1.日常
「でさ、夜になって、誰もいないはずの校舎内に、人影を見たって人がいるんだってさ。」
学校の中庭、小高い丘のようになっている場所の頂上に木が一本植えられている。木陰に、男女2人の生徒が座って会話していた。
女子生徒は、目を輝かせながら男子生徒に話していた。それに対し、男子生徒の方は、面倒くさそうに顔を上に向け、静かに聞いていた。そして、話が終わるとため息を一つついた。
「怪奇現象なんてあり得ない。」
男子生徒は吐き捨てるかのように言った。そして手に持っていた本を閉じ、女子生徒の方へ向き、口を開いた。
傍らの紙が流されるほどの風が吹き、夏にしては涼しい一日だった。
「どうせカーテンか何かを見間違えたんだろ?」
「でもでも、たくさんの人数が行進するような足音を聞いたって人もいるよ?」
「それ、何人の人が聞いた?1人?2人?せめて10人はいないと信憑性ないな。」
男子生徒の言葉により自慢気に話していた女子生徒は、そのまましばらく動けなくなった。それを見た男子生徒は、勝ちを確信し口元に笑みをうかべ、閉じていた単行本を開いた。しおりも何も挟まず、折り目もない本を無造作に開き、男子生徒は動かなくなった。
それに気づいた女子生徒は、不思議そうに男子生徒の方を見て、口を開いた。
「幸成くん、どうしたの?固まっちゃって?」
幸成と呼ばれた男子生徒は、女子生徒の方へ顔を向けた。
「香・・・・。さっき閉じた時にどこまで読んだのかわからなくなった。栞挟むの忘れた。てか、栞はどこだ?飛ばされた?やらかしたー。」
「クスッ。またやったんだ。ドジね!」
香はここぞとばかりに幸成を笑い転げた。存分に笑い終えると、幸成の方をトントンとたたいた。
「ドンマイ!プスッ」
笑いをこらえながらこちらを見ている香を、幸成はにらみつけた。
そんな光景を、笑顔で見ている者がいた。
廊下を歩きながらきょろきょろしている男子生徒。教室の前で足を止めた。彼が扉を開けようと手を伸ばすと、触れてもいないのに扉が開いた。
慌てて下がると、そこには中川美香が立っていた。
「あれ?柏木君じゃん!どうしたの?3組に用事?」
「あぁ、生徒会長。香と幸成いませんか?」
「香ちゃんとユキくん?」
美香は教室内を見まわしてから答えた。
「香ちゃんもユキくんも、いないよ?どこかに行ってるんじゃないかな?」
「あ、香ならさっき中庭のとこで幸成くんと一緒にいたよ!」
「中庭?ありがとう!だってさ、柏木君。」
「会長、ありがとう!」
お礼を言うと、智樹は中庭へと向かった。
中庭への入口に立つと、笑い声が聞こえてきた。聞き覚えのある笑い声である。
「この笑い声は・・・・香だな。」
丘の木の元に、二人の生徒がいた。その二人が探していた2人だと確信した智樹は、2人に向かっていった。
幸成と香は、智樹が近づいてくるのに気が付くと、それぞれに手を振った。智樹はそれにこたえるように手を上げ、木にもたれるように座り込んだ。
そして、なぜか目をつぶり、俯いたまま動かなくなってしまった。そのまましばらく動かなかった。2人はそれを見て、幸成はまた手元の本へと視線を落とし、香は携帯をいじり出した。
中庭の木陰に集まる3人。田郷幸成は2年3組、口癖は「彼女、欲しいな・・・・」だ。彼女いない歴=年齢の男だ。見た目は中の中程度で、特に目立つような容姿ではない。だが、先生たちからは一目置かれている。
田郷幸成、通称ユキ、成績は中の上。別に頭が良いわけでも、何か特技があるわけでもない。ではなぜ一目置かれているのか?
彼は現在、生徒会に所属している。役職はない。執行役員だ。先生たちが一目置いている点は、彼の頭の回転の良さ、そして、行動力とディベート力の高さだ。
彼は以前行われた学校と生徒会での討論会の際、校長を含む、その場のすべての教師を納得させ、生徒の意思を通したという実績がある。
その話が広まり、学校の生徒はもちろん、教師の間でも一目置かれる存在となった。
彼の隣で携帯を触り続けているのが宮村香。2年2組に所属し、クラス委員長をしている。演劇部に所属していて、彼女もまたちょっとした有名人である。
彼女が所属する演劇部は学内、学外問わず、多くの公演を行ってきた。その中で、演劇部のインターハイといわれる、全国演劇コンテスト 高校の部で、彼女が所属する演劇部は最優秀賞常連校として、名をはせている。彼女はそのコンテストで、有名な映画監督や芸能プロダクションからスカウトをされるほどの演技力の持ち主である。もちろん、容姿もこれ以上にないほどの美しいものだ。彼女の人気はとても高く、高校入学して以来、学年の壁を超え、告白された回数は優に100回を超えている。人気は男子だけではとどまらず、女子の間でも人気が高い存在である。かくゆう私も、女子であるものの、彼女の美しさに見とれてしまうのもしばしばあるくらいだ。
さて、たった今木陰に来た男子生徒、彼こそが、香を勝ち取ったラッキーボーイこと、柏木智樹である。
彼も同じく2年生で、幸成と同じ3組の生徒だ。彼ら3人は幼馴染で、小学校からずっと同じ学校で、高校までずっと同じだった。
彼はサッカー部に所属している。
彼と香が付き合いだしたのは中学3年生の卒業式の日。卒業式での答辞を読むはずだった生徒が急遽欠席し、慌てた先生たちは、たまたま職員室前を通った智樹を捕まえ、答辞の代読をさせることにした。そんな大役を任された智樹は、とても緊張していた。入場後も、自分の席で答辞の文章を読み返していた。
そして、名前が呼ばれ、答辞をするために檀上に上がった彼は、すでに大きなミスを犯してしまっていた。名前を呼ばれて慌てたせいで、答辞の原稿を席に置き忘れてしまったのだ。原稿を取りに戻るなんてことはできない。彼は必至に頭を回転させ、即興で答辞の言葉を口にした。
当時のことを振り返って、彼は「あの時俺は、この学校でやってきた、達成できたことを考えていた。そして、その後にやり残したことを告げ、これからも自分たちは頑張っていくと話していくつもりだったんだ。」と話してくれた。
実際に話した内容は、たったの1文と、最後のシメの言葉は「これで中学生としてやり残したことはありません。」だった。問題は一言目。「宮村香、ずっと好きだった。俺と付き合ってください!」
会場は一瞬騒然とし、香がその場で立ち、智樹の告白を受け入れた。そして、卒業式は今までにない、にぎやかなものとなった。この卒業式は、誰にとっても忘れられない素晴らしいものとなった。いい意味でも、悪い意味でも。
「さて、彼ら3人、幼馴染とあって、高校進学後も仲良くああしてつるんでいることが多い。そんな彼らを、今、最悪が襲う。「生徒が問題起こすとこ、篠崎あり。」と言われる彼が、彼ら3人に歩み寄っていく。3人に、じわじわと最悪が近づいて・・・・「美香!」」
突然声を掛けられた美香は、飛び上がってしまった。振り返ると、声の主は真由子だった。
「窓の外に向かって独り言、はたから見てたらかなり痛いわよ?」
井田真由子は、廊下の窓から中庭を眺めながらまるで小説のナレーターでもしているかのごとく、独り言をダラダラと話していた中川美香に声を掛けた。
「ま、真由子?誰が痛いのよ?」
「痛いのはあなた。どう見ても、痛い子でしょ?仮にもこの私立吉野ヶ丘高校で学生トップ、生徒会長ともあろう人が、外を眺めながら独り言をペラペラと、誰に話しかけてるのよ?」
真由子がたしなめると、美香は慌てて言い訳しだした。そんな言い訳を聞き流しながら、真由子は同じように窓の外を眺め、中庭の方へ目線を落とした。
「あら?あの木陰にいるの、篠崎と幸成くんたちじゃない?」
「そ!生徒指導の篠崎。あの3人の誰か、何かしたのかしら?」
美香は目を輝かせて成り行きを見守っていた。篠崎は3人に近づき、何か話していた。すると、智樹がなぜかこちらを指さした。篠崎もこちらに目を向けると、何かを叫んで職員室の方へと姿を消していった。
「真由子、なんか篠崎がこっちに叫んでたんだけど、なんだったんだろ?誰か問題でも起こしたのかな?」
「さっき職員室で、言われたんだけど、私、あなたを探しに来たのよ?」
「私?誰が探してたの?」
「篠崎。」
「げ!!」
「あなた、今日原付で来たでしょ?」
「え!?なんで知ってるの!?ちゃんとばれないように隠したのに?なんでバレてるの!?」
美香はあたふたしだした。
真由子は、そんな美香をみて、あきれたように言った。
「あなた、あれで隠したつもりだったの?あんなに堂々と駐輪場にバイク止めて。しかも教員用の駐輪場に。」
「え、だって、教員用ならバイクがあってもばれないじゃない?なんでバレちゃったの!?」
「呆れた。教員用の駐輪場は自転車専用で、教員でバイク通勤の人は、駐車場横にバイク用の駐輪場があるの。知らないの?」
「えー。この前は生徒用の駐輪場でバレたから、教員用の駐輪場ならいいと思ったのに。」
「あんたね・・・・。ともかく、篠崎カンカンよ?さっきのも、「早く職員室に来い」とでも叫んでたんじゃないの?」
「ちょっと真由子!それをもっと早くいってよ、もう!」
そう言うと、美香は慌てて職員室の方へとかけて行った。
その様子を見届けて、真由子は再び中庭の方へ眼を向けた。木陰で楽しそうに話している3人をしばらくの間、笑顔で見続けた。
「相変わらず、あの3人は仲がいいわね!」
笑顔で3人を見ていた真由子の顔は、だんだんと、悲しみの顔へと変わっていった。
そして目に涙を浮かべ、「お兄ちゃん」と一言つぶやき、彼女はその場から離れていった。
智樹が木陰に来てすぐ、生徒指導の篠崎がやってきた。どうやらまた生徒会長が問題を起こしたらしく、探しているそうだ。それを聞いて智樹は迷わず校舎の3階を指さした。そこには生徒会長たちが窓からこちらを見ていた。
「今すぐ生徒指導室まで来い!!」と叫ぶと、篠崎は職員室へと戻っていった。
篠崎が去ると、智樹はまた目をつぶった。
素の様子をみていた幸成はため息をつき、読んでいた小説を閉じ、智樹の方を見た。智樹は片膝をたて、少し俯きかげんで目を閉じていた。
幸成は持っていた小説の背表紙を触り出した。そして、角を触ると、本を高くかかげてそのまま智樹に向けて、力一杯に振り下ろした。
本は見事に智樹の頭頂部に直撃。智樹は直撃した部位を押さえ、幸成の方を睨みつけた。
「ユキ、何すんだよ?これかなりいてぇぞ!」
「何か用があるのかと思って待ってたのに、座り込んでそのままダンマリとか、何しに来たんだよ?」
「なんだよ。ユキと香がいたから、俺も来ただけやん?用事がなければ二人に会いに来たらあかんのかいな?」
「用事がないにしても、何か言えよ。わから。」
「フフ。2人とも、いつも変わらず仲がいいわね。」
「たく・・・・。ところで、今使った本、ひしゃけてるけど、いいのかよ?」
幸成は持っている本をみて、ひしゃけている部分を触り、戻らないと気付くと諦めた。
「まぁ仕方がないさ。バレないように返せば大丈夫だろ。」
2人はその言葉に疑問を抱いた。
「返すってどこに?」
「決まってんだろ?図書室だよ。この本、図書室の本だから。」
「いやいやいや、それってまずいでしょ?図書館の本でしょ?怒られちゃうよ?」
「大丈夫!この本が傷んだのは智樹のせいであって、決して俺に非はない。」
「ああ!確かに!ともくんのせいにしとけばいいかもね!」
「ちょ、ちょっとまてよ!2人して俺のせいにするなよ!なんだよ全く。」
「おやおや。相変わらず君たちは仲がいいね。」
職員室の方から一人の男性教諭がやってきた。彼は3人の方へ、笑顔で近づいてきた。それに気が付いた智樹は、慌てて立ち上がり、挨拶をした。
「萩原先生、チャース。」
「おぅ!ちょっといいか?」
「はい!」
「いや、すまん。用があるのは田郷のほうでな。田郷、ちょっといいか?」
田郷は首を傾げながら立ち上がった。
「さっき荒巻先生がお前を探してたぞ?なんか男子生徒に田郷のこと聞いたら任せてくれって言って、走っていったから、待ってたのに、全然来ないからって怒っててな。早めに顔出しといてくれ。」
「わかりました。ごめん。ちょっと行ってくるわぁ。」
「お、おぅ。なんか急ぎの用かもしれないからな。早くいった方がいいんじゃないか?」
「ん?あぁ。まぁ行くけど、智樹、なんでそんなに慌ててるんだ?」
「い、いやぁ。あはははは。」
智樹は焦っていた。誰が見ても様子がおかしかった。
「なぁ智樹。お前もしかして、荒巻先生に頼まれごと、されてないか?」
「なっ!そんなことないから。そんなこと。なははは。」
「柏木、今日の部活はお前だけ筋トレ4倍な。」
「な、ちょ、先生、それは勘弁してくださいよ!!」
荻原に必死に頼み込む智樹を横目に、幸成は香と話していた。
「ちょっと行ってくるわ。たぶん生徒会の件だろし。香はどうする?教室もどるか?」
「うーん。私はもう少しここにいるようにするわ。ともくんをほっとくわけにはいかないし。」
「ほほぅ。案外ちゃんと彼女してますなぁ~」
茶化されて怒る香から逃げるように、幸成は職員室へ向かった。
「失礼しましたー」
幸成が職員室の前に来ると丁度中から女子生徒が一人出てきた。
『なんだこいつ。語尾を延ばしてやけにやる気なさそうなヤツだな。』とか思っていると、あくびをしながら近づいてきた。
すれ違いざまに足元にあった箱に足をとられ、幸成の方へ倒れてきた。あくびで前を見てなかったのだろう。倒れてきた女子生徒を幸成はよけ、倒れるのをただ見ていた。
倒れた女子はのっそりと起き上がると、こちら気づかずに去ってしまった。
「何だったんだ、今のやつは?」
幸成は首をかしげながら職員室へと向かった。
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「失礼します。」
職員室に入ると荒巻がせっせと書類を書いていた。
幸成がそばに行くと、荒巻は少し待てとジェスチャーした。そのまま待っていると、書類を持って立ち上がった。
「書類を提出してくるから少し待っててほしい。先に会議室に入って待っててくれ。」
職員室には小さな会議室が3つある。名称が会議室なだけで中は4人程度しか入れない狭い空間である。通常は業者などとの打ち合わせなどで使われ、時々、生徒指導の説教部屋として使われる。生徒たちからは取調室と呼ばれている。
そこに通された幸成は、他の生徒のように慌てることはなかった。生徒会の関係でよくここに通されることがあるからだ。
少したってから、荒巻がやってきた。
「ごめんごめん。いやぁ、遅刻した生徒が来てな、遅刻届の処理で時間とられちまったよ。」
荒巻はハンカチで汗を拭いながらグチをこぼした。
汗を拭ききると、「さて、本題に入ろうか。」と言い、持っていた手帳をペラペラと開きだした。
「えーと、用件は今日の生徒会会議の件です。連絡事項は3つ。1つめ、次の生徒会長選挙が12月にあるので、準備を開始してください。2つ目、予定通り、来週末の長北高校との合同会議は予定通り行います。10時に現地集合です。最後に3つ目、今日から新入部員が来ます。ま、仲良くしてやってくれ。以上。」
幸成は言われたことを自分の手帳にメモをしていた。メモを終えると、質問をした。
「先に言いたいことはたくさんありますが、とりあえず新入部員ってどんな人ですか?」
「あぁ、2年生の女子だ。4月に転校してきたんだが、担任からの推薦でぜひにと言うことだ。まぁ仕事については、会長があれだから、うん、まぁ、大丈夫だろう。」
幸成はあからさまに嫌な顔をした。
「先生?仕事しない人をこれ以上生徒会に入れないでくださいよ。ただでさえ、生徒会長が仕事しないんで困ってるんですよ。」
「まぁ会長選挙で選ばれちゃったから、仕方が無いんじゃないかな?」
「先生がそういう態度だから、いつまでたっても会長が自立しないんですよ。だいたい、なんで執行役員の俺が会議の連絡事項を聞きに来ないといけないんですか?」
「それはあれだよ!めんどうな仕事は下っ端がやるのが社会の常識だろ?それになにより、あの生徒会長に話してちゃんとすると思うか?」
「確かに。」
幸成は即答し、ふたりは声をあげて笑った。
「いいか!こんな感じの問題はセンター試験では全て計算する必要はない。ある程度分かれば答えは全て分かる。よく途中式を書いたり、最後まで計算してしまって時間が無くなる人がいる。最初に問題の全体を見渡し、どこまで解けばよいかを想像する。で、必要な部分のみ計算する。それがセンター試験の賢いやり方だ。」
教壇に立ち、生徒たちに計算問題の解説を行っている。教師と言うのは多くが熱心に教えてくれるものだ。多少人によって違いはあるが、とにかく生徒たちのことを思っている。
教室の中を見渡してみるとなかなか面白いものだ。ある生徒は教師の話を必死に聞き、メモを取る。またある生徒は聞き流し、別の問題を解いてみたり、教科書を適当にめくってみたりする。またある生徒は寝息をたて、気持ちよさそうに寝ている。6限ともなると大概疲れ切っている。
そんな中でも、やはりがんばって起きておく、生徒の見本として意識するのが生徒会長である。どんなに疲れていても、自分だけはとがんばって模範的な行動をするものである。
そう、この学校の生徒会長であり、私の高校からの親友でもある中川美香は、クラスの中でただ一人、この授業中に寝息を立てて寝ている生徒である。うちの生徒会長は反面教師として、絵に描いたような生徒会長である。
「もしどうしても答えが分からない時は、適当に数字を入れてみて計算することだ。センターでは答えの桁が必ず分かっている。それを元にしたら案外単純に分かるものだ。だーかーらー、今こうやって授業中に寝息立ててるやつでも、すぐに問題が解ける。担任の授業くらいちゃんと来てろ。起きろ!中川!」
前川は手に持っていた教科書を丸めて、中川の頭を力いっぱいにたたいた。美香はすぐに目を覚まし、あたりを見渡した。そして前川が頭をたたいたことを分かると、顔をムスっとした。
「先生、生徒の、しかも女子の頭を教科書で叩くとか、教師として、男としてどうなんで「お前は生徒会長としてどうなんだよ」」
美香の文句をねじ伏せるかのように文句を言い返した。
「文句はいいから、次の問題といてみろ。」
「えー。どこですか?」
ペラペラと教科書をめくりながら、めんどくさそうに質問をした美香を、前川はため息をつき、あきれ果てたように言った。
「前を見ろ。前に問題が書いてあるだろ。」
「あ、はーい。」
またまためんどくさそうに返事をし、問題を解くために黒板の方へ向かった。
5分がたっただろうか?そこまで難しい問題ではないはずだが、全く手が動いていない。
「中川、なぜ手が動かない?」
「え、えっと。腕が疲れてて・・・。あ、はははは。」
「はははは。」
2人が揃って笑っているが、美香の笑顔は引きつり、前川の目は笑っていない。
「中川、お前・・・「キーンコーンカーンコーン」」
「あ、チャイムだ。」
生徒たちが教科書やノートを片付けだした。
「仕方がない、今日はここまで。中川はこの問題を次の授業までに完璧に解いておくこと。以上。」
美香はため息をつき、席へと戻っていった。そこへ帰り支度を整えた真由子がやってきた。
「まゆこ~たすけて~」
美香は涙を浮かべながら真由子にしがみついた。それを慣れた手つきで宥める真由子。
「わかった、わかった。でも今日は早くいこうね!」
「早く行ってどうするの?まだ時間あるじゃん。ゆっくりしてから行こうよ。」
「何言ってんのよ。今日は新入部員がくるんでしょ?幸成君から連絡来てたじゃん。なら早く行って準備しとかないと。」
「あ、そうか。あーぁ。しょうがない。行くか~。よいしょっと」
美香は文字通り、重い腰を上げ、帰り支度を整えだした。ちなみに美香の体重は平均的であり、別に重量級ではない。
「美香、「よいしょっ」て年寄りくさいよ。また肥えたんじゃないの?」
「なによ真由子!どこがどう太ったっていうのよ!」
「気のせいならいいのよ!ふふふ。」
「もう、なによ!ちょっと!」
真由子を追うようにして美香も出ていった。