表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パンチラと神  作者: 橋沢高広
5/44

【第5回】

 この特製だと思われるメイド服に身を包んでいたのが、今日、一年一組の教室で自己紹介をした女子生徒だったからだ。

 東雲しののめは、「胡桃くるみちゃん」と、彼女に声を掛ける。

「彼が、さっき話した、鍋倉勇介」と言ってから、邪悪な微笑みを湛え、言葉を発した。

「『ご主人様』と呼びたい?」

 メイド服を着た、そのは〈はにかみ〉の表情を浮かべながら、「はい」とだけ、小さな声で応じる。

(一体、これは、どうなっているんだ?)

 妄想癖の持ち主である俺ですら、それが出来ない状況に追い込まれ始める。何しろ、色々な事が起き過ぎているのだ。

 俺は自分でも苦悩の表情を浮かべているのを充分に理解しながら、言葉を放つ。

「なぁ、東雲、お前には日常茶飯事かも知れないが、俺には初めての出来事が多く発生している。事の推移が理解出来る様に説明してくれないか?」

 その言葉に彼女が応じた。俺はメイドの恰好をした同じクラスメイトである、仁保胡桃にほ・くるみが入れた紅茶を飲みながら、東雲の話を聞く。

 それを要約すると、こんな感じだ。

 東雲の父親は事業で成功し、この家を買う。しかも、その取引先が関係して「頼まれて買った」という事だ。ここまでは俺も直ぐに理解する。

 彼女の父親は事業を拡大し、成功を収める一方、その競争に負けたライバル会社も多数存在した。その中に胡桃の父親が社長を務める会社もあったのだ。その上、双方の会社は長らくライバル関係を続け、「好敵手」という存在でもあったらしい。しかも、東雲と胡桃は同じ小学校に通っていた。皮肉にも親はライバル、子は親友という関係を築いていたのである。

 結果的に胡桃の父親が経営する会社が倒産した際、仁保家から、東雲の父親に打診があった。

「うちの娘を預かってくれないか?」と。

 東雲と胡桃が親友という事を知っていた彼女の父親は、胡桃を預かる事にする。二人が小学校六年生の秋だった。

 俺は、ここまでの経緯も理解する。そして、ここから、妙な方向へと話が進んで行く。

 胡桃は東雲と同じ公立の中学校へ進学した。この頃になると、胡桃はアニメの世界にはまり出す。だが、彼女としては、宮野家に〈預けられている身〉。衣食住は保証されていた様なものだが、〈遊ぶ金〉までは自由にならない。

 ここで彼女の天性が発揮される事になった。それが「洋裁」である。

 縫物が好きだった胡桃は当初、クラスの女子から布の切れ端を譲り受け、それでパッチワーク作りに励んでいたが、その繊細な〈針使い〉に東雲の母親が才能を見出し、洋裁教室での講師経験者を家庭教師として彼女に付けてしまう。

 衣服に多大なる関心を持っていたという東雲の母親にしてみれば、東雲自身に、その才能を見出したかったのだが、それは彼女が小学校五年生の時に諦めたという。家庭科の授業で行った「袋作り」の袋を見て、「この子に針仕事の才能は、ない」と痛感したらしい。そこに、その才能を持った子供が現れたのだ。母親の喜び方は半端でなかったと聞かされる。

 それまで宮野家としては、東雲も胡桃も「実の子」として、分け隔たりなく養育していた。しかし、この瞬間から教育という面で母親は、その軸足を胡桃に傾けてしまう。その事自体、東雲は余り気にしなかったとも言った。

 この頃から、胡桃は独特の世界観を持つ様になる。

(コスプレ衣装が自分で作れるかも知れない。しかも、オリジナルの!)

 胡桃にしてみれば、「自分は預けられた身」という意識が強く、物事に対して積極的に、なれなかったらしいが、これを機に彼女は「自らの道」を歩み出す。そして、その先にあった〈夢〉が「アニメ風のメイド」だったのだ。

 ここからは少し面倒な話になるので割愛するが、結局、二人は、それまで使っていなかった〈離れ〉で生活し始める。浴室は母屋にしかない為、そちらを利用したが、離れにあるトイレは共用であるものの、一階部分を東雲が、二階部分を胡桃が使用した。

 二人は、この離れにいる時だけ、「女主人とメイド」というシチュエーションで生活する様になる。それは胡桃の夢であり、東雲も、それが気に行ってしまったのだ。

 時は流れ、東雲も胡桃も大歳高校の生徒となった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ