし、僕がぶち壊してやろう。イケメンも気に入らないし。
「なあ、ライト君だっけ?」
「ん? 何かな? スイ君」
「お前ってさあ、空気読めないの? エリスが嫌がってるじゃん。早く帰ったら?」
「関係ないよ。僕がエリスと喋りたいから喋ってるだけさ。だから少し黙っててくれるかな?」
「嫌だね。僕も喋りたいから喋ってるだけだし。というか婚約破棄された分際で何婚約者面してるのかな? それってさぁ、被ってるカツラがズレてるドラゴン並みに恥ずかしいよね。そんな格好で他のドラゴンにも笑顔を振り撒るって……まあなんて滑稽なのでしょう」
「「「ぷっ」」」
女子三人が吹き出す。
実際にカツラを被ってるドラゴンがいるようだ。
「外から来た僕が思うことだから、きっと島中のドラゴンは既に思ってるよ。光竜のライト君は島中を裸で歩き回る恥ずかし〜いドラゴンってね」
「あははは! そうね、その通りよスイ! この馬鹿にもっと言ってやんなさい!」
「これは痛快だねぇ! あたしも皆に言い張らそう!」
「私もお母さんたちに話しちゃお〜!」
ライト君はニコニコとしているが目が笑っていなかった。
内心相当怒っているだろうな。
「ふぅ、やれやれ。今日は邪魔が入ったね。僕は去る事にするよ。お祭り楽しみだね、エリス」
「べぇー! 一生姿見せんな!」
ライト君は動揺も無くしっかりとした足取りで去って行く。
ふっ、勝ったな。
「スイ、ありがとね!」
エリスが笑顔でそう言ってくる。
言い返してやった甲斐があったかなと、この時の僕は少しだけそう思っていた。
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