相乗り希望
とある葬儀場。式を終え、出棺までの少々の空き時間。彼女は外で一人、空を見上げ、祖母が眠る棺桶が運ばれてくるのを待っていた。
「ふぅ……」
「あのぉ」
「あ、はい……」
「あ、この度はご愁傷さまです」
「え、あ、はい。ご丁寧に、はい。ありがとうございます……」
「それでなんですけど、相乗りさせてもらえませんか?」
「え、はい? ……ああ、タクシーですか?」
「いえ、霊柩車に」
「え、え? はい? え?」
「よろしい、ということで」
「いや、え? あの、まず、あなた、この葬儀場の方では……」
「ないですね」
「あー、そうですよね。ご愁傷さまですって今言うの変だと思ったんです。もうあとは、あの霊柩車に棺桶を乗せるだけなので」
「はい。それで相乗りの件なんですけど」
「いや、駄目でしょ。駄目というか、そもそもあなた誰、ん? いや、相乗りって何です? 助手席に?」
「いや、うちの母です。あ、死んでます」
「えっと、えーっとそれはその、あ、ご愁傷様です」
「ああ、どうもです」
「えっと、じゃあ棺桶のほうはまさか……」
「はい、そこのリアカーに」
「リアカーにって……ああ、まあ、タクシーも乗せてはくれないでしょうからね。火葬場まで運ぶのは大変という訳ですか」
「いや、お金がかかるので、ちょっとねぇ……」
「ほー……ま、まあ、ね、お金の事情はそれぞれですしね。
じゃあ、大変だと思いますけど、ええ、頑張ってくださいということで……」
「オッケーということで。じゃあ今すぐ持ってきますね」
「だめだめだめだめだめ。いやいやいやいやいやー、ホント嫌」
「でも、スペースはありますよね?」
「いや、まああるかもしれないけどないですよ」
「ん? なぞなぞですか?」
「違います。スペースはあるかもしれないけど、それはあなたのお母さんを乗せるための空間じゃないという意味です」
「でもちょっと上に乗せてくれればいいんです」
「ちょっとって……いや上!? せめて下でしょうが!」
「あー、まあ下でもいいですけど」
「なんでちょっとキレてるんですか……下も駄目ですよ……」
「え、でも因みに亡くなられたのは?」
「祖母ですけど……」
「大往生した感じですか?」
「感じって……まあ、はい。九十二歳でしたから」
「じゃあガリガリだ! はははっ!」
「こわっ! いや、笑うな!」
「いやーうちのもなんですよー。じゃあ、軽いでしょうから、二人分くらい大丈夫ですね」
「だから駄目ですってば……」
「えー困ったなぁ。火葬の費用も半分出しますから」
「いや、そんなの……いや、火葬炉も一緒に入れる気ですか!?」
「だってねぇ、安くなりますし」
「ならないでしょうに……はぁ、頭痛くなってきた……」
「え、大丈夫ですか? 救急車呼びますか? それでもし良かったら」
「相乗りしませんよ! もうどっか行ってくださいよ! 父たちが来たらもうカンカンに怒りますよきっと!」
「えー……しょうがないなぁ……因みにお墓って」
「ありませんからね! スペース!」
「おい、何騒いでるんだ?」
「スペース? 宇宙?」
「あ、お父さん、お母さん。今、変な人が、っていない。逃げ足はやぁ……」
「もうすぐ、おばあちゃん来るぞ。今、伯父さんたちが運んできてる」
「ねえ、聞いた? この近くのお家で遺体が見つかったんだって、怖いわぁ」
「え? 遺体?」
「そうそう、男の人だって。お年寄りの母親と二人暮らしの。多分、ほらぁ、無職じゃない? 暮らしていく方法が分からなくなって自殺しちゃったんじゃないの」
「へ、へー、それでその人のお母さんは?」
「さあ? 知らないわよそんなの。見つかってないんじゃない?
でも、あれじゃない? 多分、お亡くなりになって、それでどうしたらいいか分かんなくて、床下とか押し入れとかに、ほら、よくあるでしょ? そういうニュース」
「おい、もうそのへんにしておきなさい。ほら、おばあちゃんがきたぞ」
「もうじき、お別れねぇ……あら、何かしらあのリアカー。あんな所に置きっぱなしで……」
「あー、あの、その……」
「ん?」
「なに?」
「相乗りとか、してあげられたり……」