朝の始まり
ほのぼのです
今日も朝日が眩しい。
城の後宮に幽閉?されている僕、ユアン=ソル=シュレイデルは朝日の日差しを感じた起きた。
起きるとお尻が冷たくて、とても不快な気分になる。
こうなると僕は泣かざるをえない。というか勝手に泣いてしまう。
そう、自然な生理現象の結果である。上質の布を使っているようだがいかせん吸収率はよくない。
オムツとはそういったものなのだ。
とりあえず不快の元をなんとかしていただこう。
僕は自然に溢れてくる涙や声を我慢することなく、乳母を呼ぶ。
「おぎゃあおぎゃあ」
泣くや否やすぐに人の足音が聞こえる。
「おはようございます、ユアン様。どうなされましたか。お腹が空いておりますか、それともオムツでしよわうか」
柔らかい声が聞こえ、僕は柔らかい腕に抱かれる。
声の主は僕の乳母、リリー=マイヤーズ。
リリーは的確に僕の状況を把握し、不快の元をとりさってくれた。
ふぅ、スッキリした。
スッキリしたら今度はお腹がすいた。お腹が空くと同じく我慢できない不快により、また涙が止まらなくなる。
「朝ですもの、お腹も空きましたわね」
リリーはすぐに僕に授乳を始めてくれた。
うん、今日も幸せだ。
新緑の季節、僕は0歳2ヶ月を迎えた。
以前に比べて手足は動くようになった。が、首も座らない時期だ、基本的には寝て過ごし誰かに抱かれないと移動は出来ない。
まだまだ僕は赤ん坊である。
王族であり王子である僕は、基本的に乳母に育てられる。が、僕たちを溺愛する母、王妃レシティア=ウル=クイン=シュレイデルの強い希望により乳母だけに頼らず自身でも育児を行なっている。
なかなか変わり者の王妃だ。
だが、母としてみるなら自分の立場や慣習に囚われず子供を慈しむステキな母とだと思っている。
キュンキュンキュン
あっ。この音は。
うん、この足音はまさに
「わたくしのユアンー!おはようございます。立派な声が聞こえましたよ。」
ちょっと高めのテンションで現れた若い女性。
朝からこのテンションはどうかとも思うんだけど、紛れもなく僕を生んでくれた母、レシティアがきた。
「王妃様、おはようございます。今日も朝からお元気ですね。」
乳母のリリーが母に話しかける。
「おはよう、リリー。早速今日もユアンが世話になります。もうオムツは替えたの?」
「はい、先程。お食事ももう終わります。はい、ユアン様、外しますよ」
言われて僕の口から乳が去った。
確かにお腹いっぱいだから外そうと思っていたんだ。
「ゲップはわたくしが致します。ユアン、よく飲めもしたか?」
リリーから母の元に移動した僕は縦抱きにされ背中をポンポンと撫でられた。
「けぷ」
僕の口から可愛らしく排気がなされた。
ふぅー、疲れたけど満足満足。
「あぁー!たまらない。たまらないわ!うちの子本当に可愛いー」
母はさらにテンションをあげ、僕の頬に頬ズリしてくる。
もう王妃の威厳なんてあったもんじゃない。
正妃であり、最高官位を持つ臣下でもある。
政治家としても豪腕で知られており、冷華の貴婦人と呼ばれているのを聞いたことがある。
その影響力は正直父である王よりも強い気がする。だって父様は母様を崇拝するがごとく愛しているようだ。
何より忌子である僕を遠方に幽閉し、その死を願っている大臣や家臣を黙らせたのは王ではなく母であった。
そんな母は僕への頬ズリに満足すると、じっと僕の顔を眺める。僕も母を見る。
赤ん坊の僕の目でも少しずつ視野が広がり、生まれた頃より人の顔や様子が分かるようになった。
母は美しい。見るたびにそう思う。
銀髪のサラサラの髪に、大きな翡翠色の瞳が輝く。常に笑顔で僕に対峙し、頬ズリする肌も僕に触れる手も滑らかでスベスベだ。
おそらく恐ろしいくらい整った顔立ちをしていると思うのだが、いかんせん僕はまだ赤ん坊。まだ焦点がぼやけている。
でも間違いなく国1番の美女だと思う。
母は現在25歳、まだまだ美しくなるだろう。
自慢の母だ。
「ユアンは、最高に可愛いわ。わたくしと同じ髪に、王と同じ紫色の瞳。こんな可愛い子供は世界広しといえいないわ。」
はぁはぁ。母様の鼻息が荒くなる。
ちょっと親バカだが自慢の母だ。
「王妃様、言葉使いがどんどん崩れてきてるわよ。」
後ろの方からリリーが声をかける。
リリーと母はどうやら幼馴染らしい。
現在の立場は違えど仲は良く、プライベート空間では砕けた雰囲気でお互い話していることも多い。
「いいのよ。今はリリーしかいないのだし。」
母様とリリーが色々話し始めたが、僕はお腹いっぱいで眠くなってきた。
うつらうつら、瞼が重くなる。
「あーん、おぎゃおぎゃ」
僕じゃない赤ん坊の泣き声が聞こえた。隣のベッドで寝ていたレティだ。
たぶんレティもお尻の不快と空腹で泣いている。
「可愛いレティも起きたのね。おはようございます。レティ。さあさぁ朝の準備をしますわよ。
可愛いユアンはまたお眠ね。リリー、ユアンを寝かせてあげてちょうだい。わたくしがレティのお世話をするわ。」
「それも私の役目なのですがね、本当に変わった王妃様ね。ユアン様あちらでおやすみになりましょうね。」
リリーは半分呆れながら、でも優しい声で母様から僕を抱っこし、ゆらゆらとあやす。
遠くで僕の時と同じように、レティを賛美し超絶テンションの高い母様の声が聞こえる。
兄様が起きたら、また同じように愛をさけぶだろうは母様は、本当に僕たちを同じように愛してくれている。うんうん、自慢の母だ。
ああ、眠い。瞼が持ち上がらなくなってきた。
そろそろもう一眠りしよう。
次お腹が空いたら、きっと母様が授乳するつもりだろうし。
それが終わったら、きっとリアン兄様が遊びに来るかな。
…
…
あぁ、ダメだ。考えるのが疲れた。
もう寝ます。
僕は赤ん坊の性には逆らえない。
お腹いっぱいになったら寝る。これ赤ん坊の常識。
僕はゆっくりと微睡みの中へ入っていった。
今日も気持ちいい、朝の始まりだ。
忌子の僕は本来この国では殺されても粗悪な環境で幽閉されてもおかしくないのだが、今日も家族の愛と王族の血が僕を守ってくれている。