【第36回】
「それも正論ね」と、侑紀が声を発し、東雲は黙ったままだったが、何度も頷いている。
一方、胡桃は黙って俺の話を聞いているだけだった。その顔には何の表情も浮かんでいない。まるで能面の様である。
「ゲームとして成立しない状態を続けるには、それなりの理由がある筈だ。俺は、それも考えてみたが、何も思い浮かばない。それならば、一度、『東雲の話は全部嘘だ』と、視点の変更を行い、妄想を続けた。そうしたら、発想の転換に成功してしまう」
「『発想の転換』って?」という東雲の言葉に俺は応じる。
「まず、俺が考えたのは、『神の存在は容認しよう』という事だった。実際に俺と東雲、侑紀との間には『心理的な壁』が築かれ、恋愛感情だけではなく、性欲も奪われてしまう。ここで一つ付け加えるのなら、さっきから、東雲の短いスカートからパンツが見え隠れしているが、俺は全く気にならない。神は、この件に関して早々に対応したと考えている」
「えっ、そうなの!」と、東雲が驚きの声を発する一方、侑紀は、「仕事が早いわね……」と、その顔に冷笑を湛えた。俺も冷めたい笑みを顔に浮かべ、続きを話す。
「この事実からも『神の存在』は、認めなければ、ならないだろう。一方、神が言ったという話には矛盾点が多過ぎる。だから、俺は、それらを『嘘』と割り切った。そこで語られる、『この宇宙は知的生命体が住む星が多数存在するの。もちろん、海がある地球型の惑星もあるし、地球型ではなくても、知的生命体が暮らしている星もあるわ』という東雲の話も『全て嘘』とした。こうする事により、俺が考えなければ、ならない論点の整理が出来る。それは同時に妄想を『遣り易くさせる』という効果も持っていた。余分な話を考慮に入れなくても済むからだ」
ここで侑紀が口を挟む。
「勇介は『妄想』という言い方をしているけど、かなり理論的な思考展開をしているのね」
感心した表情を浮かべ、彼女が、そう呟く。
「それが俺の特徴かも知れない。だが、根拠が明らかでない主観的な判断を基にしているから、正確ではないかも知れないが、『妄想』という言葉が適切だと考えているんだ」と応じてから、話を先に進める。
「もちろん、『神が行っているゲーム』も『嘘』とした。一方、そうした場合、『神の存在意義』そのものも消滅してしまう。だが、神自体は『存在』する。つまり、神は存在するが、『何もしていない』という結論が得られるという訳だ」
「何だか、よく解らないなぁ……」と呟いた、東雲の顔には困惑の表情しか浮かんでいない。侑紀も、「確かに、解った様な、解らない様な……」という東雲と同意見の言葉を発した後、黙ってしまう。
「俺が導き出した結論を説明すると、こうなる」と告げ、それを話した。
「俺は東雲達が使った『神』という呼び方を敢えて、そのまま使用したが、その存在を『神』とは捉えていない。半面、本来、人間にはない『特殊能力』を持っているのも事実だ。
自らを『神』と名乗った『何か』は、自分の存在意義を理解していないが、人間に対し、その能力を発揮出来る事は承知していた。しかも、人間に対して、己の存在を伝える必要に迫られた時、一番、理解され易いと思われた『神』という言葉を使い自己紹介する。その一方、『その存在意義』を人間側に伝え様とした時、それを理解していない神は『嘘を語る』事しか出来なかったと解釈した。
これは俺の推測に過ぎないのだが、『神』を名乗った『何か』……、おそらく実体を持たない『意識体』……、まぁ、『魂』とか『霊』と呼ばれる様な存在と認識して貰って構わないが、これは非常に珍しい存在と捉える。たぶん、『仲間』と呼べるものは近くにおらず、かなり寂しい生活を送っていたと推測した。だから、友達が欲しい。でも、自分と同じ存在は周囲にいない。
これも、妄想の域を出ないが、この意識体は自らと相性が良い人間に近付き、憑依してしまう。その際、この意識体は強制的に人間へ『取り憑く』のではなく、自分の存在を明かした上で『憑依させて貰っている』様な気がしてならない。つまり、意識体と関係を持った人間は、その存在を理解した上で一緒に行動していると考えたんだ。
こういう言い方が変なのは承知しているが、意識体として人間を友達に出来れば、その人間を通して、別の人間と友達になれるかも知れない。その数は少なくても構わないが、信頼出来る人間と友達になれれば、自らの寂しさも解消する。
この推論が的を射ているのなら、神と関係を持つ様になった人間が近い場所にいる理由にもなるんだ。東雲や侑紀の様に……」




