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デジタル時計はすぐ狂う  作者: とうふ
【第一章】未来から何の目的もなく来ました。
8/16

06 暑い日に寒いと思っても暑いのは変わらないが、そこまで暑くもない時に暑いって思うとなんか暑くなる。

 

 「やっちまった」


 今日から2泊3日の林間学校、昨日まで連休で準備に抜かりはなかった。当然忘れ物はない、しかし


 「高校の感覚でスマホを持ってきてしまった」


 去年まで高校生だった晴輝だ。準備した時スマホを持っていることに何の違和感もなかった。


 「荷物検査とか前回はしなかった気がする」


 とりあえず鞄の中のタオルに包みそっと仕舞っておく。集合時間に余裕を持って家を出たはずだが、もうほとんどが集合している。


 「青葉ー」


 木部と上村が手を振り合図してくれた、まだ時間に余裕があるはずだが班員はみんな揃っていた。


 「じゃあバスの中入るか」


 木部がそう言うと班のみんなでバスの中に入っていく。それから数分後全員揃ったらしくバスが出発した。


 「突然なんだけどさー、上村と青葉って仲良いの?」


 移動中、副班長の菊池さんが聞いて来た。


 「まあ仲がいいといえばいいような気がするなー」


 少し悩んで上村が答える。


 「でも上村、青葉のこと名前で呼ばないよね?毎回苗字で呼ぶのってなんか他人っぽくない?伊上さんみたいに名前で呼べば?」


 意外と晴輝たちのことを見ていた菊池さん。たしかに晴輝とクラスで1番関わっているのは上村なんだが。


 「確かになー、青葉 お前ってなんかあだ名とかあんの?」


 「彩には晴って呼ばれてるけど、まあ晴輝でいいよ、つーか上村の名前って何だっけ?」


 「最初に言わなかったか? 上村 直哉だ。改めてよろしく!晴輝」


 そう言って握手を求めてくる。返事をして握手しようとすると


 「お前ら青春っぽいことやってんなー、そうだ俺のことも今度から達也でいいよ!」


 前の席に座っていた木部が振り返り、そう言ってくる。3人の距離が縮まり、その光景を眺めている菊池さんも満足そうだ。


 そんな感じで話していると目的地に到着した。


 「じゃあ荷物持って広場に集合なー、テントの説明するから」


 担任の田中がそう言うと各班移動を始めた。ここで一旦女子と離れることになる。


 「それじゃあ、また昼に」


 「オッケー、じゃあまた」


 達也と菊池さんがそう言い、それぞれ反対方向に進み出す。


 「にしても菊池さんっていい人だよなあ」


 別れて数分経つと、上村がそう話しかける。


 「それな、愛想もいいし、顔も結構可愛いよな」


 達也が後ろを振り向きながら便乗する。青春っぽいボーイズトークに晴輝も混ざり、ますます友達って感じが増した3人組だった。もう菊池さんには感謝しかない。


―――――――――――――――――――――――――


 テントの設営が終わると、女子たちと合流して、次のイベントが始まった。

 オリエンテーリングだ。地図とコンパスを持って決められた地点を順番に周り順位を競うスタンプラリーみたいなものだ。

 班長の達也に地図とコンパスを持たせて、みんなでそれに付いていった。


 「やばいな、これは」


 方向感覚に自信がないのに先頭に立った達也も悪ければ、達也に全てを任せた、班員も悪い。

 道に迷ったのだ。腕時計で時間を確認するとまだ余裕はあるが、これ以上迷うと流石にマズい。


 「もう足疲れたんですけどー」


 地面にしゃがみ込んで幸村が言う。いつもみたいに声に強さがないことを考えると、本当に疲れたんだろう。

 このままではマズいと考えた達也がなんとかしようと声をかけるが士気が上がるはずもない。しかし晴輝はこの状況を打破する道具を持っていた。

 

 「達也、少し地図を貸してくれ」


 「いいけど…晴輝 どうやればルートに戻れるか分かるのか?」


 そう言って達也から地図を受け取る。直哉と達也を手招きして女子からの死角を作る。そして晴輝は鞄からタオルを取り出しその中にある黒い板を取り出す、直哉も達也も驚いた顔をしたが声は出さなかった、どうして女子から自分の手元が隠れるようにしたのかを瞬時に理解したらしい。

 しかしその一瞬の動揺を見逃さないのが女という生き物である。


 「それ、青葉のスマホ!?ただの陰キャかと思えば案外悪なとこもあるじゃーん」


 さっきまでの疲れが吹き飛んだのか他の女子にも聞こえる声で幸村が話しかけてくる。結果班員が集まり始めて来た、菊池さんは大丈夫としてこの真面目そうな子が先生にチクリでもするとマズイ、スマホを没収されると学生は死ぬ。死を回避するために頭をフル回転させた晴輝は幸村にアイコンタクトを送る、さすがは女子、今ので考えが分かったらしい。


 「広下さんだっけ?みんなのピンチだもん背に腹は変えられないって言うし、まあ言いたいこと分かるよね?」


 幸村が女王様の特権をフル活用してくれたおかげで晴輝の一命は取り止められた。

 スマホを使い正規ルートに戻り、そのまま目的地を巡回し、無事にオリエンテーリングは終了した。


―――――――――――――――――――――――――


 その日の夕食、班員でテーブルを囲いワイワイとご飯を食べていた。


 「にしても、晴輝にはマジ助けられたわー」


 周りに教員がいないことを確認して、直哉が言う。


 「それな。晴輝はいっつも学校に持って来てんの?」


 「いいや、今日間違えて鞄に入れちゃって」


 達也と晴輝が会話していると何かを書き終えた幸村がそれを渡してくる。


 「今日はマジ助かった。これ私のID、これからもよろしくね。達也」


 メモ紙とグーにした拳をこちらに向けてくる。思わぬ好感度の上がり方に戸惑いながらもメモ紙を受け取り、拳を重ねる。


 「よろしく!」


 ここに来て伊上を除く始めての女友達ができた。しかも女王様の幸村沙月だ。前の自分ならカーストがどうとか言ってたかもしれないが、今はそんなことは気にしない。

 ただここにある友情を楽しもう、

 そう思い、晴輝は1週目からかけ離れた世界線を堪能した。


―――――――――――――――――――――――――


 男女別れて就寝のためにテントへ向かう。各自寝袋の準備をし、就寝時間の見回りまで待つ。


 「そういえば、直哉って同じ小学のやついんの?」


 「ああ、言ってなかったけ?俺はg小、同じやつは……クラスで言うなら槇原優衣とかかな」


 「「マジで?」」


 晴輝と達也が声を揃えて言う。衝撃の事実だ、以前ほど優衣にこだわってはいないが中学に入る前の優衣がどんなやつだったか気になる。


 「槇原さんって小学からあんな感じだった?」


 晴輝より先に達也が聴いてくれた。


 「いや、俺小6のとき転校して来たから槇原さんのこととか噂でしかしんねーよ」


 晴輝は直哉らしい残念な答えに心ので舌打ちをする。


 「晴輝も槇原さんのこと気になるよな?」


 「えっ…まあ気になるっちゃ気になるけど」


 突然、達也に心の内を暴かれる、達也はやっぱりなっと言う顔をしてにやけている。要らぬ誤解を生んでしまったかも知れないが達也や直哉が身勝手な噂を流すとも思わないし、今誤解を解くのは逆効果な気がする。

 

 教員が見回りに来て点呼が終わったところで今日は寝た。普通に疲れていたので慣れてない寝袋でもすんなり寝ることができた。


―――――――――――――――――――――――――

 

 今日は雨らしい。

 そのせいで朝早くに起きて大急ぎでテントの片付けをしている、小雨が降りはじめそうになったところでテントの片付けが終わった。


 「手の空いてる男子は女子のも手伝って上げて」


 となりのクラスの担任がヘルプコールを出している。めんどくさすぎて行きたくないのだが超善人の達也がいるので、もちろん付き合わされる。


 「あーやばくなって来たー」


 本格的に雨が降り始めた頃になんとか施設に入ることができた。ずぶ濡れになることは無かったが、小雨のせいで肩や髪の毛が濡れたため、タオルで頭を拭く。

 

 「ちょっとー早くご飯食べたいんですけどー」


 先に入ってた幸村達が呼んでいる。相変わらずの女王様だ、機嫌が悪くなる前に髪を拭きながら席へと向かう。

  

 「あんたら片付け遅すぎ」


 「幸村達は他の人の手伝ってないの?」


 超善人ボランティア3人衆に文句を言う幸村だったが確かに幸村達には濡れた後がない。


 「手伝いなんて呼びかけてた?私達1番乗りで施設に戻ったからね、そんなの聞いてないや」


 食事を運んで来た菊池さんが言う。


 「テントを片付けて施設に入る際、教員の持ってる名簿にチェックをつけるだろ?女子側の教員はこっちまで来て手伝いを求めたんだ。1番早くに終わった幸村達に呼びかけいのはおかしいだろ」


 冷静に考えながら晴輝が考察を語り。達也がそれを聞いて問いかける。


 「つまりお前らサボったな」


 答えは聞くまでもなく態度で分かった、幸村と菊池さんは平静を保っているがもう1人が戦犯すぎた。


 「お前らは、広下さんを見て少し心を痛めておけ」


 遅れて食事を持ってきた直哉が幸村達に言う。


 「あーっ、はいはい悪かったです。反省します。それじゃあ皆さん切り替えて朝食といきましょう。いただきます」


 早口に幸村が言う。女王様の幸村が非を認めるのは珍しい、いや以前までの自分が勝手にそう思い込んでいたのかもしれない。

 以前までの人に対する評価も改めないといけないと思いながら晴輝は朝食を食べた。


 雨天のため2日目は施設内の体育館を使ってスポーツをすることになった。競技は教員がくじを引きで決められた。


 「えーっと、今日やるのはバレーボールです」


 2日目はバレーボールを班対抗の総当たりで行われた、もちろん達也と晴輝は勝つ気満々だ、加えてバレー部に所属している幸村と菊池さんもやる気にみなぎっている。


 「おっしゃあ、絶対に勝つぞー」


 覇気のない声で直哉が円陣の掛け声をする。


 「ちょっと、なんでこいつが掛け声すんのよ。達也がやれば……せめてっ晴輝でもう一回しよ、ねえ…今ので本当に気合い入ったの!?」


 納得いかない幸村をよそに班員にはしっかり気合が入っている。しかし慌てふためく幸村は意外と可愛いな、ポニテもよく似合っているし今まで直視出来なかったがよくよく見ると普通に美人だ。


 「ちょっと晴輝、あんた私のトスでもしミスしたら蹴るからね」


 ポジションは

     

    晴輝 幸村 直哉  

    広下 達也 菊池


 達也と晴輝で広下さんをカバーし、菊池さんと幸村で直哉をカバーする、晴輝考案の配置だ。ローテーションとかはないらしいのでこのポジションで1位を貰う。


 


 試合は順調に勝ち進んでいった、達也が取り幸村が上げて晴輝が打つ。この流れを作って上手く点数を稼ぎ無敗のまま4回戦目に突入する。


 「次の相手は、佐川チームか」


 佐川チームにはアイツがいる。さっき横で見ていたがやはり強い、天才ってやつは何をやっても完璧にできるらしい。


 「槇原優衣……」


 幸村のオーラが変わった、相手が優衣で晴輝も達也も十分に気合が入っているが、幸村の気合はそれを遥かに超えていることがわかる。


 達也がこんな本気で人の名前を叫んだことは一度もない。

 晴輝も他人のためにここまで本気を出すのは初めてだった。

 直哉もキャラになく本気を出す、そのことに直哉自身気づけない程に。

 普段よく笑う菊池さんもその時は笑顔の面影など残っていなかった。


 幸村沙月が人前で涙を流すのもこれが初めてだった。


 

 班対抗バレーボール大会 4回戦目が始まる。


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