デート?
「付き合って……」
「……はい?」
「了承した……。来る……」
「え? あの……」
ルナさんはスタスタと歩いて闘技場から去って行く。
が、僕が付いて来ないとわかると振り向いた。
「早く来る……」
「あ、はい」
僕は黙ってルナさんに付いて行く事を選択した。連れて行かれたのは建物内にある依頼の掲示板。
ルナさんはその一枚を引き剥がし、受付に持って行く。
「これ受ける……。私と彼の二人……」
「あ、はい。温泉宿の調査ですね。……はい、受諾しました。頑張ってください」
「ん……」
「あの……何の依頼を受けたんですか?」
ルナさんが引き剥がすのが早かったから見損ねた。
温泉宿の調査とは聞こえたが、果たして?
「温泉宿の調査……」
「はい」
「ん……」
ルナさんは頷いた。
「いやもっと詳しくお願いしますよ!」
「温泉宿……。入浴……。被害……。カップル……」
「え〜と、要約すると温泉宿で入浴すると被害に遭う。それがカップルばかりってことですか?」
「ん……。詳細は向こう……」
「の宿の人に聞くんですね?」
「ん……」
「じゃあさっそく行きましょう」
「そう言ってる……」
言ってはない!
というツッコミは控えた。大人だからね!
この人の方が何百歳も歳上かもだけど!
王都から北東に馬車で数時間ほど進む。
そこにあるのは温泉街だ。
……いいなぁ、温泉。入りたい。
屋台では温泉卵や温泉饅頭などの食べ物も豊富だ。
僕は匂いに釣られてふらふら〜と歩を進める。
が、ガシッと襟首を掴まれた。
「ぐえっ!?」
「どこ行く……?」
「いや、食べ物を買いに……」
「後にする……」
「少しくらいなら……」
「後にする……」
「はい……」
僕は泣く泣く諦める。
「そういえばルナさんは普段はパーティーを組まないんですか?」
「報酬減る……」
「まぁ確かにそうですけど……」
「弱いのに不平等……」
「つまりルナさんとパーティーを組みたければルナさん並みの働きをしろ、という事ですか?」
「ん……」
ルナさんはその通りと頷いた。
「僕はお眼鏡に適ったって事でいいんですかね?」
「ん……」
頷くルナさん。
まぁルナさんの言いたい事も分からなくはない。
こちらの方が多く倒したのに報酬は等分されるというのがパーティーというものだ。
それでもいいという人はパーティーを組むだろうが、それに納得できない者は追放したり、されたり、はたまた自分から離反していくのだろう。
その点、ソロは気楽でいいかもしれない。
余程の実力が無いと無理だけどね。
「アレスレアとかバネッサ姐さんでもよかったのでは?」
「二人とももういない……」
「じゃあエリスは?」
「彼女はダメ……。報酬減る……」
「あぁ、確かに」
エリスを誘ってエリス一人が付いて来るってことはないだろうな。
と、ルナさんが立ち止まって僕の方を見た。
「もしかして、嫌だった……?」
不安にさせてしまったかな?
「そんなことないです。多少強引かなと思いましたけど、頼られる事を嫌だとは思いませんよ」
「よかった……。じゃあカップル……」
ルナさんが僕の腕を取る。
残念ながら嬉しい感触は期待できそうにないが、なんだか良い匂いが漂ってきた。
「の、フリをしろって事ですか?」
「ん……」
ルナさんは頷いた。
それは依頼の宿だけでいいような気もするけれど、内心意外と楽しんでいるのかもしれないな。
「あーーーーっ!」
と、突如僕らを見て声を上げ、指をさしてくる少女がいた。
誰であろう?
白竜の少女エリスである。
なんでいる?
「どうしたんだいエリス?」
「あっ、あの人この前エリスちゃんとダンス踊った人……」
「フラれた〜。フラれた〜」
「サラ! しぃー!」
「ち、違うわよ皆! 別に私はこいつの事なんて何とも思ってないわよ! 今の『あーーーーっ!』はルナと腕を組んでいることに対してじゃなくて、『こんな所で何してるの?』っていう意味の『あーーーーっ!』だからね!」
「「「「へぇ〜、そうなんだぁ〜」」」」
「信じてないわね!?」
こいつらもここに依頼で来たんだろうなぁ。
そして仲間たちに弁明をしたエリスはこちらに詰め寄ってくる。
「で!? なんで二人はここにいるの!? 何かの依頼で来たんでしょ?」
若干不貞腐れたように聞いてくるエリス。
「あぁ、それは――」
「デート……」
僕が依頼と言おうとすると、ルナさんが被せてきた。
結果、場が静まる。
と言っても静かなのはここだけだ。
特にエリスは呼吸しているのか分からないほどフリーズしていた。
「お、お邪魔したみたいだね」
「エリスちゃん、早く行こう? 宿取らないといけないし」
「取られた〜。取られた〜」
「サラ! 事実でも言っちゃダメ! さっ、行きましょうエリスさん!」
エリスはミィと姉妹の姉ちゃんに手を引かれて去って行った。
「ルナさん、なんでデートって言ったんですか?」
「依頼ダメ……。報酬減る……」
あぁ、エリスが私も参加するって言いそうだったからか。
「さすがにそれは無いのでは? エリスもパーティーメンバーがいますし」
「絶対来る……。断言する……」
断言しちゃうんだ……。
「今だけは私の……」
ルナさんが更に密着してきた。
これでは突き放すのも問題になってしまう。
僕らを見てくる人たちも多い。
「じゃあさっそく目的地の宿に行きましょうか?」
「ん……」
僕はルナさんとラブラブ?なカップルのフリをしながら、依頼の宿に向かった。
「ようこそ温泉宿『卵の黄身』へ。まあまあ歳若いカップルですね。しかも女性はエルフではありませんか」
件の温泉宿に到着し、中に入ると少しやつれ気味な女将さんが出迎えてくれた。
めっきり客が減ってしまい大変な思いをしているのだろう。
「依頼で来た……」
「僕たちは冒険者でもあります。さっそく依頼の詳細をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「はい、もちろん。では奥の応接室にどうぞ」
応接室に入り、椅子に座る。
しばらくすると女将さんがお茶とお菓子を持って入室してきた。
ルナさんがお菓子を食べ始めてしまったので僕が情報を集める。
「あの……従業員はどちらに?」
「全員、休職してもらっています。主人も床に伏せてしまい、満足な料理も出せない状況ですので」
「なるほど。それで僕たちに調査してほしいこととは?」
「数ヶ月ほど前からです。宿に泊まったお客様……特に若い女性が夜中に急に起き出したかと思うと、狂ったように騒ぎ出し、暴れ出すのです」
怖っ!?
「え〜と、その女性たちはその後どうなったんですか?」
「それが……その事は全く覚えていないそうです。しかし後日、その女性客たちは全員体調を崩してしまい、床に伏せているそうです。さらに従業員までもが体調不良を訴え、主人も寝込む羽目に……お願いです、冒険者様。どうかこの奇妙な事件を解いて当旅館をお救いください」
床に頭を擦り付けるようにお辞儀をする女将さん。
「もちろんです。任せてください」
「ん……」
あ、食べようと思ってたお菓子がない。
この人、全部食べたな。
こうしてルナさんとの温泉宿の調査が始まった。
出て来るのは鬼か蛇か。
それとも……
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