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再会


「はぁ〜」


 夜。

 パーティーが終わったあと、部屋に戻ったレオーラ王女がため息をついていた。


「そんな深いため息をついて、何かあったの?」


 ベランダの窓から侵入した僕は黒猫の姿で話しかける。


「し、使徒様……」


 レオーラ王女は僕を見てなぜか感激していた。

 そして抱きついてくる。


「お会いしたかったです。お元気でよかった」

「ん? そっちもね。変わりないようで何よりだよ」

「はい。私はあの事件で思い知りました。何が正しいことなのか……」

「答えは出たの?」

「いいえ。しかし気づきました。私たち人間はそれを探し続ける生き物なのだと。探すことを諦めた者から腐敗していくのだと」

「そっか。それが分かれば充分じゃないかな」


 もっともレオーラ王女の場合、そんな心配は無用だろうけど。

 レオーラ王女が僕を離す。


「メイドにお茶を用意させます。今日は遅くまで居られるのでしょう?」


 う〜ん、少し話しをしたら帰るつもりだったけど、レオーラ王女から残って欲しそうな雰囲気を感じ取れた。


「じゃあお言葉に甘えて、少しお邪魔しようかな」

「はい!」


 その後、部屋にメイドが入ってきてお茶と茶菓子を用意してくれた。


「ありがとう」

「いいえ………………猫が喋った!?」


 取り乱しながらもちゃんと仕事をして行ったメイドちゃんは優秀なのだろう。

 彼女は混乱しながらも「失礼します」と言って部屋を出て行った。


「にゃふふ、後で報告されちゃうかな?」

「使徒様、悪戯は程々にした方がいいですよ?」


 ん? アマテラース様からメールが来た。なんだろう?


『レオーラ王女の好感度が少し下がった』


 恋愛ゲームかぁ!


「どうかされましたか、使徒様?」

「いや、何でもないよ。悪戯と言えばルーク少年は元気?」

「はい。やはりあの時の事など全く覚えてないようです。今日も皆から叱られておりました」

「まあ元気なのはいい事だね」

「ありすぎるのも困り者ですがね。そのせいでまともな婚約者の一人も紹介されないのですから」

「その言い方だとまともじゃない紹介はあるんだ」

「王家の利権を利用しようとする悪徳貴族は必死ですね。まぁそれは私の方にも来ているのですが」

「そうなのか」


 レオーラ王女は普通に婚約話が来そうだけど、それ以上に悪徳貴族の方が多いのだろう。


「ち、ちなみに使徒様はそういったお方はいらっしゃるのですか……?」

「え、僕? いないよ。スライムだからね。この前野性のスライムにバラの花束を見せたけどスルーされたし」

「えぇ?! や、やはり人ではなくスライムなのですね……あははは」


 あれ? なんか地雷踏んじゃった?


「冗談だよ。これはただのスライムジョークだ。場を和ませようと思ったんだけど、要らなかったみたいだね」

「あ、そ、そうなのですね。いえ、驚きましたが人の趣味はそれぞれです。私が口出しをするような事ではありませんし」


 ん? またアマテラース様からメールが来た。


『レオーラ王女の好感度がかなり下がった』


 だから恋愛ゲームじゃないっての!

 しかしこれ以上ここにいるのも良くないだろう。

 この辺でお暇するとしよう。

 僕は分裂体をこっそりだして、擬態と改造を使ってペンダントを作る。


「レオーラ王女。これあげる」

「綺麗なペンダントですね。これは?」

「僕と連絡ができるアイテムだよ。何かあったら魔力を流しながら念じてみて」

「それは、その……特に用事が無くても連絡してよろしいのでしょうか?」

「構わないよ。その時は僕も面白い話をしてあげる」

「はい!」


 レオーラ王女が笑って返事をした。

 ん? またアマテラース様からメールか。今日は多いな。


『スライムさん、ラブコメしてないで早く私たちの依頼をこなしてください! オロチなんて酒はまだかと煩いんですよ! ぷんぷん!』


 ぷんぷんって……文面だから書かなきゃ怒ってるか分からないだろうけど、実際に書く人を初めて見た。

 いや人じゃなくて神様だけど。

 でもオロチ様か。蛇の神様なんだろうなぁ。ヒドラの毒酒だっけ?

 冒険者ギルドで情報を集めてみるか。


「じゃあね、レオーラ王女。あ、この時間もだけど今日のパーティーも楽しかったよ」

「え? パーティー? ……っ使徒様! あのパーティーにいらっしゃったのですか!?」

「ふふふ、オーク討伐も活躍したんだよ。じゃ、またね!」



 僕は黒猫の姿のままベランダから飛び降りた。



「えっ、ちょっと……あ、もう行ってしまったか。もう少し話したかったな」



 翌朝。

 人の姿になって冒険者ギルドに顔を出す。

 向かう先は食堂だ。

 ギルドの食堂にあるメニューは冒険者には低価格で提供されている。

 なんて良心的なんだと思いつつ、トーストを齧った。

 いちごジャムが甘くて美味しい。

 さてと……


 朝食を食べ終えた僕は受付嬢の所に向かい、ヒドラの情報を集めることにした。


「おはようございます」

「おはようございます、スイさん。本日はどうされましたか?」

「実は知り合いにヒドラの毒酒が飲みたいと言われてしまって……どこかにはヒドラっていないですかね?」

「いません」


 良い笑顔で言われてしまった。

 その顔には「こいつ、何言ってんだ? 頭大丈夫か?」的な意味を感じる。


「僭越ながら申し上げますが、それなら酒場に行くべきかと。あぁ、ギルドではそんな高価なお酒は取り扱っておりませんので他に行ってくださいね」

「なるほど。言われてみればわざわざヒドラを狩る必要なんてないですね。あれ? そういえば魔物って倒すと消えますけどヒドラの毒酒ってどうやって作っているんですかね?」

「え? どうなんでしょうか? 私も名前を聞くくらいで作り方までは知りません」

「ですよねぇ。とりあえず酒場に行ってみます」

「はい。手に入るといいですね」

「ですねぇ」


 ギルドに朝ごはんを食べに来ただけになってしまった。

 まぁいい。とりあえず酒場だ。

 近い所から順番に行こう。


「うちには置いてない」

「そんな高価な物、仕入れられないよ」

「あるけど予約が入ってる。次の入荷? 未定だよ」


 ダメじゃん。


「あぁ、もしかしたら酒造所にはあるかもしれない。が、貰えるかは分からないぞ」

「と言いますと?」

「酒職人が自分たちで飲む用だからだ」

「なるほど」


 とりあえず酒造所に行ってみるか。

 目に付いたドワーフのおっさんに声をかけてみる。


「すみません。ヒドラの毒酒ってありますか?」

「ヒドラの毒酒? もうねぇな。飲んじまったよ」

「やっぱりですか……」

「まぁあったとしてもやらなかったがな! がっはっはっ!」


 客を前になんて豪快な……。

 そうだ。せっかく来たんだし、作り方でも聞いてみるか。


「ヒドラの毒酒ってどうやって作るんですか?」

「作り方は蒸留酒と同じだ。もしも手に入ったら持ってきてくれ。分けてくれるならタダで作ってやるぞ」

「へぇ、覚えておきます」

「うむ」

「親方! 二番の酒ができました!」

「わかった! すぐに行く! すまんな。話はここまでだ。ヒドラの毒が手に入ったら持って来いよ〜」

「わかりました〜!」


 仕事に戻るドワーフの親方を見届け、僕は酒造所を去る。

 さてさて、どうするかね……。

 と、困り果てていた僕に一通のメールが来た。

 差出人はオロチ様だ。

 赤ペンで丸が描かれた地図が同封されている。


『ここにヒドラがいるわ』


 文面はこの一言だけだ。

 つまりこの赤い丸の所に行けということだろう。ここからではだいぶ遠い。

 まぁ善は急げと言うし、行きますか。

 僕はカラスになって赤丸の所へ向かった。



 おっ、発見だ。

 毒の沼みたいな場所に三つ首の地竜がいた。あれがヒドラか。


「頭九つじゃないんだな」


 あとエリスみたいな竜族ではなくワイバーンみたいな亜竜扱いなのかな?

 そんな感想を言いつつ、僕はヒドラとの戦闘に……ん?

 気配を感じて周囲を見渡した。

 げっ、冒険者の一団が近くにいる!

 あぁぁ、そっちに行ったら!


「ヒ、ヒドラだ! ヒドラがいた!」

「マジか。こりゃギルドに報告だな。それともここで討伐していくか? アンジェリカ」


 ん? どこかで聞いたことのある名前だ。

 アンジェリカ……あんじぇりか……あっ!

 最初の森で僕を光魔法で殺したアイツか!


「ふむ……それもいいが、私たちでやってしまっては批判する者が出てくるだろう」

「別に言わせときゃいいじゃん? 弱い奴が悪いんだよ」

「しかしヒドラの毒は酒にもなる。確か前はそれを集める為にレイド戦になったはずだ。死人も出るが儲けを優先するのも冒険者の業だからな」

「俺たちだけで退治しちまうと稼げなかった冒険者が絡んでくるかもな」

「ちっ、じゃあ町に戻るぞ。つーかあの町にいる連中で大丈夫かよ」

「金儲けの為に周辺の町や村から集まってくるだろう。一月ほど猶予があるはずだ。あとは信じるしかないだろうな」

「やれやれだねぇ〜」


 アンジェリカ一行は町に戻って行く。

 この間にこっそり倒しちゃってもいいかな?

 ……いや、辞めておくか。

 別に緊急案件でもないし、嘘の報告をさせることになる。

 大人しくレイド戦に参加するとしよう。

 僕はアンジェリカたちの後を付けて町に行くことにした。

 それにしてもまさかの再会だったなぁ。



お読みいただきありがとうございます


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