絵本と不安
ー純色の魔法使いと白の聖女ー
むかしむかしのこれまたむかし、まだこの国が出来て間もない頃、純色の魔法使いと呼ばれる五人の魔法使いがいました
火を操る赤色の魔法使い
水を操る青色の魔法使い
風を操る緑色の魔法使い
土を操る茶色の魔法使い
光を操る金色の魔法使い
彼等はその力を大いに振るい、この国がより良い国になるようにと過ごしていました
ですがそんなある日、数多くの魔獣を操る黒色の魔法使いがこの国に攻めてきたのです
彼等は民を守るため多くの魔獣を倒しました
しかしそれを見ていた黒色の魔法使いは魔獣だけでなく人々をも操って純色の魔法使い達を攻撃させ始めたのです
守るべき人々を攻撃出来ない彼等はどんどんと追い詰められていきました
このままでは国が滅ぼされてしまう
彼等がそう思った時でした
「私が人々の心を元に戻しましょう」
何処からか声が聞こえ、同時に空から白く柔らかな光が降り注ぎ操られていた人々が元に戻っていきました
黒色の魔法使いは悔しそうにして声がした方を睨みつけました
そこには白い髪のとても美しい女性がいました
その女性は天に祈りを捧げました
すると純色の魔法使い達の傷が治りあっという間に元気になりました
これには純色の魔法使い達も驚きました
「さぁ今こそ悪しき黒色の魔法使いを力を合わせ打ち倒すのです」
純色の魔法使い達と白き髪の女性は魔力を一つに合わせ、悪しき黒色の魔法使いに魔法を放ちました
黒色の魔法使いも強い魔法を放ちました
しかし皆で力を合わせた魔法は黒色の魔法使いが放った魔法よりも強かったのです
皆で力を合わせた魔法は黒色の魔法使いの魔法を打ち破り、ついに悪しき黒色の魔法使いを倒すことが出来ました
その後、白き髪の女性は人々から聖女と呼ばれるようになり、純色の魔法使い達と仲良く暮らしましたとさ
おしまい
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最後まで読み終わるとルーラはパタンと絵本を閉じた。
そしてルーラがノアールの方を見てみるとジッと閉じた絵本を見ながら何かを考えている様子だったのでしばらく見ているとだんだんノアールの顔から血の気が引いていき、さすがにこれ以上は見ていられないと思い声をかけた。
「ノアールちゃん?大丈夫?いったいどうしたの?」
声をかけ肩に触れるとノアールの身体がビクリと跳ねた。
「だ、…いじょ……、ぶ…、なに……も、な…、…い」
ノアールはそう言いながら笑顔で振り向いた。
だがその瞳は怯えた様に揺れ動き、膝の上で握りしめている手は小さく震えている。
「……つ、ぎ……は……、?」
それでもなんでもない様に笑顔で次は何をと問いかけてくるノアールにルーラは話してくれなさそうだと気落ちし、それならもっとスキンシップを取ってノアールから何でも話してくれる好感度を上げなければと心の中で気合いを入れ直した。
その後、他の歴史を題材とした絵本などを読み聞かせ今日のノアールの勉強は終了した。
そしてその頃にはノアールの調子も戻りナチュラルに触ろうとしてくるルーラの手を何度も叩き落としながら食堂部屋へと移動したのだった。
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今日読んでもらった絵本『純色の魔法使いと白の聖女』は私の中にあった不安を大きくした。
このお屋敷に来てから約2ヶ月、そのほとんどを療養に費やし、私はただ使用人の皆にお世話されるだけだった。
自分から言い出して雇ってもらった筈なのに何も出来ず迷惑をかけているだけなのがすごく嫌だった。
だから少しでも何かをと考えて前世の面白そうな話をしたりそういう暗い感情を見せないよう毎日笑顔でいようとしてきた。
もう既に誘拐価値のある黒髪黒目に転生者なんていう厄介物件なんだから皆の迷惑にならないようにって思いながら過ごしてきた。
だけど今日私はあの絵本を見てしまった、知ってしまった。
白色の聖女様が力を合わせて悪い黒色の魔法使いを倒す物語を。………私と同じ黒色を。
そしてこういうのは大抵教会とかそういうのがあって黒は悪だー!とかになってて………、つまり私がいるだけで既にとんでもない迷惑がかかってたのかもしれなくて………、お屋敷から出てった方がこれ以上迷惑もかからないよね…………。
だからその前にクラウスさんとお話して相談しようと思ったんだけど
「ごめん、今ちょっと面倒な事件が起きててね。話はまた今度でもいいかい?」
との事でお仕事の邪魔になるからお話は出来なかった。
その夜、私は覚えてないけどとても怖い夢を見た。