04 異世界
学校が始まって1週間が経つ。クラスでもグループができ始め、特に幸村沙月を中心としたバレー部集団が既にカースト上位に君臨している感じが分かる。木部達也や槶原透もクラスの中心って感じがして誰に対しても分け隔てなく接する2人はクラスの人気者だ。
休み時間に寝たフリしながら教室で聞こえる声を聞けば、まあだいたい誰がカースト上位なのかは分かる。
まあもちろん、初日に理不尽な暴力を振るわれた晴輝はボッチである。話しかけてくれるのは隣の席の岡村秀太と彩ぐらい、あと木部とかが定期的に話しかけてはくれるが、それ以外の人間には基本シカトされている。
「青葉君と岡村君、ちょっといいかな?」
寝たフリをする晴輝と本を読んでる岡村秀太、教室右角の底辺組に話しかけてくるとは、中々見込みがあるじゃないか、きっとガリガリの丸眼鏡してるやつだろう。クラスの底辺ってのはデブ、ガリ、主人公ってのがお決まりだからな。晴輝はそう思いながら振り返る。
「今度のスポーツテスト。ペア作らないといけないんだけど…その…」
振り返るとガリの丸眼鏡ではなく身長の高い大人しそうな男がいた。
「ああ、ごめん。俺は上村直哉、入学式とその次の日熱があって学校休んでたんだ。よろしく!」
そういって手を差し出してくる、すこしキョドリながらも晴輝は手を握る
「よろしく!スポーツテストも頑張ろうね」
つまりこいつは、俺がボコボコにされたところを見ていない。クラスで喋れる人ほとんどいなかったし、こいつも陰キャの世界にお招きするか。
スポーツテストとは各競技で点数を出し、学年ごとに順位も出る、本気でやるやつもいれば適当にやるやつもいる、なんなら休むやつだっている。晴輝意外なことにスポーツテストガチ勢タイプだった。
「自分の身体能力を数値に表せる日などそうないしな」
晴輝はバトル漫画が大好きだ。特に、異次元バトルではなく、銃や近接戦闘がメインのバトル漫画が好きだった。戦う時フィジカルの差がそのまま勝敗に繋がることを晴輝は漫画と3年間の工業高校生活で学び、高校の途中から晴輝の日課にはトレーニングが追加されていた。
「はっきし言って自信しかねえな」
晴輝は中学1年生の運動能力にそこまで大きな差は出ないと考えている。つまりまだ晴輝にも勝機はある、スポーツテストで1位になれば名誉を取り戻せる。晴輝はそう考えていた。
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実際に晴輝は好成績を残していた。やる気のない岡村にはもちろん、そこそこ真面目に取り組んでいる上村に対しても圧倒的点数差を出している。
測定が終わり教室へ戻る途中
「これは俺1位ありあえるかもな」
「あれだけ本気で取り組めば、1位だって取れるかもね」
晴輝の独り言に上村が突っ込む。名誉をかけてスポーツテストをする晴輝は周りから見てもその熱意が伝わるぐらいマジだったらしい。
「自分の限界を試す楽しみを上村も知った方がいいぞ」
汗を拭きながら上村に自分を追い込む楽しさを享受していると
「それには俺も同感かな」
岡村が、いやその後ろの木部が言ってきたどうやら木部達のグループも今から教室へ向かうそうだ。
「青葉50m速かったよなー、部活は何部なの?」
木部と一緒にいた槶原が聞いてくる。思わず、体が震えてしまう。相変わらず槶原は顔がイカつい、陽キャ耐性がない晴輝は少し怯えてしまう。
「き帰宅部だけど…」
陰キャの鏡みたいな返事をする。
「もったいないよなー運動できるんだから運動部入っとけばよかったのに」
槶原はそう言った後、晴輝を見てコミュ障を察したのか木部達に話を振って上手く会話を終わらせてくれた。見かけによらず気の利く男だ。
教室に戻ると皆もう席に座っていた。いつもより少し静かな気もするが何かあったのかと聞ける相手もいないので晴輝も無言で席に座る。
「スポーツテストの結果は次の学年集会でまた発表するから――」
担任が話していたがスポーツテストの結果発表しないと分かった瞬間、晴輝は時計にしか意識が行かなくなった。
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家への帰り道、彩は今日部活がなくて1人だから一緒に帰ろうと誘ってくれた。1週目では教室でもたまに話してはいたが2週目になってからほとんど話していなかった。
話す話題はほとんどゲームのことだった。彩は意外とゲーム好きだ。学校ではそれを隠しているが、知ってる人は知っている。
ちなみにめちゃくちゃゲームが強い、晴輝は勝ったことが一度もない、まあ彩のゲームの話は聞いててかなり参考になるし、面白い。
「超乱戦のランキングずっと5位から上がんないんだよねー」
「5位だって十分すごいよ、そこまでいけばもうプロしかいないんじゃないの?」
とりあえず適当に返したが、今彩が言ったことに耳を疑う。
ちなみに晴輝のランキング順位は4位、今までずっと勝てなかった彩を知らないうちに晴輝は超えていたのだ。
晴輝は気付き始めていた。確実に世界線が変わり続けている。話さなかった人と話すようになり。1度も勝てなかった相手に勝てる様になった。
「そうだ、晴 スマホ持ってるんだよね?これIDだから登録しとって」
「ああ、分かった」
別れ際に彩からIDの書かれた紙切れをもらった。これも1週目ではあり得なかったはずのことだ。
もう晴輝は今が前より良いのか、それとも悪いのか、ましてや、この先どう進めば正解かなんて分かるはずがなかった。