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氷海のマーマン  作者: ベスタ
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5 押し付けられマーマン

 ポリフェルの会議室にタコス、一二三、テルの3人が集められた。

 それ以外にはテルの妹である藤子ふじこが待機していた。


「報告してください」

「はい」


 藤子は会議室の大きな粘土板の前に立つと指示棒で解説をした。


「我々の現在の敵は現在ナラエゴニヤ海域となっています」


 地図にタロス海域を中心とした周辺海域が描かれる。

 タロスの東にカララト海域。

 タロスの北にサイガンド海域。

 そしてタロスの南西にナラエゴニヤ海域。

 その奥にハルカズム海域となっている。


 ナラエゴニヤ海域の首都はグルコースという。

 そのグルコースを指し示し、藤子は話す。


「ここ1年の間、私はグルコースに潜入し内部を調査していました」


 藤子の主な仕事はスパイである。

 しかし、姉妹である苦内とは違い、長期間の潜入活動によって内状を探り教える役目を得意とする。


「現在グルコースは1年以上前から戦争の準備を進めており、その兵士数は軽く見積もっても2万5千は堅いかと」

「2万5千!?」


 テルが驚きの声を上げる。

 それもそうだ。

 1年前の戦争でタロス海域の動員兵士が約1万。サイガンド海域が約8千5百。タコス軍は最終的にタロス海域を圧倒したが、それでも1万5千名ほどしかいなかったのだ。


 現状でタコス軍がナラエゴニヤ海域に動員できる兵士数はおそらく1万5千。

 それよりも1万も多いのだ。

 下手をすれば兵力はこちらの2倍。兵士でいえば2対1で戦う事となる。

 圧倒的に不利といっても差し支えない歴然とした差だった。


 藤子の連絡はまだ続く。


「また、ハルカズムと連携を取り武器や食料も豊富にあるようです」

「ああ、そういえばあそこの支配者は姉妹だったか」


 タコスが思い出したようにいった。


 ナラエゴニヤの支配者であるクレイオーはハルカズムの支配者であるベコと姉妹なのだ。

 そのため、ナラエゴニヤとハルカズムはよく連携をしており、実質2つの海域を同時に相手をしなければならないようなものであった。


「姉妹でなくとも協力しなければ我等には勝てませんけどね」


 一二三が珍しく好戦的な発言をする。しかし、これは事実である。

 タコスが支配しているのは4海域だ。それがナラエゴニヤの1海域で勝てるものではないのだ。

 タコスに占領されていない残った海域で協力体制をとるのは当然とも言える。

 それでもタコスは手が出せないナラエゴニヤに少し困ったようにいう。


「しかし2万5千か。俺様たちが戦後の回復で手一杯な時に戦力を増強したという感じだな」


 それだけでもクレイオーが海域を立派に治めているということがわかる。

 決してそのまま攻めたのでは勝てないだろう。


「そのかわりと言ってはなんですが、ハルカズムは軍備増強をせずバックアップに回っているそうです」

「なるほど。ますます付け入る隙がないな」


 ハルカズムが食料や武器を支給することに徹していれば最前線のクレイオー率いるナラエゴニヤ軍は戦うだけでいいのだ。姉妹なので裏切りなども考えなくていい。


「報告は以上です」

「ご苦労。休むといい」


 タコスが藤子に指示を出すと、藤子は一礼をして退室した。

 一二三は地図に書かれた軍勢の数を見てため息を漏らす。


「この寒くて攻め込みにくいナラエゴニヤに、さらに2万5千の兵士、ですか」

「流石の参謀長も打つ手なしか」

「現状では何も思い浮かびませんね」


 一二三がため息をつく。鉄壁とはこのことだろう。

 温度差には一度、テルたちは痛い目にあわされている。

 カララトを侵攻した時にその暑さによって兵士が使い物にならなかったのだ。体が慣れるまで時間をかけて、それでも大悪魔の口という涼しい場所がなければ、カララト海域に勝てたとは思えない。


 ましてや今度は寒冷地である。

 暑さは薄着で対処できるが、寒さは厚着をしなければならない。

 味方1万5千もの兵士全員にである。

 出費も激しく、それでも寒さで動きが鈍ることだろう。

 寒さに慣れた2万5千の兵士に勝てるとは到底思えなかった。


 テルもいろいろ考えるが何も解決方法がない。

 人間であった時の記憶を引っ張り出しても、寒冷地は3ヶ月ほど出張した時の記憶しかない。

 しかもそのときは寒すぎたので仕事関係以外では外に出なかったのだ。

 オタリーマンの弊害と言えるだろう。

 こんなことであればもっと色々しておくべきであったと思っても後の祭りである。

 出口のない迷宮のような状況で答えを探すテルたちだったが、ふとタコスが顔をあげた。


「これはいつもの作戦しかないんじゃないか」

「いつもの作戦?」


 なんのことかわからないテルと一二三にタコスは意地悪そうな顔を向けた。

 ニヤニヤ顔を向けられたテルは嫌な予感しかしなかった。


「こういう時、単独行動が得意なやつがいただろう」

「そんな奴居ましたっけね」


 とぼけるがわかっている。

 一二三も少し人の悪そうな笑顔をしているのを見て、それは確信に変わっているのだから。


「というわけで、潜入調査だ。お前が行って何かこちらに有利になりそうなものを見つけてこい」

「藤子が行ってもう調べ尽くしたと思うんだが」

「それはそれ、ですよ。兄さんの視点からなら面白いものを見つけてくれると信じています」


 一応抵抗はしたものの、タコスからも一二三からも推されては断り切れるものでもない。しぶしぶテルはその提案を受けることにした。


「はいはい、いきますよ」


 なぜか勝利を確信したかのようなタコスたちを不思議に思う。

 テルは確かに単独行動を取ったことにより、有利な状況を引き寄せてきた。だがそれはすべて偶然によるものなのだ。


(どうなっても知らないからな)


 テルはため息をつくとナラエゴニヤ潜入のために準備にとりかかるのだった。

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