スマートフォンはデジタル時計の存在意義を奪うな
今なら何をやっても上手くいかない自信がある。体が重い、深呼吸するとダルさが体に広がるのが分かる。ベットの上に寝転がってると全身が重力を感じてるのがしっかりと分かる。
端的に言うと死にたいぐらいに憂鬱だ。
「はぁ……おもんねぇ……」
死にそうな声で晴輝は呟いた。
「希望に溢れ将来に心弾ませているであろう未来の後輩たちにこの声を聞かせて、現実の退屈さを教えてやりたい」
外で遊ぶ元気な子供の声を聞いて、さらに暗くなった。大人に憧れていた自分を思い出しながら晴輝は自分の部屋を見渡す。
「どうして異世界転生とかラブコメとかの主人公って高校生ばっかなんだよ、新卒社会人には夢見させてくんねえのかよ」
部屋の本棚にあるラノベや漫画を見てまた呟く。小さい頃から部屋に置いてたデジタル時計に目がついた。
「スマートフォンによって完全に存在意義を奪われたデジタル時計先輩じゃないっすか。時代に淘汰された党にあんたも入るんだろうな」
デジタル時計を持って適当なことを喋っている。端から見るとかなりシュールだ。
「よく見たら1日遅れてんじゃん。狂わない優秀ちゃんかと思ったら。クラスに1人はいる隠れてやっちゃってるタイプかよ。まあ俺がいなくなったら捨てられるだろうし最後に戻してやるか。悪は断罪されるまでが悪なんだよっと」
いつしかの友人が言ってた台詞を思い出す。
「そういえば、あいつら元気にやってんのかな」
自分の華やかだった中学時代を思い出す。楽しいことばかりだったあの日々を、同時に愚かすぎた自分の選択も思い出す。後悔ばかりだ。
「あのときこうしていればって誰もが考えちゃうもんだよな」
中学時代の友達は進学先の違いでほとんどあっていない、スマホも持っていなかったから連絡先もない。
「俺も中学の時から勉強頑張ってればワンチャン同じ学校になれたかもな、まあでも進学校行って進学するってなると学費払えねえか」
兄の進学のせいで家は金がなかった、高校は工業高校にしてバイトしながら勉強して、なんとか大手企業から内定を貰うこともできたんだが。
「俺も送りたかったなあ……キャンパスライフ……」
兄のせいで今の自分になったと考えると腹が立ってくる。あいつさえいなければもっと楽しく青春できたと考えると余計にイラついてきた。こんなことを考えてしまうことがたまにあるが、大体イライラしすぎて家の壁を殴って落ち着く。
「壁を殴れるほど元気じゃないんだよな」
一昨年鉄筋の入った部屋の壁を殴って指から血が出たことがある。今そうなるのはヤバいとかチキったわけじゃない。
「17時間15分後に俺は家を出るわけか。ああーめんどくせぇー」
憂鬱すぎて時間をどう使っても勿体ないと感じてしまう。真っ暗なスマホの画面を眺めて2分経ったぐらいだろうか。
「漫画でも見るか」
結局いつもと同じように過ごしてしまう。最後の日だからなんかあるとかそこまで人生面白くないことは重々理解している。だが、
「そういえば今日1回も笑ってねえわ」
アラームを確認してベッドに入った時思った、本当に何をやっても楽しめない日になってしまった。
「こうやって人は大人になっていくものなのか」
意味もなくわけの分からないことを言って青葉晴輝の1日は終了した。心の底から何もしていない1日だったが案外すんなり眠ることができた。
目覚めた瞬間異変に気づく部屋に送ったはずの荷物があり、本棚にラノベもない。
「前言撤回、俺はまだまだ子供なようです」
変声期の少し高い声で青葉晴輝12歳は呟いた。希望に溢れ将来に心弾ませせている声で。
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