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パンチラと神  作者: 橋沢高広
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【第6回】

 

(何という話だ……)と、俺は呆れ返りながら、東雲しののめと、その隣に座った胡桃くるみを見る。その顔には屈託のない笑顔が浮かんでいた。

 東雲の口が開く。

「胡桃ちゃんは、『ご主人様』と呼べる人が欲しいんだけど、私じゃ、その呼び方、おかしいのよね。『ご主人様』といえば、やはり男。勇介は、この家に遊びに来る機会も多そうだから、その時だけ、『ご主人様』と呼ばせてくれないかな……」

 間髪を入れずに、胡桃が、「お願いします」と言って、軽く頭を下げた後、俺の顔を凝視する。

(その上目遣い……、可愛い!)

 次の瞬間、俺の妄想が爆発した。


― 東雲の部屋へ遊びに来ていた時、彼女は何だかの理由で、この部屋から離れる。ここにいるのは俺とアニメ風のメイド服を着た胡桃だけ。

 彼女は、「隣に座っても良いですか?」と、甘えた声で告げる。俺は、それを了承した。

「ご主人様、有難う御座います」と言いながら俺の横に座り、〈はにかみ〉の表情を浮かべる。背が比較的小さい……、身長として、間違いなく一五〇センチない彼女は、座った状態で俺の顔を見る際、必然的に上目遣いとなった。そして、その柔らかそうな唇から言葉が紡がれる。

「ご主人様……、好きなんです……」 ―


「勇介!」という東雲の言葉で俺は我に返った。

「まぁ、そういう希望なら、『ここだけ』という条件で……」と、俺は極力冷静な〈振り〉をしながら、そう答えたが、心臓は高鳴っている。

 満面の笑みを浮かべた胡桃の、「有難う御座います、ご主人様!」という声に俺の心拍数は更に上がった。

(うわー、なんて、楽しい世界……、いや、面倒臭い世界に引きずり込まれたかも……)と思いつつ、込み上げて来る微笑みを必死になって抑え込んだ。


 ※


 翌日。まだ本格的ではなかったが、俺達の高校生活が実質的にスタートする。

 俺は中学生時代の同級生が、この学校にいない為、孤立する事は覚悟していた。しかし、その懸念は払拭される一方、特に男子生徒からは敵意の視線を浴びる様になる。

 冷静にクラスメイトを見渡すと、女子生徒に関しては、かなりの〈綺麗処〉が集まっていた。その中でも、俺の心を鷲掴みにした名草侑紀なぐさ・ゆうきは群を抜いており、早くも男子によるファンクラブが出来そうな雰囲気である。

 侑紀は中学生時代からの友達……、いや、親友関係を築いていた東雲と一緒に行動する事が多い様だ。また、侑紀と比べた場合、その頻度は高くないが、胡桃も東雲と一緒にいる率が高い。

 その東雲は休み時間中、大した用もないのに俺の所へ、やって来た。

 彼女は俺に関して、「だって幼馴染みだもの! 八年振りの再会よ!」と「幼馴染み」を強調したが、それを鵜呑みにする男子生徒は、いなかった。更に、東雲は、侑紀、時には、胡桃も従え、俺の席に来る。

 一刻も早く女子生徒と上手い関係を作り、楽しい高校生活を送ろうと考えていた男子にしてみれば、俺は〈羨望〉を通り越した〈敵意〉の対象になっても不思議ではない。もし、俺が〈イケメン〉なら、男子達も多少の「諦め」をいだいたかも知れないが、俺は何の変哲もない、ただの男子高校生。その嫉妬に拍車が掛かる。

 半面、俺に近付くのは「東雲の方から」という状態であり、俺自身に対し、男子達が「何か出来る状況」でもなかった。

 一方、女子にしてみれば、「これは、面白そう」と、好奇の眼差しを向けていたのも事実だ。繰り返すが、俺が〈イケメン〉なら、また別の展開が生じたのだろう。しかし、俺を恋愛対象とする女子生徒は皆無らしく、そういう意味では「見世物」的なポジションに置かれたのは確実だった。

 男子の「敵意」、女子の「好奇」という異なった二種類の視線を浴びながら、俺は高校生活を送る羽目となったが、もう片方の当事者である、東雲、侑紀、胡桃の三人は、その様な事は意に介さず、俺の席へと、やって来る。

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