2.新入部員
「当たり前だ。あの様子じゃぁ、先に現場に乗り込んで証拠を荒らしかねない。それにいつも言ってるだろう。鑑識は」
「鑑識はだれよりも先に現場に行き、どんなに細かい証拠でも確保する。でしょ?わかってますよ。」
若い鑑識課員は北のセリフにかぶせてきた。北は自分のセリフを取られてムスッとしていた。
そしてサイレンを鳴らして、前島たちを追いかけていった。
「ねみぃ~」
幸成が生徒会室へ来ると、中には芳樹がすでに来ていた。中で自分のタブレットをいじっていた。
幸成が挨拶をすると、適当な挨拶を返してきた。相変わらず幸成は嫌われている。
(生徒会長の美香のお気に入りの幸成を、敵視している。芳樹は片思い中。この時はまだ何も言わない。)
二人だけの生徒会室。沈黙のせいか、とても重い空気が漂っている。
しばらくして、美香と真由子がやってきた。
「2人とも早いね!」と声を掛けられ、芳樹はなぜかモジモジしている。幸成が最後の時間が芳樹と幸成のクラスが体育だったため早めに終わったと答えた。
2人が席に座ると、ちょうど顧問の荒巻がやってきた。後ろに女子生徒が2人付いてくる。
2人の顔を見て、「お、村城さん来たんだ。で、もう一人の子、確か今朝食堂前で会ったドジッ子だ。」と思う。
全員が静かになったところで、荒巻が話し出す。
「今日から新しく生徒会メンバーになった二人だ。順番に自己紹介を。」
舞が立ちあがり、自己紹介をした。
「村城舞です。2年4組です。事務作業はそこそこ出来ます。ご迷惑をお掛けするかもしれませんが、長い目線で見てください。よろしくお願いします。」
舞がお辞儀をして着席した。交代で2人目の女子が立った。
「前川桜です。2年4組です。得意なことは特にありません。しいて言うなら睡眠が大好きで得意です。よろしくお願いします。」
3年生は「えー。」という感じで思ってします。
荒巻が咳払いをし、気を取り直してから「じゃあ3年生、順番に自己紹介して。」と振る。
「じゃあ私から!」
と生徒会長の美香が立ち上がる。
廊下を一人の美少女が歩いていた。そう、私だ。
私の名前は村城舞、高校2年生だ。成績はそこそこ取れる、いわるゆ優等生の一歩手前だ。
そんな私は今、職員室に向かっている。今日から生徒会メンバーに入るのだ!あの、田郷幸成先輩がいる生徒会の・・・・
さてさて、職員室に到着した。
「失礼します。」
ドアを開けると、中から冷気が一気に出てきた。一気に鳥肌が立つくらいの冷気だ。
一瞬びっくりはしたが、とりあえず中に入り、荒巻先生を探した。すぐに見つかったが、なんか、女子生徒に説教しているみたいだ。しかたがない、私は壁際で待つとしよう。
あー、早く生徒会に行きたいな!人数は少ないみたいだけど、どんな人がいるんだろう?あー、早くユキ先輩に会いたいなぁ「村城!待たせたな!こっちに来てくれ。」
おっと、説教終わったのかな?でも、さっきの生徒さんまだいるけど・・・・
「村城、待たせて申し訳ない。」
「あ、いえ、そんなに待ってはいないです。生徒会行く前にここに来るように言われていたのですが・・・・」
今初めて気が付いたけど、さっき説教されてたとなりの女の子、うちのクラスの桜じゃん。朝の寝坊のこと、怒られてたのかな?でも、なんでまだ立ってるの?『って寝てるし!?』
立ったまま寝てる。すごい人だな。
「あぁ、これから定例会議だから一緒に行こう。お互い同じクラスなわけだし、自己紹介はいらないかな?」
「あ、はい。よく話したりしているんで、大丈夫です。」
「それはよかった。ならこっちで寝てるやつも、大丈夫だろう。な、前川!」
あ、痛そう。先生、その一撃は痛いよ。ほら、桜がすごく痛がってるよ?
「おはよう前川。目が覚めたか?」
「うぅ・・・・。」
ほらぁ。桜、叩かれた頭痛そう。
「んじゃまぁ。行くとしますか。2人ともついてきて。」
この学校の校舎は長方形を描くように配置されており、その真ん中に広い中庭がある。そして生徒会室はその中庭の隅の2階建てのプレハブ小屋の中にある。
このプレハブ小屋の1階は高校生徒会が使い、2階は付属中学の生徒会室がある。各階に生徒会室と作業部屋があり、生徒会室は主に会議や事務仕事で使い、作業部屋はイベントの看板などの作成を行う部屋として使われる予定だった。現状は歴代の学園祭の看板などの倉庫として使われ、歴代の生徒会が置いて行った謎の物品などでごった返している。もはやカオスの空間となっていた。
作業部屋は昼でも真っ暗。この建物は特に日当たりが悪い場所ではない。どうやら窓に暗幕が貼られていて、それが日光を遮っているようだ。そのせいか、よくカビが発生しているらしい。
そしてその隣が、目的地の生徒会室。
引き戸の前に立つと、先生はいきなり開けた。まって、私まだ心の準備が・・・・
そんなことを考えていることなどかけらも気づかない荒巻は扉を開けて入っていった。桜もそのまま一緒に入っていく。どうしようもないので舞も入った。
入ると既に先輩たち4人が座っていた。
生徒会室の中はそんなに広くはなく、扉から奥に向かって長方形の部屋。真ん中に長机が4つ繋げておかれており、その周りにパイプ椅子がいくつか並べてある。椅子の数とメンバーの数が合わないような気もするが・・・。
右手には黒板とその下に低いロッカーが並んでおり、反対の左には高いロッカーが並んでいる。中には書類やファイルがぎっしりと入っている。
奥は窓があり、左奥にはデスクトップ型のパソコンが一台置いてある。
部屋に入って一番に目があったのは、窓に背を向けて入口と向かい合わせで座っている中川美香先輩。
彼女は今期の生徒会長。この学校では毎年12月に行われる生徒会長選挙で生徒会長が決められる。そして昨年行われた選出された今期の生徒会長は1年生だった。歴代生徒会長の中でも1年生で生徒会長になるのは異例だった。
選挙での立候補挨拶は、「この学校に新しい革命の風をおこします。」だった。
言った通り、この学校での始めて1年生で生徒会長になる革命を起こした。生徒も教師も結果を見て皆驚いたが、一番驚いたのは美香自身だった。
美香が生徒会長に就任してから、2年生の生徒会メンバーは全員受験勉強を理由に退部していった。2年生からすれば、後輩が突然生徒会長に就任したのだから、いい気分はしないだろう。ほんとの理由はそれが原因であることは皆薄々気づいていた。
退部者の中には今期就任予定の副会長や書記もいた。そのため今期生徒会は最初は生徒会長と顧問のみという壊滅てき状況だった。
異例事態ということもあり、生徒会長自らメンバーを集めることとなり今に至る。
就任当時は3年生の先輩たちは異例な就任に対して面白半分だったのだろうが、新しい会長をとても歓迎していた。2年生の先輩たちは全員会長には非協力的だった。それでも3年生の先輩たちのおかげで何とか最低限度の協力をしてもらえていた。その3年生たちが卒業し、最高学年になった今は、生徒会と3年生の間には大きな溝があるように感じる。
そんなことがあったためか、中川先輩は普段から仕事に身が入っていない。会長就任前は学内での評価は高かったらしいが、今の様子からはかけらもうかがえない。まぁ人がらは悪くないのだが、少し残念な気がする。
中川先輩の右隣に座っているのが井田真由子先輩。2年生で書記。中川先輩が最初にスカウトした人。会長とは同じクラスで子供のころから家族ぐるみの付き合いがある、いわゆる幼なじみ。だが性格は会長とは真逆。普通にまじめで明るいムードメーカーで、会長のストッパー役でもある。
先生や他のクラスメイトのいう事は聞かなくても、井田先輩のいう事はいろいろと文句を言いつつも聞くらしい。
中川先輩とはすごく仲が良く、いつでも明るい雰囲気なのに、時々どこか寂しい顔を見せる。なぜかは分からないが、家庭の事情で問題を抱えているという噂がある。
部屋の右側、黒板に背を向ける形で男子生徒が二人座っている。奥側に副会長の皆川芳樹先輩が座っていた。
皆川先輩は今期生徒会メンバーで最も堅物キャラ。良く言えば最も真面目な人。まじめすぎるところもある。今の生徒会長がとても仕事をしない人なので、いい感じにバランスを取っている。
彼は美香先輩のスカウトで入部してきたわけではなく、自分から立候補して副会長になったらしい。
眼鏡をかけて、秀才風の髪型。見るからにクラス内でも影が薄い顔だが、実際はキャラも影もとても濃い。自分の意思ははっきりと示すタイプで見た目のわりに意外と人望もある。
ただ、真面目なわりに、あの歩くさぼり魔のような会長のことを片思いしているらしい。同級生でも先輩後輩でも、話しかけたら返事をしてくれるが、どこかそっけない。だが、美香先輩と話している時だけは別人のように明るくなり、よく噛む。
これがまたおかしな話で、なぜか一部を除き、全校生徒が知っている事実。一部というのは皆川先輩本人と美香先輩の2人だけだ。
そして、幸成先輩をなぜか嫌っているみたい。何かライバル意識を持っているような?どの点をライバル視しているんだろう?
そして、その皆川先輩の左隣に座っているのが、田郷幸成先輩。
容姿端麗、眉目秀麗、才色兼備がそろった神のような先輩。と言うのはさすがに言い過ぎたかな。特にイケメンというわけでもなく、成績も中の上くらい。これと言って秀でた点はない。だからそれほどモテるわけではないけど、すごく優しくて、思いやりがある人。
だから人が困っているときは、積極的に手伝ってくれる。まぁ嫌味や文句を言ってから、ていう点をどうにかしてもらえれば最高なんだけどね。
そういった点に加え、とっても真面目な性格で、生徒の間だけでなく、先生たちからも一目置かれている。今期の会長、美香先輩の職務怠慢があったせいで、今は幸成先輩が実質的な生徒会長のようにもなっている。
昨年の生徒会長選では、幸成先輩を押す声もあったとか。
生徒会メンバーの自己紹介が終わったころ、窓がガタガタと大きな音をたてた。それと共に校内放送が流れた。
「学内に残っている生徒全員に連絡します。現在大型台風の影響で雨風が強くなってきています。本日はすべての活動を中止し、すぐに帰宅するようにしてください。繰り返します。学内に残っている生徒全員に連絡します。雨風が強くなってきていますので、すべての活動を中止し、すぐに帰宅するようにしてください。」
「あ、そういえば、お前らに伝えないといけないことがあったんだ。」
校内放送が終わると、荒巻が思い出したように口を開いた。
「朝の予報では台風は明日来る予定だったけど、既に雨風が強いから、今日の部活動は一切中止、生徒は即時帰宅するように、と先ほど先生たちに通達があった。だから会議は中止してすぐに帰れ。」
それだけ言うと、荒巻は生徒会室から退室した。
「それ、最初に言えよ!」
美香が口に出して叫んだが、その場の誰もがそう思っていた。