【第32回】
「俺は『妄想』に徹した。つまり、記憶に残っている東雲の下着姿を『何の脈絡もない状態』で想起する。
ここで一つ説明を加えると、これがシミュレーションなら、『東雲を下着姿にするまでの過程』も考えなければ、ならないが、これは『妄想』だ。その点は敢えて無視する。
もちろん、俺と東雲との間には『心理的な壁』があるから、俺は興奮状態に陥らない。この状況を打破する為には、東雲を裸にする必要があった。
この時、その姿を鮮明に想像しなくても構わない。『東雲は裸!』と、自分が納得出来れば、いいんだ。
ところが、俺は自分でも驚く程、簡単に東雲の裸を想像してしまう。はっきり言って、鮮明ではなかったが……。それでも、俺は興奮しない。
『それならば!』と、俺は裸の東雲に色々なポーズをさせてみた。その中には、『これは、遣り過ぎだろう』というものも含まれていたが、それも無駄な努力に終わる……」
「それって、かなり屈辱的よね!」と、東雲が口を挟んだ。
俺は東雲を裸にし、「遣り過ぎだろう」と言ったポーズを想像した事への非難だと理解する。だが、彼女の本心は違っていた。
「私を裸にして、エロいポーズを想像したにも関わらず、興奮しないって、どういう意味? いくら『心理的な壁』が存在するとは言っても、妄想の中で私は勇介の言い成りになって……、つまり、あんたが興奮出来る筈の状況を作っておきながら、そうならないのは、私に対する屈辱だわ!」
東雲の顔は少し紅潮していたが、それは羞恥ではなく、怒りが要因なのは明白であった。
(あれ、こいつ、こっちに喰い付いた!)と思いつつも、(それも正論だろう)と納得する。
「だが、俺は……」と言って、言葉を続けた。
「この妄想を通して、一つの事実に気付く。この中で東雲は俺の『命令通り』に動いた。どんなポーズも文句一つ言わずに……。だが、これって、『操り人形』に過ぎないんじゃ、ないかと思える様になったんだ」
「操り人形って、どういう意味?」と尋ねたのは、侑紀である。
その問いに俺は答えた。
「端的に言ってしまえば、『東雲は自分の意思で動いていない』んだ。もちろん、これは俺の妄想だから、東雲を『動かそう』とした時、その全てに俺の意思が関与するのだが、疑似的に『これは東雲の意思』という設定をしつつ、東雲に『動いて貰う』という訳だ」
ここで東雲が口を挟んだ。
「勇介の言っている意味が、今一つ、解らない」
「それなら、一つ例を挙げよう」と告げ、その先を話す。
「今、東雲は下着姿だとする。俺の目的は、その状態から裸……、つまり、下着を脱いで貰う事だ。俺の妄想では、その『脱ぐ』という行為は省かれ、いきなり裸の東雲が現れた。半面、これでも俺の目的は達せられたと言えよう。ところが、これでは〈面白味〉がない。そこで『下着を脱いで貰う』というシーンを追加する。しかし、東雲が俺の命令通りに淡々と下着を脱いだら……」
「そうか、『操り人形』って、そういう意味ね!」と、東雲は声を発し、そのまま言葉を続けた。
「もし、これが現実のシチュエーションなら、私が、『馬鹿! 下着は脱がないわよ!』とか、『勇介が望むなら、恥ずかしいけど、裸、見せてあげる』という『私のアクション』が存在する筈よね。その時、私と勇介の間で何だかの『駆け引き』が発生する。それがあるから、『次は、どうしようか?』という展開が生じるんだけど、それが、なければ……、私が勇介の命令通りに動く『操り人形』なら、事態が淡々と進んで行くだけ。確かに、〈面白味〉には欠けるわね。これは……」
「なるほど……」と、侑紀も納得の声を上げた。
「俺が東雲を使ってエロいシーンを想像しても、興奮しない理由が、ここにある。しかも、神は、『東雲にアクションをさせない』という方法を使い、エロいシーンを想像しても、『面白くないもの』に、していたんだ。もちろん、『心理的な壁』を作り、俺と東雲との間から恋愛感情を奪い取って、男女の関係にならない様にしているが、それでも、エロいシーンを想像した時の対処すら、していたという訳だ」
「かなり、用意周到よね。それって……」という、東雲の声に侑紀が黙ったまま頷く。




