シーコ「飛べない・・・」
「痛い、痛い、痛いよう・・・え~ん、え~ん」おバカそうな顔で鼻水と涙を流しながらドクンに殴られて膨れて赤くなった頬を抑えながら仰向けのままでジタバタして暴れるシーコ
「だからやめたほうがいいって言っただろ」ドクンは呆れたように言う
「私、パパとママにも殴られたことないのに~グスン・・女の子の顔を殴るなんて最低ね!あぁ~痛いわ~痛いよ~グスン」 ヨロヨロとしながらどうにか立ち上がるシーコ
ドクンの顔を見ながら(それにしても驚いたわ、私との距離20mはあったのに一瞬で、この子どういう体の作りしてるのよ・・・)
そこでピコーン!と閃く(でもこの子は使えるわ) ニヤっと微笑むシーコ
キリッとした表情になり「オホン、ドクンって強いわね、もう私驚いちゃった!」口の前に手をグーで咳をしドクンの肩を揉みながらわざとらしく褒めるシーコ
「俺毎日鍛えてるから、でもシーコが弱すぎるだけだろアハハ、俺こんな弱い魔法使い初めて会ったぞアハハ」悪意なく無邪気に笑いながら言うドクン
「いや、あんたが異常なだけでしょーが!一瞬すぎて魔法を唱える時間もなかったの!」頭の血管を浮き上がらせながらカチンとするシーコ
「ハハ」笑顔のドクン
「はぁ」とため息をつくシーコが気を取り直して
「それよりあんたどうせここにいたって暇でしょ?よかったら私の修行の旅に付き合ってよ」
「え?」と戸惑うドクン
それもそのはずドクンはこの山から離れたことがなく、人のいる村や町に行ったことがない、というか行く必要がなかったのだ
山は広くドクンの庭みたいなもので山の中や川から取れるもので食べ物に不自由はなく生活できていたから
「俺この山から出たことないけど外の世界に行って修行したら今よりもっと強くなれるのか?」
ドクンは特に目標というものはなかったがただ強くなりたいとは思っていた
「なれるなれる!世界は広いのよ、あんたなんかより強い人だっていーーぱいいるし、もっと凶暴な化け物だってうようよいるわ」
「おーなんか楽しそうだな~俺行くよ」
「よし!決まり」
「準備できたぞー」家に入り簡単に旅の身支度を整えて出てきたドクン しかし荷物もなく手ぶらで武器も何も持っていない様子
「・・・何も持って行かないの?」 「うん」
「ま、まあいいわ・・・それじゃあーしゅっぱーつ!」手を上げ元気よくシーコが言う
しかしここで気づいた
「あれ、でもどうしよう・・・乗り物がない・・・さっき壊れちゃったから・・・」落ち込むシーコ
シーコの乗り物は岩に激突して修理ができないほど壊れて大破している
「ねえドクン、なんか乗り物持ってる?」
「そんなもんねえよ」「そりゃそうよねー、持ってるわけないかー、う~ん困ったなー」頭を抱えるシーコ
「走っていけばいいじゃん」平気な感じに言うドクンに「あんたねー、一番近くの町だってここから何千キロあると思ってんのよ!」口うるさく激しく怒るシーコ
「う~ん・・」腕を組み考えこむシーコにドクンが閃いた「そうだ!シーコって魔法使いだから空飛んで行けばいいじゃん、なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだ、なあ」
「なあ」というドクンの言葉から少し気まずい空気が流れて
申し訳なさそうな顔のシーコが小さな声でつぶやくように「飛べない・・・」と答える 「え?なんで、魔法使いなのにシーコ空も飛べないのかよ」少し怒ったようにお前は役立たずだなという感じで言うドクン
「いや、だから修行中の身だって言ってるでしょ!それになによ!魔法使いがみんな普通に空飛べるとか思ってんの?」ドクンの心無い言葉に怒るシーコ
「俺の知ってる魔法使いは普通に飛んでたぞ」 「ぐぬぬ・・」言い返す言葉が出ず悔しそうな顔のシーコだったが「でもちょっとなら飛べるもん!」
3秒ほど宙にぎこちない動きでフワフワ浮かぶシーコ「今はこれが限界かな・・・エッヘン!」ちょっぴり自信満々のシーコ
「それでどうやって町まで行くんだよ!」怒るドクン「だから今考えてるでしょーが!」怒るシーコ
ここでドクンが閃く
「じゃあアレに乗って行くか!ちょっと待ってろシーコ」ピィーーーーと指笛するドクン
その音は山全体に響く高音
空気がザワザワと騒がしくなった ビューーーーと何やらものすごいスピードでこちらに向かってくる
二人の頭上でブワっとした激しい風圧が起こる それと同時にバサバサと翼の音が響く そしてドクンとシーコの目の前に降りた 体長10mの巨大な怪鳥が現れて「キェェェーーーーーー」強烈な雄叫びを上げる
「ギャーーーーーー何よコレーーーー」驚いて尻もちをつき大声を上げるシーコ
「これに乗っていこう!」平然と言うドクン
「へ、へぇ・・す、すごいわね・・あ、あんた・・・アワアワ」目をパチクリさせてビビるような顔と仕草のシーコ




