第四十八話
ぼんやり思い返していると、宰相閣下の部屋とつながる扉が勢いよく開いた。
お茶をご所望かしら?
みるとそこには様々な感情を押さえつけた顔をした侯爵が立っていた。
思わず、こちらの背筋も伸びる。
侯爵は座っているノニウスの前に立つと顎をしゃくる。
それで理解したノニウスは侯爵とともに外へ出ていった。
何も言葉のやり取りはないが雰囲気はとてつもなく悪い。宰相閣下の右腕として働くノニウスに対して、報復でもあるのではないかと心配になり所内の他のメンバーに視線を移すと、彼らは首を振る。
「心配ではないの?」
誰が聞いてるか分からない。大きくはない声で皆に尋ねる。
「大丈夫だと思う。侯爵がノニウスに何かすることはない」
「言い切れるの?」
そういう私もどう助けに行ったらいいか分からない。説き伏せることはできないし、腕力に物を言わせることも無理だ。
「ノニウスは侯爵の遠縁にあたる」
「侯爵派の砦だからね、彼」
どういうこと?ノニウス、侯爵の家の人?
「侯爵自身と血のつながりはないらしいけど、侯爵はノニウスを宰相に推していたからね」
一人が当時を思い出すように遠い目をすれば、別の一人が腕を組んで頷いた。
「揉めたね、あの時は。まぁ、どの人事もすんなり決まることはなかったけれど、宰相は特にね。こちらとしては国として機能するなら誰でも良かったんだけど」
「誰でもって」
そんな割り切ったことでいいの?
思わずあきれたと声を出してしまった。
自分たちの国でしょう、ましてや今ここにいるということは当時もここかそれに近い場所にいたはずなのにあまりに情がない。
「究極、健康で宰相としてちゃんと国のために働いてくれる人であれば、誰でも良かった。そのくらいだったんだよ、当時はね」
「良かったねぇ、今の宰相閣下は健康で国のために働いてくれているよ」
二人は穏やかに笑みを交わす。
なんだろう、怖い。とても怖い。
ノニウスに比べ、付き合うことは少ない彼らだけど、考え方が独特すぎる。
うまくやっていけるかな、この人たちと。
不安しかない。
「はーい、お国ために身を粉にして働いている宰相さんはおいしいお茶をご所望です」
見れば我らがエウアンドロス宰相閣下が笑顔で扉に張り付くようにして立っていた。
「今日も元気ですね、閣下」
「侯爵なんて目じゃありませんね、さすがです宰相閣下」
「君たちは噂ばかりしないで、書類を早くまとめてくれないかな」
「勿論ですよ、閣下。最初はどうなることかと思っていましたが、今では尊敬してやみません」
「私たちも仕事に慣れてきましたし、頑張って支えますから最期まで耐えてくださいね」
にこにこ、と表情は和やかだが冷気を感じるのは私だけなのかな。最期って、最期?
「ミキ、ちょっと」
宰相閣下は、小首をかしげる私を手招きする。
「ただいま、参ります」
侯爵とあれだけやり合ったのだ、気分を変えるためにもおいしいお茶を用意してあげなくては。
私、おかあさんだから。
しかし、宰相閣下のおかあさん、どうかなぁ?
彼には子どもが2人いる。孫持ちになるのかぁ。




