さようなら
初投稿。駄文です。
疑問だった事の自分なりの結論を、小説という形に書き出した物です。
「次のニュースです…」
ろくに聴いてすらいないテレビを消した。
そもそも見る気なんて無かった、ただ付いていただけの電源を落としただけ。たったそれだけでも、ささくれ立った心が安らいだ。
離れた部屋の父親の怒号は既に遠く、気持ちを鎮めようとそのままベッドに横になる。
昔からあの人はずっとそうだった。ああしろこうしろと自分の理想を押し付けてくる。まるでそれが正解だというように。
「今時色んな人がいるんだからよくない?」
汚い薄ら笑いを浮かべながら、余裕を偽って僕は言った。
「っ…話にならん!」
何時だってコレだった。今時中学生でももっとそれらしい事言うよ。と、心の中で煽る事で目の前の恐怖から逃げているのは自覚している。それでも、しなければ身体は震えてしまいそうで。目を逸してしまいそうで。
その後の僅かな沈黙の後、耐え切れずに逃げ出してしまったのが現状だ。
きっと追っては来ないだろう。そんなこと想像に難くない。
ふと、瞼を開いてスマホを見る。
午後1時半、あぁもう考えるのも面倒だ…
激しく降る雨の音が僕を闇へと誘う。
そして、そのまま意識は闇に消えていった。
瞼が開く感覚も無く、灰色の世界に入り込んだ。
過去を見ているようだ。どうやら明晰夢だと推測する。
でなければ、とっくのとうに見ないようにしていた筈だ。
過去なんて、トラウマでしか無いのだから。
「へんなの。」
「変わっているね。」
「今までこんな子供見たことが無いよ。」
言葉が聞こえる。
光景はフラッシュバックする。
称賛や、尊敬の目線では無い。
異端だ、排斥すべきだ。その意思が伝わってくる。
「お前キモい。」
「なんにもできないよね。」
「バカだなお前。」
それはすぐに言葉になった。そして、
「…っ」
小さい身体に、不釣り合いなほどの大きな痣。
その言葉はすぐに形になった。
「そんなことも、あったな」
僕は、思い出したかのように左腕を擦る。
もう治ることがないと言われた火傷がそこにはある。
夢の中でも、それは癒えていないようだった。
「お前面白いやつだな!」
今度は、これか。
「あいつおもろいよ。」
「笑わせてくれるよなぁ」
「センスヤバいよね」
僕は、夢の中だというのに、その光景に耐え切れずにいた。
「っく…はぁ…はぁ…」
自らの首を絞めていた。この後がどうなるか解っていたから。
「あいつすげぇよな」
「天才だよホント」
「芸人やれんじゃね?」
ふざけるなよ。僕はちっとも面白くない。
勝手に面白がってるだけだろうが。
救いの手の様に吊るされた蜘蛛の糸に雁字搦めにされていたんだ。
その時の僕は、虐げられた過去に怯えてレッテルに甘んじて生きていたんだ。
だから、他人を笑わせなければいけなかった。どんな手段を取ってでも。
それがこの場にいる為の義務だから。
そんなことを思い出す。
傍から見た自分の姿は、愚かで、滑稽で、くだらないマリオネットを見せられている様だった。
その後は、似た記憶の繰り返しだった。
何度苦しめばいいんだ。今までも、これからも。
信じたくない宿命やら運命やらを確認させられるかのように。
誰かの手のひらに踊らされる。そんな僕を。
息が詰まる。
どうやら目覚めたようだ。
汗ばんだ肌着は酷く不快で、もう眠れそうにない。
憂鬱な気持ちは、眠る前より一層増した。
「どうして…」
口に出して心を鎮める。今になってこんな夢を見ているのか。
何故だが分からないのに、心のどこかで解っていた。
「何か嫌だったんだろう」
意図せず答えは飛び出した。そうか、その為だったのか。
僕はソファーに腰掛けた。
『嫌なものはなんだったの?』
「孤独になること、いじめられること、ダメージを負うこと、期待されること。」
心の問に口で答える
『どう見られるのが嫌だった?』
「変な奴だと見られること、注目を浴びるようなこと」
『じゃあ、本当にこれだけは嫌だったことは?』
答えられなかった。何を言ってもしっくりこない、確信があった。
「僕は…」
一人になりたく無かった。でも人と居たくなかった。
注目を浴びたく無かった。でも誰かに見て欲しかった。
矛盾が頭を駆け巡る。
「僕は…僕は誰なんだ?」
どうやら課題は見つかったらしい。精一杯脳を使う。
次々湧いていく想いのタスクを処理していく。
だが、考えれば考えるほど答えは遠のいていく気がした。
思い返せば、自分の人生に自分の意思が関与した事なんてなかった。
常に敷かれたレールの上、それがいいと思っていた。
与えられている事しかできないのだ。
与えられて満足していたからこうなったのか。
既にあるものに目が眩んで、自分が自分に盲目になっていたのか。
少しずつ霧は晴れていく。
「他人に理解されたかったんだ。ありのままの、自分の姿を。」
それらしい答えだ。なんの捻りもない、誰でも思い付くような。
でも、それで良かった。
それが良かった。
始めて自分を感じられたから。
ありふれた人の中に、自分が居ることを感じられたから。
『でも、人と居たくなかったんじゃ無いの?』
「それはまだ分からない。僕はまだ、誰の事も理解しちゃいない。というか、一生かけても誰の事も理解出来やしない。」
『どうして?』
「移り変わるからさ、雨、霧、晴れと天気のように。」
そう、曖昧なままでいい。全てが白黒別れている必要は無い。
雨が晴れるように、晴れが陰って雨になるように。
「それでも、僕は、僕らは理解した気でいたいんだ、自分を、他人を。」
いつからか、心の声は止んでいた。
午前7時。
「ちょっと、話してみるか。」
軽い溜息をついてから呟いた。仕事前だしまだ時間はあるだろう。
そこそこの距離の廊下を歩き、部屋をノックする。
「父さん、ちょっと良い?」
空は晴れている。