法被ーエンド!
女性冒険者に叩き殺された僕は、青年の姿に擬態して黒いローブを着込んだ。
そして分裂して黒猫を用意する。
腕に抱えたまま街の東にあるカタール伯爵の屋敷に来た。
「止まれ!」
「何者だ!」
「冒険者ギルドの依頼書を見て来ました。火を吐く黒猫です」
「みゃーご」
分裂体の黒猫に火を吐かせる。
「か、確認してくるから待っていろ!」
門番の一人が屋敷の中に入っていく。
数分もしないうちに戻ってきて、応接室に通された。
そこにはどっぷりと太った豚のような男がいた。
「ほう? それが火を吐くという珍しい黒猫か? よくぞ捕まえた。冒険者よ」
「ありがとうございます」
「さっそく報酬を持って行くがいい。おい、やれ」
やれ?
次の瞬間、僕の視界が少し跳ねる。
僕の後ろにいた騎士が剣で首を刎ねたのだ。
は?
僕はその場で死に…………………
「ん? 死体が残らないではないか? どうなっている?」
「どうやら魔道具か分身体か、死亡を回避する保険をかけていたのでしょう」
「ふんっ、まあいい。猫はいるのだ。死体が出ないだけ処分が楽というものだ。わっはっはっ!」
黒猫に意識が移った僕は、クズ共のやり取りを間近で見ていた。
「旦那様、この黒猫はどうしましょう?」
「それには今度の披露宴で芸をしてもらうとしよう。その為に一流の調教師を雇っておけ。我が輩、ブータ・カタールの為にその黒猫には暫くの間話のネタになってもらうとしよう。その後は食事として出してやる。皆も驚くであろうな。つい先程まで芸をしていた黒猫が調理されて出てくる所は盛り上がるであろう」
下衆野郎じゃねぇか、こいつ。
そしてさらに確信をつく発言がブタ騙る野郎から飛び出した。
「そういえばまだあの家の子供は見つからんのか?」
「はい。申し訳ありません。先日スラム街で見つけたのですが邪魔が入ったようです」
「ちっ。スラムのゴロツキ共は使えないモノばかりだ」
「件の姉妹は冒険者パーティーに荷物持ちとして雇われているようです。どうされますか?」
「荷物持ちだと? その冒険者はどんな奴らだ?」
「前衛の男が一人と女が一人、魔法使いの女が一人の三人組です。どうやらそのうちの一人に人攫いから救出されたようで、そのまま荷物持ちの仕事を与えられたものかと」
暫定白竜のいるエリスのパーティーじゃん。しかもブタが狙ってる子供ってあの姉妹かよ。
てことは女神様が言っていた貴族信者って……
「冒険者なら依頼を受けて森に行くはすだ。そこで我が家の騎士たちに襲わせろ。男は殺してもいいが女は攫ってこい」
「かしこまりました」
「居もしない女神の名を騙ってあの一家を潰したんだ。手の込んだことをした分、旨みもなければつまらん。冒険者の女共は姉妹と一緒に我が輩が支配してやろう。ぐははへへへっ」
気持ちわるっ!! こいつロリコンかよ!
というか女神の名を騙った? 居もしないだって?
何言ってるんだ、こいつ?
「今度の披露宴では捕まえた女共のストリップショーも加えてやろう」
あぁ、女神様が怒るわけだ。
僕、ここに居れてよかった。おかけで思いっきり天罰を執行できる。
「おい、クソブタ貴族。もう黙れ」
「なっ!? だ、誰だ! 我が輩のことをそんな風に言う愚か者はあああ!」
「ここだよ」
僕は黒猫の姿のまま喋る。
技能の改造で喉の構造を人間に近づけたのだ。
「ね、猫が喋っ――いや、益々珍しい! 貴様、我が輩のペットとして永久に飼われ――」
「ねぇよ、ばーか!」
顔面に向かって火炎放射を吐いてやった。
「ぐわぁあああ! 熱い! 熱いいいいっ!?」
「旦那様!?」
「おのれ! 面妖な黒猫め! がはっ!?」
襲ってきた騎士には尻尾を伸ばして攻撃する。腹に強烈な一撃が入り気絶した。
ブタ貴族は左目が失われたようだが、残った右目で僕を睨んでいる。
「き、貴様は、貴族は何者だぁ!」
「僕? 僕は女神様の使徒だよ」
「し、使徒だと……?」
「お前、女神様の信者を嵌めたよな? しかも女神様を騙って」
「あ、あれはあの親共が娘を渡さないからだ! 伯爵の我が輩に子爵如きが逆らうからだ!」
「そりゃてめぇみたいなブタに大事な娘を渡したくないだろうさ」
「ブ、ブタだと!? 猫の分際でこの我が輩をブタと言うか!?」
「何度でも言ってやるよ、クソブタ野郎が。言っておくがてめぇはもう終わりだからな。僕が今からお前に天罰を執行する」
「て、天罰だと!? 何をする気だ!?」
「特大の花火さ。お前の全部を消し飛ばしてやるよ」
女神様が、こいつの被害に遭った人たちが、そして今もまだ街にいるあの姉妹が安心できるように……。
僕は身体を爆弾に改造していく。
身体の体積が膨れ上がり、応接室が狭く感じた。
「せいぜい地獄で償えよ? 今までしてきた事をな」
「や、辞め……」
火魔法、着火!
「た〜まやーーーーーーーーー!!!!!!」
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!!
狭い、狭いよ。
ぽんっ!
……おー、燃えてる燃えてる。
いつもの家の隙間に置いてあった分裂体に意識が移り、そこから這い出て屋敷の方を見ると空が真っ赤になっていた。
夕日の赤とよく混ざっている。
火薬の元はクズ貴族なのにな。
『名前:
種族:ガラクタ・アンデッド・デミドラゴン・キラー・ビッグスライム
技能:捕食、分裂、擬態、溶解液、腐食液、サイズ変化、胃袋、改造、火魔法、弱点看破new
レベル:15→18
体力:734→740
魔力:1138→1144
物理攻撃力:416→466→469
物理防御力:628→631
魔法攻撃力:528→578→581
魔法防御力:720→723
素早さ:528→531
耐性:打撃、斬撃、刺撃、毒、闇、土、火
弱点:光、水、雷、氷、風、
擬態:土、石、葉、カラス、ダンゴムシ、ムカデ、ミミズ、花、ミツバチ、グール、黒猫、人間[バジム]、鉄の剣、銅の短剣、弓、矢、麻痺毒、斧、槍、黒いローブ、銅貨、銀貨、金貨、酒、瓶、ライター、タバコ、火薬、麻薬、小麦粉、パン、リンゴ、モモ、古びた壺、魔法ランプ、ネックレス、ペンダント、指輪、鍵、手錠、鎖、腕時計、鏡、綿、白い布、木材、ペン、インク、紙、ワイバーン
通知:メール』
おっ、ステータス画面が勝手に開いた。
これはメールを見ろという女神様からの指示だろう。
しかも種族にキラー、技能に弱点看破が追加されている。
キラーが入ったのはブタ貴族を爆殺したからだろうな。
人を殺したはずなのに全く心が痛まない。不思議だ。
とりあえず女神様からのメールを開く。
『スライムさん、スライムさん、凄いです! お笑いグランプリで今年デビューした新人さんが優勝しましたよ!』
「依頼の話じゃねぇのかよ!」
思わず声に出して怒鳴ってしまった。
人がいなくてよかった。いたら喋る黒猫として追いかけられてしまうだろう。
というか夕方にお笑いグランプリ?
再放送か? それとも時間軸が違うのかな?
『後者です。あっ、そういえばスライムさんには依頼をお願いしていましたね。わぁー、スライムさん、大変なことされましたね。殺すにしてもブタ貴族とその取り巻きだけでよかったのに』
それはすみません。でもあいつら、貴女のことを馬鹿にしましたよ?
ミジンコ女神とか、駄女神とか、脳みそが馬と鹿の女神とか。
『皆殺しで問題ありませんね。――って、ちょっと待ってください。ログを見直してもそんなこと言ってないじゃないですか。まあスライムさんが怒ってくれたのは嬉しいですけど。ありがとうございます。少しだけ鬱憤が晴れました』
お笑い見てたのに?
『それはそれです。でもやりすぎですね。何も知らない使用人たちは奇跡的に無事ということにしておきましょう』
それはお手数おかけします。あっ、ついでにブタ貴族の不正の証拠も無事にしておいてください。
『不正の証拠ですか? わかりました。スライムさんが言うなら燃え尽きた書類なども再生しておきますね』
ありがとうございます。
それと報酬の件ですけど……
『あ、はい。スライムさんが切望していた光魔法と光耐性でどうでしょうか?』
それもいいですけど、実はお願いがありまして……
『お願いですか?』
はい。今回の件、女神様の名前を貸してください。
『私の名前?』
はい。今回の事件、原因不明の爆発として処理されると思うんです。もしくは生き残った使用人たちの仕業にされたり。
そうならないようにしたい。
その為には貴女の名前が必要です。
『わかりました。許可します。私の名の下にちゃんと裁いてくださいね』
ありがとうございます。
女神様との連絡を切り、僕はさっそく作業に取り掛かった。
大量の紙とインクを用意して、記事の作成をする。
そして翌日。
街の人々の話題は、空から降り注いだ一枚の記事で持ちきりとなった。
『悪徳貴族ブータ・カタール伯爵、女神アマテラースの名の下に裁かれる。
貴族ブータ・カタールは、多くの人たちを女神アマテラースを騙って騙した。
さらに人攫い、人身売買、横領、違法薬物など、非人道的な行いを数多く行ってきた。
先日の屋敷爆発は女神アマテラース様が起こしたものである。
なぜそう思うのか?
それはあの大爆発で死んだ者たちがブータ・カタールとその側近たちだけだからだ。
あの大規模な爆発にも関わらず使用人たちは全員無傷で無事であり、さらに不正の証拠も燃えることなく発見された。
これが女神アマテラース様の力と言わず何と言おうか。
女神アマテラース様は自身の名を騙り、悪事を働く者を決して許さないだろう。
ブータ・カタールのような結末を迎えたくなければ、そのことをゆめゆめお忘れなきように……』
僕のばら撒いた記事を読む、一組の姉妹を見つけた。
「お姉ちゃんどうしたの〜? なんで泣いてるの〜? どこか痛いの〜?」
「ううん、違うよ、サラ。どこも痛くないよ」
「ほんと〜?」
「うん。早く買い物済ませようか。エリスさんたち待ってるから」
「うん!」
『ありがとう、女神様』
妹の手を握りながら、何もない空に向かってそう言ったような気がした。
その表情はとても晴れやかで、これからの未来を安心して過ごせると思っているような、そんな顔だった。
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