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階‐きざはし‐の彼方  作者: 炎鷹
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第八話

 お腹すいたなぁ。

 まだ、お気に入りのお店の食パンは冷凍庫に残っていたはず。あれを解凍してジャムつけて、珈琲入れて、ぼんやりとテレビを見ながら食べる。たまに、スマホをいじり、友人たちに他愛もないメッセージを送る。パン屑やジャムがつかないように気を付けながら、テレビのリモコンへ手を伸ばす。

 パンを口に入れた感触を覚えている。ふわりと感じる小麦粉の香り、ジャムの甘さを覚えている。だけど、次いつ食べられるかはわからない。

 そう思うと余計に食べたくなる。

 美味しいものが食べたいよう。


 壁に背を預けて膝を引き寄せる。

 今が夢なのか、現実なのか感覚はあいまい。でも、手に触れる感触は確かで、生地から自分の顔から髪の毛まで疑いようがない。

 指先に絡まる髪の毛を解きつつ、お風呂に入りたいとも思った。




 毎日、お風呂に入る。髪の毛を洗う習慣がある。それは風邪を引いた日でさえ私は入る。

 気分の問題。お布団の中に入るときはなるべくきれいな状態でありたいのだ。

 お気に入りのシャンプーにトリートメント。

 体を洗う石鹸の香り。

 お湯に身を沈めた時のまとわりついているものが解けるような浮遊感。


 それらを妄想することだけが、今、許されていた。

 つづきは明日だといわれたにもかかわらず、エドアルドはやってこない。

 忘れ去られた?時間はどのくらい経っている?

 おなかが空いたピークは過ぎてしまったが、空腹なのは変わりない。

 ここで餓死は絶対に嫌だ。


 何をすれば、気づいてもらえる?

 手には何もない。鞄は昨日、取り上げられてどこに持っていかれたかわからない。

 何もないこの場所から発することができるもの。

 部屋の中を見回すが、逃亡対策なのか敷物にしている布だけで、何もない。

 遠くにいる人に伝えることができるもの。


 音、かなぁ?

 それが手っ取り早い。

 大声で叫ぶ?呼ぶ?

 なんと呼ぶ?


 お腹は空いているし、水も取っていない。

 声がどこまで届くかは不安だった。

 けれども、自分がここにいることは伝えなくてはいけない。 

 そろそろと格子に近づく。


 廊下に人の気配はない。耳を澄ましても物音は聞こえない。

 いよいよもって、助けを呼ばないと命の危険を感じる。

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