1. 学園にて……
ほんわかする昼下がり。ふわふわするあたしの頭を現実に呼び戻したのは、他でもない教授のこの言葉。
「魔法も使えないくせに寝てんじゃねぇ!」
大きい声!あたし魔法は下手かもしれないけど、耳は人一倍いいんだから。ああ、頭クラクラする……また寝そう……
「バンッ」
すかさず教授の教科書があたしの頭に落ちてきた。
いってぇ。
そう思って目を開けたら、クラス中があたしを見て笑ってた。友達も含めて……
また寝てたか自分!でもこんなにあったかくするのが悪いよなぁ、それも教室を!
また教授は真剣な表情つきに戻って続けた。
「これを以って、王立魔法学園中等部の授業を終了する。夏休みが明ければ、それぞれの道を歩むようになる。夏を有効に使うように。なお、補修については……」
教授の話が終わってクラスがざわつく。さて、みんなで帰りましょって思った矢先……
「ミーナ、今日私、先生と個別に進路相談するから、先帰ってて。」とハナに言われ、
「あたしら、高等部見学行くけど、あんたも行く、ミーナ?」とラエ、サラ、ペルシアには誘われ(結局断った……あたし、魔法の練習中に高等部の3階の廊下の窓ガラスを全部割ったことがあって、もうできることならあそこには行きたくない……一生……9月には行かなきゃいけないけど……)
ダメ元でカンナとユメに聞いてはみたものの「ごめん!今日はぁ、ユメの彼氏とうちらで、ダブルデートなんだ!(キャハ!❤️)」と言われて、聞く前より気分が10倍悪くなりました……はい……
ああああ!今日はぼっちか…と思っていたら、幼馴染のリウとテウ(双子)から、
「おめえ、今日はぼっちかよ?」と言われ、期待したものの、
「俺ら優等生は、これからお偉いさん方と話があるんだよ。」
「残念(キャハ!❤️)(……なぜここでも?)」
と返されました……
別にあたし、みんなみたいに女の子やってませんから、ぼっちが嫌なわけではないんです。もしあたしが王立魔法学園に通っていなかったら!
王立魔法学園は王立とつくだけあって、とっっっっっっっっっっても広いんです。それはもう、言葉では表しきれないほどに。(全寮制です)
敷地内には魔法練習用にでっかい森があったり、日用品を買う街があったり……とにかく盛りだくさんで、この今あたしがいる中等部の校舎から女子寮のアイリスの塔までは相当な距離があるんです……
ここで、あらためて自己紹介をさせていただくと、、、
あたしは、ミーナ・リュンヌ、15歳。たった今、王立魔法学園の中等部を卒業しようとしています。
王立魔法学園といえば、この魔法界でもエリート中のエリートだけが進学できる学校で、ここを出れば、どこででも働けると将来までも保障されてる素晴らしい場所です。もしもあなたが魔法を自由自在に使える人種なら……
あたしはどうかって?もちろん……
使えませんよ!ていうか、教授が術を使うところを1回見ただけでそれを完コピするなんて、人間がやることじゃありませんから!(あ、人間ていうか魔女?と魔法使い?)
でも、あたしだってちゃんと1から教えてもらえればできると思うんです……一般人として教えてもらえれば……
でも、ここはそんななまぬるい場所ではないんです……
じゃあ、どうやって入学したか?
そんなのこっちが聞きたいですよ!でも、入学当初は優等生(今は劣等生です…はい……)だったから、あたしには魔力がないんじゃないと思うんです。ほんと、ここの人たちがどうかしてるだけで……
じゃあ、どうしてあたしが退学させられないか?
それは、あたしにはひとつだけ、得意な科目があるからです。それも……
人間鑑定です!(この学校の人たちは何かと苦手な科目……なんでも人には興味がないようで……『彼氏は別よ!』byカンナ&ユメ)
これがどんな科目かっていうと、まあ、とにかく人を鑑定するんです(そのまんまかよというツッコミはなしの方向で。)
具体例を挙げると、例えば、その人が嘘をついてないかとか。もっと難しくなると、その人の生い立ちとか、秘密とかも全部暴けちゃえます!これがあたしが唯一努力しなくてもできることです……
幅広い魔法界でもこの魔法を使える人は少なくて、しかも結構便利なものだから、多分あたしはその才能を買われて、この学園に入学できたんだと思う。ただ……
他の魔法は何をとってもダメなんです……
とここで、本題に戻りますと、、、
あたしは中等部の校舎から寮に帰るときにぼっちにだけはなりたくないです!理由は、理由は……
魔法学園に来てはじめて習う瞬間移動魔法が、9年経った今でも、全く使えないからです。だから、最近は、瞬間移動魔法の発展型である複数瞬間移動魔法が使えるようになった友人達に一緒に連れ帰ってもらってたんです……
昔は健気にも歩いて帰ってたりしてました(この学園では、歳を重ねるほど校舎が寮から離れていくのです……恐ろしや、恨めしや……)。昔は何人かあたしみたいな出来損ないがいましたから、ぼっちじゃなかったんです……。でも時が経つにつれ、腕が上達したり、退学させられたりで、今でも歩いてしか移動ができないのはあたしだけ!そしてあたしのミーナ・リュンヌという名前は、
『学年一の劣等生』
『次の退学者』
として学園中で名高く響いております(もっとひどいのもあります。前に友人が必死であたしの机に書かれている悪口を魔法で消していたのを見てしまいました。正直、思い出すだけであたしの心は潰れます……だから、書けとか言わないでください……)。
なくせして、あたしは稀に見る人間鑑定達人(えっへん⁉︎)だから、校長などのお偉方からは大切に扱われてますので、周囲からの評判はやっぱり悪いんです……はい……
でも、やっぱり退学にされてないってことは、将来が安泰なんだから、それを捨ててまで退学しようとは思わないし……いっそ、
「あたしに野望なんてありません!」と全校の前で叫んでやりたいくらいです……
さて、ところで……
どうしましょうか?
今から歩いても寮に着く頃は夜だろうし、めっちゃ気味の悪い(そして攻略にめっちゃ魔力と魔法が必要な)魔物が森には潜んでるっていうし、身の安全のためにもあたしは今日、この辺りに泊まらないとな……ってことは、
図書館に行こう!
はぁ?と思われてる方にご説明します!
あたしにとって、こうやって泊まり沙汰になるのは初めてじゃないんです(まぁ、大抵泊まろうとするとあたしが寮にいないことを確認した誰かしらが迎えに来てくれるんですけど)。
そしてそんなときにぴったしなのが、図書館!
あらみなさん、うちの図書館をどこぞの下町の図書館と勘違いしないで下さいませ。
王立とつくだけあって、そりゃあもう、格が違うんですわ!
まず、広さ。この学園は、小等部から、専門院(大学院のようなもの)まであるから、それだけの書籍を収めるために、図書館は3つの塔からなっている。ちょうど正三角形ができるように塔が配置されてて、中庭もある(1年に3回くらいお茶会が開かれるくらいだから、それなりに広い……ってか、めっちゃ広い……)。それぞれの塔もすっごく広い上にすっごく高いから(ちなみに乗れば行きたい場所を脳内スキャンで察知して連れてってくれるエレベーター?的なものもある)魔力がないと迷子になる……あたしの場合は、物知りそうな人の脳内を読んで道を知る。で、しかも、なんと言っても……
リラックススペースというものがある。自分のアイデンティティカードを見せればすぐに貸してくれる部屋みたいなもので、ベッドもある。だから、意外と図書館で夜を明かす本の虫とかも多い。
で、あたしはというと……
本の虫です!ファンタジー限定だけど。だから、ぼっちになって図書館で夜を明かすのは嫌じゃないです(安全だし、中等部の校舎からすぐだし)。もし次の日に用事がなければ……そして、明日はもう夏休み……最高!……
えっ?あたしは補修にひっかからなかったのかって?そんなの、決まってんじゃん……もちろんひっかからなかったよって胸を張って言えたらどんなにいいか……
ひっかからなかったのは事実です。でもそれは、あたしがバカだから。いや、バカすぎるから。
またもや、この学園の不思議なところです……バカなやつは補修にひっかからない。あたしはこれが普通だと思って暮らしてきたけど、物語とかを読んでると、案外違うんだなって思ってきた。よく、バカな主人公とかが「休み中、ずっと補習だ!」とか言って泣いてたりするじゃん……もしかしたらあたしのバカの格が違いすぎるだけなのかもしれないけど……
この王立魔法学園のポリシーはこう、
『伸ばせる才能はとことん伸ばす。しかし、伸びない才能は……見捨てる!』
ですから、あたし、人間鑑定の分野以外においては、とっくのとうに見捨てられてるんです……だから、補習にもひっかかりません……(そして、人間鑑定はズバ抜けていいので、こちらもひっかかりません!)よって、夏休みは、
誰よりも暇です!
そんなうちの学園の夏休みを的確に表した言葉があります。
『夏休み アホヅラできるよ 天才とバカ』
そしてあたしはバカの方なんです……はい……
学園中どこを見回しても、見捨てられて暇な夏休みを過ごしてるのはあたしだけだと思います。はぁ……
昔は頑張って一人修行をしたこともあります。が、それらの思い出は、今やあたしの黒歴史です……(その時です、高等部の窓ガラスを割ったのは……他にもいろいろあるのですが……)
だから、あたし決めたんです!今年の夏は、図書館の本を読みあさってやると(決めたの今だけど)。そして、少しでも博識になろうと(自分に可能性のある分野で)。
そう思い、あたしは今、図書館へと向かっています(徒歩15分ほど)。