【第42回】
「それ、買い被り過ぎ。俺も健全な男子だ。エロい話には多大な興味を持っている。だが、普通の男子なら、女子の前で、この手の話をしないだろうが、目の前に東雲がいると、つい、その箍が緩んでしまうんだ。まぁ、幼馴染みの上、ファーストキスの相手だし……」
ここで東雲が口を挟む。
「しかも、かなり濃厚なキス。これまでの人生という範囲なら、唇を吸われたのも、そして、吸ったのも勇介だけなんだから!」
その言葉を聞いた侑紀は微笑んだが、胡桃の顔には困惑の表情が浮かんでいる。
それに気付いた東雲が胡桃に対して、「どうしたの?」と尋ねた。それに彼女が答える。
「でも、皆さんは私の真実を知ってしまいました。『彼女』という、人間に相当な影響力を与えられる存在と一緒にいる私とは、今まで通りに……」
俺は、ここで口を挟む。
「東雲や侑紀が、どう考えるのかは知らないが、俺にとって、それは『些細な事象』の様にしか思えないんだ」
「ご主人様、それは、どういう意味ですか?」
その顔から困惑が消え、驚愕へと変わった胡桃は少し大きめの声で、そう問い掛ける。
それに俺は応じた。
「客観的に捉えた場合、現在、胡桃が置かれた状況は、『通常のものでない』のは確かだ。だが、不思議なもので、『それって、重要な事なのか?』という考えが俺自身を支配している。
実は、この感覚に関して、『神が、そうさせているのか?』とも思ったが、これは胡桃と神との関係を思い付いた瞬間から感じているものだ。
東雲のスカートが見え隠れしていたパンツに関して、興奮を得なくなった時の様に神は〈素早い対応〉が出来るのは間違いないだろう。しかし、俺が胡桃と神との関係に気付いたのは俺の実家……、もちろん、一人の時だ。神が俺の傍にいたとは考えられない。そうなると、この感覚は『俺の中から発生した』とするのが妥当だ。
一方、俺にとって、神の存在意義は大きい。何しろ、人に絶大なる影響を与えられるからな。
ここで東雲に一つ質問したいのだが、俺の記憶に間違いがなければ、お前は侑紀に対して、『私は侑紀に苦痛を一切、与えず、殺す事が出来るわ』や、『『ヒト』の中には、殺しても問題がない連中が数多く、いるんだ』と言った筈だ。その発言内容が余りにも過激だった為、覚えているのだが、間違いないな?」
東雲にも困惑の表情が浮かぶ。そして、呟く様に話し始めた。
「その言葉、私も覚えている。でも、それって、本心じゃないんだ。私としては、『神に言わされた』という感覚なの……」
侑紀が東雲の言葉を遮る。
「私自身、その話を東雲から聞いた時、『この娘、何、言っているの!』と思いつつ、物凄く心が揺さ振られたのよ。この瞬間、私の中で〈何か〉が動いたのも事実。だから、『それ、面白そう』と、考えたに違いないわ。でも、後々……、私が神の存在を肯定する様になってから、『あれって、東雲の本心じゃ、なかったかも……』と、思い始めたんだ。それ以後、東雲は過激な発言をしていないから……」
俺は東雲と侑紀の顔を見てから、一度、大きく頷き、話を始める。
「おそらく、そんな処じゃないかと俺も考えていたんだ。だが、一連の動きを冷静に見てみると、神は、かなり細やかな心理操作を『ヒト』に行っていると感じた。何故なら、確かに過激な発言もあったが、それにより、東雲も侑紀も、そして、胡桃も〈傷付いて〉いない点が挙げられる……」
「それは言えるわね……」と言ってから、侑紀が言葉を続けた。
「私の場合、東雲の話……、かなり過激な内容だったけど、それが切っ掛けで心が軽くなったのも事実。もちろん、心理操作という点で神が関与しているのは間違いないと思うけど、あの言葉があったからこそ、私、神の存在に興味を持った訳だし……」
ここで俺は口を挟んだ。
「結論を言ってしまえば、神は友達が欲しかった。そして、胡桃という友を得る。しかも、胡桃には東雲という友達もいた。更に侑紀が、これに加わる。神の立場からすれば、この二人を邪険に扱えない。もし、そうしてしまえば、胡桃が神を嫌う事態へと発展する可能性もあるからだ。そうならない為にも、神は神なりに気を使って東雲と侑紀に接しようとしても不思議ではない」




