05 転生
世界とは見る人によって変わってくる、都会に住む人間と田舎に住む人間では自然を見た時何を思うかが違い、運動ができる人とできない人では体育の授業に対する向き合い方が変わる。能力や生まれ、性別に身長、その他にも自分と全てが同じ人がいるのであればその人が見る世界は自分と同じなのかもしれない。
つまり他人と考え方が同じになることなどほぼありえない。だから話し合い、個々の主張全てが反映されるようにうまく譲り合い、みんなが満足する案を作るものだと思う。
「嫌だ 私も食事係に行きたい」
譲り合いなど生まれてからしたことがないのだろう。自己中心的な発言で班長の木部を困らせているのは、わがまま女王様こと幸村沙月だ。
「幸村さん…ジャンケンで決めたことだし、俺も班長だから食事係から動けないんだ」
申し訳なさそうに木部が謝りながら言う。
「じゃあ、あんたらのどっちかが変わってよ」
幸村が指を刺して言う。刺されたのは、今まで目を合わせなかった晴輝とマジでなんも考えてなさそうな上村だ。
「あくまで公平なジャンケンで決めたんだし、文句言うのはおかしいだろ。俺たちがお前に従わなくていい理由なんて他にもいくらでもあるぞ」
めんどくさそうに上村が言う。最近関わり始めて知ったが、上村はカーストとかそんなのを本当に気にしてないらしい。晴輝にはとても言えないセリフだ、上村さんまじ尊敬っす。と上村に敬意を示しながら晴輝は黙って、幸村と目を合わせないように下を向いている。
「はあ?だる」
幸村も上村が言い返してくるとは思っていなかったのか。半ギレ状態である。10分間ぐらい体育館のこのスペースには地獄の空気が流れている。
林間学校の班はくじ引きで決まり、男子3人女子3人で構成されている。班長は木部、副班長は菊池聡子という女子がやってくれた。残りの係はジャンケンで決めた。キャンプファイヤーを準備する係と食事の準備係の2つだが食事係のほうが断然楽だと例年言われているので、みんな食事係を狙う。そして晴輝と上村が勝って幸村ともう1人の女子が負けたわけだ。
そっから何やかんやあってこの地獄に繋がる。
上村が無理なら当然次のターゲットは
「じゃあ青葉、あんたでいいから変わってよ」
もちろん晴輝である、晴輝に上村みたいに反撃することはできない、木部に助けを求めたいところだが、木部の方を向く余裕がない、詰みだ。大人しくキャンプファイヤーの準備係になるしかないか。っと思っていたところで
「あーごめん、スポーツテスト準備発表言い忘れてたから今から発表しまーす」
教員に救われたな、と思い順位の発表を聞く。
「まず女子、3位野口さん2位幸村さん1位は槇原さんよくがんばったなあとで賞状的なのくると思うから」
女子の順位は1週目と変わらない。まあ変わるはずもないが、
「次男子、3位中野くん2位青葉くん1位が木部くんね
これもあとで賞状みたいなの送るから」
スポーツテストの結果をそこまで重要視する人はいない、だからだろうか、晴輝が2位になっていても思ったほど変化はない。
「で、話の続き、あんた変わってくれんの?」
「え、ああ…うん」
「ほんと?じゃあそれで決まり」
林間学校の班決めのことなど頭の中から吹っ飛んだ。また失敗した。2週目なのに勝てなかったのか。上村や木部が褒めてくれるが全く頭に入ってこない、はやく優衣と彩と晴輝の3人で過ごしていたあの日々に戻りたいだけなのにどうしてこうも上手く行かないのか。
間違いなく好成績を残したが教室へ戻ってもやはり大した変化はない。強いて言えば教室の後ろに賞状が飾られたことぐらいだ。
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もう晴輝の策略は全て失敗した、4月が終わると言うのに名誉挽回どころかボッチキャラが板につき始めてきた。GWが明けるとすぐに林間学校か。
家でカレンダーを見ていると ヴー っとスマホのバイブ音が聞こえた。
『今日はフォローしきれなくてごめん』
木部からのメッセージが来た。こいつにID教えた記憶がないがまあどうせ彩か上村だろう。
『別に気にしてなんかいねえよ。木部も1位おめでとさん』
特に気にしてないので適当に返信したつもりだったが、無意識にスポーツテストのことを送ってしまった。
『ありがとう!それから林間学校のことなんだけど――』
それからしばらく木部とメッセージを交換しながら思った。
これからどう学校生活を送ればいいのか途方に暮れていたが、そもそも悩む必要なんてないのかもしれない。
普通に送ればそれなりに楽しくなるんじゃないか。上村や岡村、木部に槶原もそうだ、1週目とは違った関係を作ってそれなりに楽しくやろう。
勝負の4月が終わり、GWに突入する。
「連休明けには林間学校か…まあ楽しくやっていこう」
晴輝には、未来から過去に戻りこの1月で本来のシナリオを随分と狂わせた自覚はあった。しかし最近は1番狂ったのは自分なんじゃないかと思い始めている。
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5月7日
目覚めた晴輝は遅れて鳴ったアラームを止めて日付を確認する。
「そういえば、忘れてた」
机の上にあるデジタル時計を取って少しいじくる。
「よし!少し寂しい気持ちもするがまあ狂ったまんまってのは気持ちが悪いしな」
時計の西暦を2020年から2014年に変える。
「大分吹っ切れた気がするな、そんじゃあ楽しんでくるか」
鏡を見て身だしなみを整える。こんなこと今までやったことがなかった。4月前からは少し変われた気がする
「中学生デビューにしては少し遅すぎたか」
入学式の時みたいに作戦を立てわけでもなく、スポーツテストの時みたいな自身もないが上手くできる気がする。頬を叩き気合を入れる
「それじゃあ、行ってくる」
特になにも意識してないのに爽やかな声が出た。
2014年5月7日
青葉晴輝は生まれ変わり、未来の自分を捨てた。