チーレムはいづこに
長らく拠点にしていた街を出て、王都に来た。
街壁が五枚もある。しかも広さも桁が違う。
外周部から農業区兼平民街、商業区、下級貴族区、上級貴族区、王宮区、といった所か。
城、でっかいなぁ。
日本の城じゃなくてヨーロッパにある城だ。
中に入ってみたいが無理だろうな。
ガラクタ・アンデッド・デミドラゴン・キラー・ビッグスライムになってから手に入れた新しい技能の弱点看破が、王都に張られた結界を攻略不可能という結果を出していた。
地味な技能だけど結構使える。
単純な弱点を見抜くだけじゃない。
今みたいに結界に使用した場合、僕に攻略できるかどうかを判断してくれる。
深追いは禁物だ。
王都に入る為には魔物避けの結界をなんとかして潜り抜けなければならない。
商人たちの荷馬車の中に隠れていくのはどうだろうか?
弱点看破で導き出した答えはノーだった。
魔物という種族のみを排除する結界か。
強力で厄介だ。
仕方ない。ここは上司に相談しよう。
僕はアップデートされたステータス画面を開き、連絡先の一覧からアマテラース様を選択する。
『もしもしアマテラース様。今大丈夫ですか?』
『うぅ……ぐすっ……あっ、スライムさん。こんにちは。どうかされましたか?』
『はい、こんにちは。えぇ、まあ、困った事態になりまして……ところで泣いてます?』
『はい。今青春ドラマを観ていて、感動して泣いてしまって……ずぴー! ずぴぴー! 青春っていいですねぇ〜』
『それはわかりましたけど、鼻水の音くらい消してくださいよ。恥じらいとかないんですか?』
『スライムさん、部下の天使みたいなこといいますね。嫌いになっちゃいますよ?』
『それはすみません』
『ふふっ、冗談です。それで困った事態というのはどういう事態ですか?』
『実はゼウッス様の依頼を受けて王都に来たのですが……どうやら僕では結界を通り抜けることができないみたいです』
『なるほど。では通れるようにしておきますね。え〜と……こうして……これでよしっと。これでスライムさんはどんな強力な結界でも通れるようになりましたよ』
『ありがとうございます。確かに通れるようになったみたいです』
弱点看破が結界に対してイエスといっている。
凄いな。さすが女神様。
『しかしゼウッスさんの依頼ですか。きっと碌でもない依頼ですね』
『えぇ、本当に。一番面倒な依頼を最初に受けてしまったと思っています』
『どんな依頼内容だったんですか?』
『指輪探しです。王都に落としたみたいですよ』
『あぁ……そういえば最近、失くしたから内密に探してくれって言われた記憶がありますね。その時は見つからなかったのですが、今はどうでしょう? ちょっと探してみますね』
『え? ありがとうございます』
面倒な仕事が女神様のご厚意で簡単に終わりそうだ。ラッキー。
『あっ! ありました! ありましたよスライムさん!』
『えっ!? 本当ですか!?』
『はい! 王宮にあるようです!』
『はあぁっ!? 王宮ぅ!?』
『頑張ってください! 私はドラマの続きを見るので連絡はしばらく無しでお願いします! では!』
『あ、ちょ、待って……』
ぷー、ぷー、ぷー。
絶対面倒だから逃げたな。あの女神様。
それにしても王宮……王宮かぁ〜。
「まあ行ってみるか」
とりあえず宝物庫を探してみよう。
カラスになって王都の結界を通過し、王宮の塀を止まる。
王宮にも結界が張られ、その頑丈さは王都に張られた結界とは比べ物にならないくらい高性能だが、女神様の粋な計らいで結界透過をできるようになった僕には関係なかった。
そこからはミツバチになって王宮の中を彷徨う。
メイドにくっ付いて移動したり、コックにくっ付いて移動したりして王宮の脳内マップを埋めていった。
そして宝物庫を見つけ、中に入って指輪を探す。
「ないなぁ」
絵画とか骨董品はあるけれど、指輪みたいなアクセサリーはないぞ。
あっ、剣がある。これって伝説の武器だったりしないかな?
ちょっとヘパイストース様に連絡してみよう。
『もしもし、ヘパイストース様ですか? 依頼の伝説の武器っぽい物を見つけたのですが? はい、これです。僕の目の前にあるやつです……え? これは違う。美術的に価値はあるが伝説の武器じゃない? そうなんですか……』
『伝説の武器とは、使用者、または製作者その者の信念が乗った武器だ。そして、語り継がれる価値のある物』
渋い声でそう言われた。
『その剣は確かに製作者の信念が乗っているだろう。だが使い手に恵まれていない。故に芸術的な価値しかないのだ』
『なるほど。つまりその両方の条件を満たした剣が、ヘパイストース様にとっての伝説の武器というわけですね?』
『そうだ。私はその武器にしかない、そこにしか宿らない志を見たいのだよ』
か、カッコいい……!
なんて渋くて粋な神様なんだ。
誰とは言わないが、主に僕に指輪を探させる神様や青春ドラマを盾にして面倒事を押し付けてきた神様には見習ってほしいものだ。
『わかりました。ではそれっぽい武器を見つけたら連絡します』
『あぁ、楽しみにしている』
ヘパイストース様との通話が切れる。
こういう依頼は僕も楽しみだ。
この依頼が終わったら王都の鍛冶屋にでも行ってみよう。
宝物庫に指輪はなかった。
しかし王宮にはある。
可能性としては誰かが身につけている。あるいはジュエリーボックスなどのアクセサリー類専用の箱にある。
ミツバチに擬態した僕は通りすがりのメイドにくっついて再び王宮を巡る。
「それっ!」
「きゃあっ!」
この国の王子だろうか?
悪戯盛りの歳頃の少年が、僕にくっついていたメイドのスカートを勢いよく捲った。
「ルーク王子!? 悪戯は辞めてくださいと言ったではありませんか!」
「僕じゃなくて風のせいだよ〜」
「反省しないのでしたら今日のおやつは抜きにしますからね!」
「それって棚の上に置いてあったお菓子のこと? もう食べちゃいました〜!」
「えぇっ!? あれはおやつではなく来賓用のお茶菓子なのに!? 大変、早く知らせないと〜!」
うわぁっ!
メイドが勢いよく走ったせいで床に落ちてしまった。
しかしこの悪戯坊主、とんでもないガキだな。
女神を騙って天罰でも食らわせてやろうか?
僕がそんなくだらない事を考えていると、ルーク王子に近づく女性がいた。
そしてその女性はルーク王子の頭に拳骨を落とす。
ゴチンッ!!
「痛あぁっ!!」
良い音が鳴った。あれは痛そうだ。
「見ていたぞ、ルーク」
「げっ! レオーラ姉様」
「メイドのスカートを捲るだけでなく来賓用のお茶菓子まで食べてしまうとは……。貴様、それでも誇り高きミルガーザ王国の王族か?」
「べぇーーーーーーーっ!!」
ぴゅーーーーーんっ!
ルーク王子はあっかんべをして走り去って行く。
典型的な悪戯小僧だな、あれは。
「まったく。ルークにも困ったものだな」
レオーラ王女はため息をしながら歩き去る。
その時、彼女の指に嵌められた指輪に目がいった。
普通の指輪とは何かが違う。
何となくそう思い、後を付ける事にした。
僕の予想は正しかった。
レオーラ王女は騎士たちとの鍛錬に精を出している。
周りの騎士たちがスタミナ切れで息を切らす中、彼女だけは涼しそうな顔をして鍛錬を続けていた。
雷の魔法を自在に操り、そこから繰り出される剣戟。そしてどんな攻撃も無効化する見えない光のバリア。
無尽蔵のスタミナもきっと指輪の効果だろう。
というか何がチーレムだよ。レオーラ王女の性格を考えれば変な野望にも使いそうにない。
さらに目立つというならば王女である時点で目立っている。
ゼウッス様の考え一つも当たってないじゃないか。
そんな風に内心で愚痴をこぼしていると……
「あっ! 虫発見!」
ぎょっ!?
背後から声がして、恐る恐る振り向くと悪戯王子のルークがいた。
僕は全速力で逃げた。捕まったら終わりだと思ったからだ。
「待てえーーー!」
ひゃーーーーーっ!!
くっ……このガキ、予想以上のスタミナだな。
いや、毎日悪戯して逃げて回っていたら当然なのか?
しかしこのままでは捕まってしまう。
こうなれば……
僕は鍛錬場に出て、ある場所に隠れた。
「あれ? 居なくなった? ちぇっ」
ちぇっ、じゃねぇ。迷惑だ。
ルークは不貞腐れて去っていく。
僕は安心したが、しかし、一難去ってまた一難とはこういうことをいうのかと思わされる。
「次の武器は……これでいいか」
レオーラ王女が手に取った鉄の剣。それは僕だった。
ルークから隠れる為に鍛錬場の角に置いてある武器立ての中に鉄の剣に擬態して潜んでいたのだ。
僕は振り回されながら騎士に近づいていく。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ頼む」
ガキィン!
鍔迫り合う僕と騎士の剣。
正直、刃物が目の前にあるのは生きた心地がしない。
というか普通に怖い……。
「ふむ、少々本気を出させてもらうぞ」
「お願いします!」
え? 本気? なんか、嫌な予感が……
次の瞬間、僕の身体に電撃が走る。
あばばばばばばばばっ!!??
こここここ、これはあああああああぁぁぁっ!!??
「な、なんだ、この剣、普通じゃない!?」
ま、ままま、まずいぃぃぃ! ゼウッス様の雷光が強いぃいぃいぃいぃいぃ!
これは……もう…………無理だぁぁああああ!
はあああああああああああああああっ!!!!
僕は体内に蓄積された雷光を解き放った。
その雷は王宮の結界を貫き、王都を覆っていた結界も貫き、遥か天にまで轟く。
そして僕は……
はい、死にました。
まさか依頼主の装備品で死亡するとは……。
今までで一番衝撃的な死に方だったよ。
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