竜の住む島
飛び続けること三日弱。
絶海にぽつんと浮かぶ広大な島が見えた。
そこにはドラゴンたちが自由に飛び交い、人に負けない文明を築いているようだった。
「皆ー! 戻ったわよー!」
「エリスだ! エリスが戻ったぞ!」
「隣にいるのは誰だ? あんなドラゴン、いたか?」
島を警備しているドラゴンたちが僕らに向かってきた。
誘導され浜辺に降りる。
「貴様は何者だ? この島出身のドラゴンではないな? まさか亜竜の一味か?」
どうしよう。正解してる。
僕の種族にデミドラゴンって入ってるし。
警戒の強い島のドラゴンたち。
そんな中、エリスが一歩前に出た。
「ちょっと! 皆何言ってるの! こいつは私の友達よ! 歴としたドラゴンに決まってるでしょ! 疑うなら鑑定でも何でもしてみなさいよ!」
「む、むぅ……確かにドラゴンだ。野良ドラゴンか、珍しいな」
鑑定をしてきた茶色のドラゴンがそう言うと、周りの竜たちが騒ぎ出す。
女神様から直々に頂戴したスキルはちゃんと仕事をしたようだ。
「この島以外にもドラゴンが生まれる場所があるのか?」
「亜竜が進化したのではないか?」
「エリスはこの島以外のドラゴンを祭りに参加させるつもりなのか?」
どうやら大半の竜たちが僕の参加に反対らしい。
「――静まれ」
そんな中、少し枯れたような、しかしそこには威厳を含んだような女性の声が響く。
空からエリスと同じ白竜が降りてきた。
「長老様」
「長老様だ」
「長老様……」
竜たちが首を垂れる。
僕もそれに従うべく首を垂れたが、本人によって止められる。
「よく帰ったね、エリス」
「えぇ。只今戻りました、お婆様」
お婆様!?
えっ!? ということはコイツ、この島のお姫様的な存在なの!?
その割には言動に慎みとか一切なかったような?
「歓迎してんじゃないんだよ、この馬鹿孫がぁああああああああああっ!!」
ギャオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!
天を穿つような咆哮が島中に響く。
木々揺れ、波が荒れ、竜たちは萎縮する。
「巫女として仕事を放りだしてどこに行ったかと思いきや、男を連れて戻ってきましたってか!? 祝福されると思うなよ! 例え竜神様が認めてもあたしゃ認めないからねぇ! あんたに結婚は千年早いわ!」
「ふーん、だ。別にお婆様に認められてなくても私が自分で決めるからいいもん! それに巫女としての仕事も完璧にやりましたぁー。私は後進の為に巫女を辞めたんですぅー!」
「巫女の仕事は日々の研鑽なんだよ! 毎日百点を継続することに意味があるんだ!」
「お婆様の考えは古いのよ。そんなんだからお母様にも愛想尽かされて、島の皆から時代遅れの古い竜って言われるのよ」
「ほう? あたしの事をそんな風に言うヤツはどこのどいつだい?」
『そんな竜はいません!』
竜たちが一斉に応えた。
「いないってさ、残念だったね、エリス」
「お婆様、こういうのを人間社会ではパワハラって言うそうよ。裁判になって神に裁かれるそうだから気をつけた方がいいわよ」
「ほう、面白いじゃないか。人間どもの崇める神とやらはあたしが喰いちぎってやるよ」
バチバチバチ!
エリスとお婆さんの間で激しい火花が散る。
しかしいつまでやっていても仕方がない。そう思ったのか、お婆さんが先に折れ、僕に視線を向けてきた。
「で? あんたがエリスの恋人ってわけかい?」
「あ、恋人ではありません。友達です」
「ほう、そうかい。残念だ。もし恋人を語るようなら一思いに楽にしてやったのにねぇ」
「それは助かりましたねぇ。あはははっ」
「ふふふふっ」
「あはははっ」
「ふふふふふっ」
「あははははっ」
「ふふふふふっ」
『あーはっはっはっはっはっ!! あーはっはっはっはっはっはっ!!』
僕はお婆さんと共鳴して笑い合う。
やだ……このお婆さん、めっちゃ怖い……。
「ねぇ、二人とも何してるの? 早く家に入りたいんですけど」
「そうさね。こんな所で話すのも迷惑になる。あんたの友達を祭りに参加させるかも含めて議論しなきゃいけないし、とりあえず家に来な」
竜たちが見守る中、僕はエリスとお婆さんに連れられて、自宅へと招かれた。
エリスの家は他の家よりも少し大きめに作られた家だ。
ドラゴンの姿のまま扉を通り、謁見の間のような空間に来た。
騎士のような武装したドラゴンが十匹。メイドのような衣装を着たドラゴンが十匹いる。
マジで国じゃん。ドラゴンの国。
ファンタジーっぽくて興奮する。
「さて、あんたの生い立ちや能力から色々と話してもらおうじゃないか。孫との出会いとかね」
一段上に座ったエリスのお婆さんが、見下ろしながらそう言ってきた。
主に聞きたいのは最後の部分だろうか?
「では改めまして、名前はスイといいます。エリスの友達です。実は僕は人間の記憶を持っている野良のドラゴンでして、エリスとは王都で出会いました」
「ほう、人間の記憶を……つまりあんたは転生者ということだね?」
「そうなります。転生者をご存知なんですね?」
「五千年も生きてりゃ、転生者のも見かけるさ。あたしの旦那も転生者の人間だった。まあドラゴンに転生したのはあんたが初めてだろうけどね」
すみません、嘘です。ドラゴンじゃなくてスライムです。
とは言えなくなってしまった。
というかこのお婆さん、転生者の人間と結婚したのか。
竜としては変わり者なんだろうな。エリスのお婆さんだし。
「あ、これお土産です。人間のお菓子ですけど……皆さんで食べてください」
僕は人間形態になり、近くにいた騎士竜に向かって胃袋から出した王都の土産を渡そうとした。
受け取る騎士竜も人間形態になり、至って無表情で受け取っていた。
仕事に真面目なんだろうな。
「それで? スイとやら。お前さんはどんな能力を持つ竜だい?」
「そうですね……火魔法と雷魔法、あと溶解液などが使えますが、一番得意なことは変化ですかね」
「……なに? 変化じゃと?」
「はい。こんな風に……黒猫、カラス、スライム。など色々なものに変化できます」
僕の変化を見てエリスがソワソワしていた。きっと変化の中に真の正体であるスライムを入れたことでヒヤヒヤしているに違いない。
あっ、アレも言っておこう。
僕は竜の姿に戻って黒の世界を使用する。
「身体の色も黒くすることができて、夜は隠密行動も可能ですね」
「……………………………………」
そうして僕が特技を披露すると、長老様が口を開けたままの状態で放心していた。
「お婆様?」
長い沈黙が心配だったのか、エリスが長老様に語りかける。
「…………はっ。なるほど。エリスは見る目があったということだね」
「長老様?」
「いや、まだ早計だね。エリス、スイ様を部屋に案内しておやり」
あれ? なんか僕の呼称に変化があったぞ。
小僧とか坊主って呼ばれると思っていたのに。
「どうしたのお婆様? スイに様なんて付けちゃって?」
「なに……客人に様を付けただけだ。土産も貰ってしまったしね。祭りへの参加は許可しようじゃないか。そして正式な客人として歓迎するよ」
長老様は僕を見て改めて言ってくる。
「祭りの間だけでもごゆるりと、この地でお過ごしくださいませ」
「あ、はい。お世話になります」
急に態度が軟化したのが気になるが、そんなに土産が気に入ったのだろうか?
好物でもあったのかな?
まあいいか。お言葉に甘えて、ゆっくりさせてもらおう。
竜たちとの運動会にも興味があるしね。
こうして、竜の住む島での生活が始まった。
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