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指輪はいづこに!?


 王都の外に隠しておいた分裂体に意識が移り、僕は一先ずゼウッス様に指輪を見つけたと報告する。


『でかした! 早く回収して来るんじゃ!』

『無理です』

『なんじゃと!? 何故じゃ!?』

『貴方の指輪に殺されたからですよ』

『は? 何言っとるんじゃ、お主?』


 僕は事の顛末をゼウッス様に説明した。


『わっはっはっはっはっ! 何じゃその死に方! 探してるワシの装備で死亡って……いや、ワシが凄い事の証明にはなったのかのぅ?』


 はいはい、そうですね。


『指輪を取ろうにも装備者を守るバリアに阻まれます。無力化する方法があれば教えていただきたいのですが……』

『装備を外している間に盗ればいいのじゃ。人間はずっと指輪を付けてはいないじゃろう?』

『まあ、それもそうですね』

『では頼んだぞ!』


 ぷつん。

 通話が切れ、僕はため息をついて再び王宮に向かった。



 王宮は騒がしかった。

 そりゃそうだ。

 王宮と王都を護る結界、両方が消えてしまったのだから。


「宮廷魔導士たちは修復を急げ!」

「騎士は街の警護だ!」


 う〜ん、レオーラ王女の姿が見えない。

 こういう時は一番陣頭で指揮を取りそうな性格なのに。


「まさかレオーラ様が結界を破壊してしまうとはなぁ」

「国王様からしばらく謹慎と言い渡されたらしい。珍しく落ち込んでいた」


 レオーラ王女は謹慎か。

 部屋はどこかな?

 カラスになって王宮を一周し、レオーラ王女の部屋を見つけた。

 本人はベッドで横になっている。謹慎が余程堪えたらしい。

 ベランダに降りてスライムに戻り、窓の隙間から侵入した。

 何か擬態できる物は……お、あれにしよう。

 僕は花瓶に近づいて花に擬態する。

 うんうん、これならバレないし部屋全体も見ることができるぞ。


「はぁ〜……あの剣はなんだったのだろう? 恐ろしく魔力伝達率が高かったが……」


 お、僕の事だ。


「あの剣のせいで結界を破壊してしまうし、指輪は父上に取り上げられてしまうし……はぁ〜」

「なにぃいいいいいいいい!?」

「――誰だ!?」


 はっ! し、しまった! 思わず声をあげてしまったぁ!

 えぇい! こうなれば!

 僕は花の擬態から黒猫の擬態になる。


「僕は神の使徒だ。指輪を回収しに来た」

「ね、猫が喋った!? そ、それに今、花から……」

「姫様、何かございましたか?」


 コンコン!

 部屋の扉越しにメイドが尋ねてきた。

 僕は姫様の声を真似てこう言う。


「何でもない。謹慎でちょっとイラついているだけだ!」

「なっ!? わ、私の声!?」


 ヒソヒソ声で驚くレオーラ王女。

 メイドは「し、失礼しました」と怯えたように下がった。


「僕が神の使徒ということは、これで信じてもらえたか?」

「あ、ああ。花に猫、さらには私の声まで使われては信じるしかあるまい。して、その使徒様が何用で私の所に?」

「指輪だ」

「指輪……我が家の家宝、雷光の指輪のことか?」

「うむ。あれは神の一柱が最近落とした物だ。人間の姿に化けて夜遊びをしていた時にうっかり落としたらしい」

「ま、待ってくれ。最近? あの指輪は私が七歳の時に父上から貰ったものだ。商人から買い取ったと言っていた。もう十年も前のことだが?」


 ほわっつ? 何が最近だよ。最近じゃないじゃん!

 人間は十年も前のこと最近なんて……あ、そういうことか。


「神様たちにとっては十年も百年も千年も対して変わらん。時間などあってないようなものだと言っていたからな。しかしこれはこちらの不手際だ。十年も前の落とし物を今更返せと言っていることは詫びよう」

「そ、そうか。神様というのはスケールが違うのだな。私個人としては問題ないが、父上がなんと言うか……」

「そういえば取り上げられたと言っていたな」

「うむ。……ちょっと待ってくれ、使徒様。使徒様はいつから部屋に?」

「ん? ほんの数分前だけど?」

「そ、そうか。それはよかった。ほっ……」


 なんか明らかにほっとしている。鎌をかけてみるか。


「安心しろ。例え見ていたとしても人間のすることに興味はない。本能のままに励むがよい」

「な、なにもしていないっ!!」


 裏返った声で反論された。顔も真っ赤だ。

 まあいいや。揶揄うのはこのくらいにして話を戻そう。


「指輪を国王様に取り上げられたと言っていたけど、取り戻せそう?」

「こ、こほんっ。そうですね。まあ、結界が修復されれば戻ってくると思います。あの指輪は私の物というのが我が家の決まりみたいなものですので」

「そういえば指輪が国宝って言ってたけど、どういうことなの?」

「そうですね、使徒様にはお話しておきましょう。私は子供の頃、病気のせいでベッドに寝たきりでして、今のように自由に身体を動かすことができなかったのです。どんな魔法もどんな薬も効かず、父はエリクサーをどうにかして買い付けようとしていたのです」

「ふむふむ」

「しかしある日、一人の商人が病気が治るかもしれないと言って、あの指輪を持ってきたのです。効果はすぐに出ました。数日で私の身体は庭を走り回れるくらいに回復し、父は高値を付けて指輪を購入したのです」

「それがあの指輪ね」

「はい。そして指輪を装備していた私は、それから不思議なことが起こり始めました。急に雷の魔法が使えるようになったり、光のバリアが身を守るようになったり……しかも魔力を全く必要とせずにです」

「そりゃあ神器だからね。あのチカラは人の身には有り余る物だよ」

「でしょうね。指輪の事を父にも相談した私は、絶対にこの事は秘密にするようにと言われました。そして私は、指輪のチカラをなるべく多くの人々を助ける為に使おうと誓ったのです」

「指輪の持ち主がレオーラ王女でよかったよ」


 もし悪人に渡っていたら大変な事態になっていた。

 まあその場合はゼウッス様が直接介入しただろうけど。


「じゃあ指輪が戻ってきたら教えてね。ここに僕の分身体を置いておくからさ」


 花瓶の花に紛れるように分裂体に擬態した花を置いておく。

 花を隠すなら花の中だ。


「わかりました。とりあえず指輪の事は父上に話しておきます。なんとか返却の許可が出ればいいのですが……」

「ありがとうレオーラ王女。元々はこちら側の責任でもあるから、なにか代わりの物を用意できないか聞いてみるよ」

「それはありがたい。是非お願いします」


 国宝にまでなっちゃってるからなぁ。

 とりあえずゼウッス様には何か用意させよう。

 僕はカラスになって王宮から離れた。

 だが、この時の僕は知らなかった。


 強大なチカラを使って碌なことにならないのは、悪人だけではないということを……。



お読みいただきありがとうございます


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