【第31回】
「最後に俺だ。俺自身、東雲とは幼馴染みという関係だが、八年間、音信不通状態であったのも事実。更に、神と関係が持てる存在として、東雲に俺を紹介するのは、大歳学園の理事長だった。結果として俺は東雲の力添えがあり、神と関係を持つ事になったが、東雲が直接俺と神とを結び付けた訳ではない」
「それは言えるわね……」と、呟いた侑紀の声を敢えて無視し、俺は言葉を続ける。
「東雲の話を踏襲した場合、神が俺に求めている資質は『人類を生存させる為の方策を考えられる人間』の筈だ。しかし、俺が本当に、その資質を持っているのか、どうか、神は見極め様として、『今は何もしない』という行動に出たと考える。だが、俺は、ここで不思議な事態に気付いたんだ」
「何に気付いたの?」と発した東雲の声に、「先に謝っておく……」と、東雲に告げ、「俺、夏休みの後半、お前を使って、エロいシーンを想像し捲ったんだ」と付け加えた。
東雲の顔が一瞬、紅潮し、羞恥と共に若干の怒り……、これは〈形だけ〉と俺は受け取ったが、それと一緒に好奇の表情を浮かべる。しかし、それは直ぐに治まった。
その時、昼食の片付けを終えた胡桃が、ソファに座る俺達の前にソーサーとティーカップを置き、そこにティーポットから紅茶を注いだ。それが終わるのと同時に彼女は定位置となった〈自分の場所〉に座る。
それを確認した東雲が疑問を呈した。
「あれ? 勇介と私……、これは侑紀もそうだけど、神が作った『心理的な壁』があるから、それは出来ない筈よね?」
俺は、その問いに答える。
「それを承知で敢えて、行ってみたんだ。その理由を先に説明すると、俺は『博愛主義者』ではない。ましてや、『人類の生存』にも興味は、なかった……、いや、どちらかと言えば、『人類を破滅させるには、どうしたら良いか?』を考える方が楽しかったんだ。もちろん、これは俺の妄想癖が起因した、『if』という範囲での『思考的お遊び』の範疇を超えていないが……」
ここで侑紀が口を挟む。
「もしかして、勇介は私と考えが近いの?」
「さぁ、それは何とも言えない。ただ、妄想……、ここはシミュレーションと言い換えた方が正確かも知れないが、『生存させる方策』よりも、『破滅させる方策』を考えた方が楽しいんだ。不謹慎と言われれば、それまでかも知れないが、『破滅』の方が色々な場面が想定出来る。いや、最終的に『生存』を考える場合でも、まず、その『生存が脅かされる事態』を設定しなければ、『生存そのもの』を考えられない。つまり、シミュレーションという点で言えば、『生存』は『破滅』という要因が必要となる訳だ。もちろん、純粋に『生存』だけを考える事も出来るだろうが、それは俺にとって難しいのも事実……」
「そうか、そういう考え方ね……」と言って、侑紀は俺の顔を見た。そこには当惑の表情が浮かんでいる。俺は、その理由を察知した。
侑紀の場合、伯母の再婚相手……、義理の伯父に対して憎悪の念を抱いた。その憎悪を人類にも当て嵌める事も可能だろう。しかし、俺の場合、その『憎悪』が関与していない。純粋に『人類滅亡』をシミュレーションしているのだ。自分とは異なる立場で『破滅』を考えている俺に対して、戸惑いを覚えても不思議ではない。
「話を元に戻すと……」と告げ、言葉を続ける。
「俺は『生存』担当の神と関係を持った筈だ。しかし、俺自身、『破滅』を考える方が楽なのは今、言った通り。つまり、神が求める資質と、俺が持つ資質とが異なっている。もちろん、神も、その点に気付いているだろう。そこで俺は、わざと神の意思に反する行為をしようと考えたんだ。それが、東雲を使ったエロいシーンとなる」
「どうして、ここで、その場面が必要になるの?」という東雲の質問に俺は答えた。
「『心理的な壁』が存在する為、俺は東雲とのエロいシーンは想像出来ない。これは以前、行っているから、実証済み。俺は妄想の中で東雲の下着を脱がそうとしたが、(何故、俺は、こんな事、考えているんだろう?)という疑問が湧き、そこでエロという意味での興味が潰えてしまう話は以前している。しかし、敢えて、それを行う事によって、『俺は神に挑戦する意思がある』と明示しようとしたんだ」
「それで、どうなったの?」と、聞いたのは侑紀である。俺は彼女に視線を向け、尋ねた。
「侑紀は、この手の話、大丈夫なのか? 心に傷があると思うのだが……」
その問いに侑紀が応じる。
「自分自身の件に関して、かなりの整理が出来ているのよ。それは、『あいつ』が死んだという理由もあるだろうけど、おそらく、神が私に対して精神的な操作を行っているのは間違いないと思う。私や東雲と勇介との間に作られた『心理的な壁』と同じ様に……。まぁ、元々、エロい話は好きじゃないけど、しても大丈夫よ」
「そうか、なら、続けさせて貰おう……」と言った途端、東雲の顔に再度、好奇の表情が浮かぶ。その瞳も輝いていた。
(こいつは……)と思いながら、その先を俺は語る。




