【第41回】
俺の話が終わった後、東雲の部屋は重苦しい静寂に包まれる。時間にして一分程度であったが、俺を含む全員が〈長い時間〉と感じていた筈だ。
その沈黙を破ったのは胡桃である。
「私は、これまで生きて来て、『怖い』と思った人が何人もいます。その中には物理的な暴力を振るう人もいましたし、精神的に追い詰める人もいました。でも、その誰よりも、ご主人様を『怖い人』だと痛感しています。まさか、『彼女との関係』を、ここまで的確に〈読める人〉とは夢にも思いませんでした」
胡桃の言葉が止まってから少しして、侑紀が声を発する。
「私も今、背筋に冷たいものが走っているわ。もちろん、実際に汗をかいている訳じゃない……。どうして、そこまで考える事が出来たの? 勇介は、『妄想』と言い続けているけど、もう、それは妄想の域を脱しているわよ!」
「どうなんだろう……」と言ってから、俺は続きを話す。
「東雲が『神の話』をした際、『ある人物を探していた』と言っている。その時、『かなり自由な発想が出来る人を求めていたんだ』と告げたが、それを聞いた瞬間、(その『ある人物』が俺だな)と考えていた。何故なら『シミュレーションをする場合』は、別だが、物事の順番なんて関係なく、色々と想像してみるんだ。それは正に『自由な発想』だろう。その一つ一つを『点』とした場合、何かの切っ掛けがあって、点と点が『線』で結ばれる事がある。それを大切にしつつ。『点』としてしか存在しなかったものは『切り捨てる』から、自分の中で『何か』が見えた時、一気に具象化するんじゃないかな」
ここで東雲が口を挟む。
「『点』が二つあり、それが『線』で結ばれると、新たな発想が生まれる。その『点』が三つあり、各々が『線』で結ばれると、そこには単なる『線』だけではなく、『面』が存在している事に気付く……。そんな処?」
俺は感心した表情を浮かべながら、「東雲にしては、上手い事、言うな」と告げる。
「『東雲にしては』って、どういう意味!」と東雲は、その顔に怒りの表情を浮かべ、そう言ったが、侑紀も、「東雲にしては上手い表現だと思う」と、俺の意見を追認した。
「侑紀にまで、そう言われるとは……」という言葉に侑紀が、「これって、褒め言葉よ」と応じる。次の瞬間、東雲の表情から怒りが消え、嬉しそうにしながら、「そういう意味なら、いいんだけどね」と呟く。
(単純な奴……)と思いながら、俺は胡桃に視線を向けた。その顔には、まだ恐怖感が残っている。
(この件、早く片付けた方が良いな)と判断した俺は、胡桃に対して言葉を発した。
「その全てではないが、俺は胡桃に憑依している意識体の行動や考えを『読める存在』という事になる。『そういう人間って、かなり、怖いよね……』と言ったが、これって、本当に『怖い話』だと思う。半面、それを正確に理解してくれるのなら、『最強の友』を得たんじゃないかな。まぁ、俺が本当に、そういう存在なのか、どうかは知らないが……」
それに反応したのは東雲である。
「勇介が言っている意味、解らない!」
一方、侑紀は、「そういう事ね……」と言いながら、微笑みを浮かべる。そして、話し始めた。
「人には、他人に知られたくない事柄が多数存在する。私の場合、伯母の再婚相手……、『あいつ』がそう。私、それを〈暗に〉だけど勇介にした。成り行き上、『そうしなければ、ならない状況』という側面もあったけど、その話をする時、内心、物凄い不安感を覚えていたんだ。でも、勇介が、『その話は、しなくていい』と、強い口調で言った時、(私の事、全て理解している!)という感覚を得たの。同時に心の中で安心感が広がって行ったわ。東雲が勇介に対して、抱いている安心感の一端を理解した様な気にもなった。そして、何よりも、(新しい味方を得た!)と思ったの……」
ここで胡桃が口を挟んだ。
「私も一瞬でしたが、そう思ったんです。でも、恐怖感の方が強かった……」
その言葉に対して、侑紀は微笑みながら、続きを話す。
「勇介って、私達の前ではエロい話を平気でするけど、それって、『心遣い』じゃないかと思い始めたんだ。〈重い内容〉を話題にし続けると、それに集中する事が難しくなる。でも、勇介は、そういう時、『エロい話』を上手く使うんだよね。実は私、感心している程なんだ」と言ってから、俺の顔を見た。




